第三章 38話 戦場作法と褒美
1550年8月1日続き
中尾城に入った俺たちはそのまま広めの庭へ。
そこに床几が置かれた。
もちろん座るのは義藤様だけ。
周りには幕臣たちがずらりと立っている。
俺たちは地面に膝をついた。
殿中の作法知らないから助かった。
義藤「面を上げよ。この度は大義であった。その方たちのお陰で我が命助かったぞ。」
顔上げていいのか?答えていいのか?どうしたらいいんだ?
さっき顔見たし返事もしちゃったけど。どうしたらいいんだ?
義藤「ここは戦場じゃ。直答を許すぞ。面も本当に上げてよい。先ほど余の顔もすでに見たであろう。」
義藤様が笑って言ってくれたことで、少し場が和んだ。
あ、いい人だ。
同時に、戦場じゃなければダメだということもわかった。殿中法度みたいなのがあるのかな?
気を付けよう。
松若丸「ハッ。お褒めのお言葉を頂戴しありがたき幸せにございます。」
義藤「大峰松若丸といったか?どこの者じゃ?」
松若丸「ハッ。信濃水内群大峰の大峰民部大輔が嫡男、大峰松若丸にございます。」
義藤「聞かぬ名じゃな。信濃から参ったか。ここには如何なる用で来たのじゃ?」
松若丸「ハッ。京には、将軍様に拝謁を賜り、我が領内で作っている品物や金子を献上できればと参りました。」
義藤「そうであったか。近頃には聞かぬ良い心掛けじゃ。感謝致すぞ。」
松若丸「ハッ。しかしながら本日はお持ちしておりませぬ。後日お持ちしてもよろしいでしょうか?」
義藤「よい。が、今はどこに置いてあるのじゃ?」
松若丸「当家の御用商人の京の店に置いております。」
義藤「そうか。では、家臣をそこに遣わし持って来させるがよい。松若丸は、しばらく三好との間が落ち着くまでここにいてくれないだろうか?そちは頼りになる。」
松若丸「ハッ。畏まりました。ありがとうございます。」
義藤「いてくれるか。感謝するぞ。その間は城内の長屋を用意させよう。そちの家臣たちにも用意させる。」
松若丸「ありがとうございます。」
幕臣たちは嫌な顔をしているが、今日の勝利は間違いなく我々のおかげであり、我々がいなくなると、また三好に襲われる可能性があるため、何も言えない。
義藤「それにしても本日は大手柄であったな。よし、首実検を行う。」
俺らも本日の功績を確認してもらった。
義藤「松若丸、そちの手柄が抜群じゃ。何か褒美を取らせよう。何がいいか。そうじゃ。そちは本日の戦で刀を駄目にしていたな。これを下そう。」
義藤様は差していた刀を渡してくれた。
え?マジ?天下五剣のどれかかな?
松若丸「ありがたく。」
義藤「それは余が今一番気に入っている二代目和泉守藤原兼定じゃ。九字兼定、之定と呼ばれておる。とりあえずはこれを渡そう。」
天下五剣ではなかったけど、めっちゃ嬉しい。九字兼定だよ!之定だよ!嬉しい!
松若丸「ありがとうございます!」
義藤「喜んでくれたようでよかった。これからも頼むぞ。本日はゆっくり休め。明日は謁見の間に参れ。では。」
義藤様は颯爽と立ち上がり歩いていった。
嬉しそうにしていたらしい。でも実際めっちゃ嬉しい。
その後、俺たちは長屋に案内してもらい、何人かずつ適当に分かれて部屋に入った。
井戸で汗と埃と血を流し、食事を運んできてもらった。
食事はとても質素だった。戦勝の宴なんかもないらしい。
結構困窮しているようだ。
俺が入った部屋は個室で大きかったので、ちょっとだけ俺の部屋に集まって今日の戦について話した。
新しく仕えてくれた正左衛門、作左衛門、三左衛門、市兵衛、半兵衛らは俺の武勇と指揮に感動したそうだ。
そりゃよかった。これからも頑張ってくれ。
気になったのが、ここには俺らと少しの人しかいなかった。
足軽たちは戦が終わると、すぐにいなくなるようで、城にはほとんど人がいないようだ。
これから三好家と交渉するのに兵がいなくてどうするんだ。
俺らには『交渉』があるからいいけど。
でもまた戦になったらどうするんだ。
まあなるようになるか。
皆が解散して部屋に戻った後、又兵衛と采女が帰ってきた。
又兵衛「若、戻りました。」
松若丸「お帰り。疲れてるところ悪いね。采女も。どうだった?」
又兵衛「いえ。三好勢は長岡、山崎からも撤退し、それぞればらばらに西や南に向かっていきました。軍としての機能はもう果たさないでしょう。」
松若丸「そうか。それならよかった。じゃあ今後、三好家との交渉は誰とやったらいいんだ?」
采女「それに関してはおそらく三好長慶殿が出てくるのではないかと。三好長慶殿がいる越水城に数人送っておりますので、しばしお待ちください。動きがわかり次第ご報告します。」
松若丸「ありがとう。あと、大和の多聞城か、信貴山城に松永久秀がいると思うから、そこにも見張りいれといて。近付かなくていいから。危ないし。」
采女「ハッ。」
松若丸「采女、もう一つ申し訳ないんだけど、八善屋にさ、明日持ってきてもらう金子ちょっと多めにしてって伝えてもらっていい?あと、八善屋からここまでの警護もお願い。」
采女「畏まりました。」
松若丸「又兵衛は付近の警戒をよろしく。二人とも何かあったら起こして。でも二人も休みなよ。今日もありがとう。お疲れ様。じゃ、寝るわ。」
又兵衛・采女「わかりました。ありがとうございます。」




