第三章 37話 中尾城の戦いと初めての大手柄
1550年8月1日
又兵衛「若、足利家の足軽がいよいよ動き出します。足軽の頭になっている者が出陣の命を出しています。義藤様ら幕臣は知りません。」
松若丸「そうか。では我らも行くか。先陣は秀胤、満親だ。次に源太郎、源左衛門、源四郎が続いてくれ。その次に正左衛門、作左衛門、三左衛門、市兵衛。千凛丸、長福丸、鷹千代、俺、竹千代、辰千代、忠頼、半兵衛が次。犬千代、松千代、日吉丸、小竹丸もその後に続いて。信房と村上義清が後ろを頼む。又兵衛、采女、出浦、彦右衛門は遊軍として状況見て動いて。戸隠衆は忠頼、半兵衛、日吉丸、小竹丸を頼んだよ。」
一同「ハッ。」
松若丸「では、出陣!」
荷物は甚兵衛に預かってもらっているため、身軽となった俺らは南禅寺を後にした。
忠頼、半兵衛、日吉丸、小竹丸は置いてきても良かったのだが、本人たちが行くというので戸隠衆を何人かつけるということで連れてきた。
大峰銃や、刀、槍は持っているが、甲冑は持ってきていないので平服のまま。馬も荷物と一緒に預かってもらったので、歩いている。
少し北に進むだけで戦場に近づいた。
喧騒が聞こえて来る。
松若丸「又兵衛、状況は?」
又兵衛「足利勢の足軽が思ったより崩れるのが早いです。三好勢も思ったより人数を入れています。三千程が十河一存殿を先陣にして進み、総大将の三好長逸殿も出てきています。足軽と、三好長逸殿、十河一存殿の直属の兵みたいですね。」
松若丸「そうか。細川晴元殿は?」
又兵衛「義藤様から出陣の伝令が出ているようですが動きはありません。」
松若丸「やはりか。まあ、だいたい予想通りだな。」
采女「若!義藤様が中尾城から出陣されました!十河一存殿に向かっています!」
松若丸「それは予想外だ!よし皆行くぞ!このまま北に向かって東西に伸びた三好勢の横から突っ込む!合図をしたら大峰銃を撃て!乱戦になったら二人か三人一組で戦え!特に腕に自信のない者は、とにかく自分の身を守ることを優先せよ!拠点を作りながらなるべくまとまって戦うぞ!俺の指示を聞くように!大岩衆、戸隠衆も頼んだぞ!出浦衆、蜂須賀党も外側からの援護頼む!では行くぞ!」
一同「おう!」
全速力で走る。
見えてきた。
人数多いな。
もしかして、あのきらきらした大鎧が義藤様か。あれじゃ狙ってくださいって言ってるようなもんだぞ。
今回は俺も戦うか。
上手くいくかな。
三好勢がこちらに気付いた。
よし。
松若丸「今だ!撃て!」
ズドーーーン!!
俺も撃ったが、さすが俺の小姓衆。走りながらでもずれなく俺に合わせて一度に撃ち、それも指揮をしている者を何人も討ち取った。
三好勢は動揺している。
松若丸「入るぞ!」
すぐ乱戦になった。
強い。
いや、うちの小姓衆が。
秀胤、満親が一瞬で切り崩したところを、源太郎、源左衛門、源四郎が広げた。
そこに槍を持った正左衛門、作左衛門、三左衛門、市兵衛が入り敵はすぐに崩れる。
指揮官がいないのだから当然そうなる。
俺らも入り、戦い出した。俺らはあの剣聖の弟子だ。こんな兵や足軽たちは相手にならない。
俺らが入って三好勢の陣形が崩れた。
指揮あんまいらない。
とにかく薙ぎ倒して進んでいく。
一番前の二人すごいな。
次の三人もすごい。
槍の四人は二人ずつ左右を倒しながら進む。
が、数が多い。
崩れても、次から次に人が湧いてくる。
敵の後続が義藤様を見てどんどん前に来ているようだ。
だんだん俺たちの間にも敵が入ってくるようになってきた。
総大将ではないかと思われる指揮をする声が聞こえる。近くにいるな。
そこまで前に来ているのか。
少し敵勢が持ち直した。
俺らの位置は敵の真ん中辺り。
から、段々と東に寄っている。義藤様に近づいてきている。
西から三好勢の後続に押されているようだ。
皆見える範囲にはいるから大丈夫だろう。
俺も刀で戦っている。夢中で敵を斬っている。ゲームだと思って考えないようにしよう。
この乱戦の中でも意外と冷静な自分に驚く。
結構やれるな、俺。
もう何人目かわからない程倒した。
と、その瞬間、ビュッと何かが頬を掠った。
皆それぞれ戦っているので俺を守る者はいない。
振り向くと、かなり身なりのいい甲冑を着ている。
馬に乗っていないが落馬でもしたか。
供も乱戦ではぐれたか。
まあうちの連中すごいもんな。
俺もこれ討ち取っておくか。
師匠に仕込まれた新陰流の全力を見せてやる。
一度、周りのことは忘れ、目の前だけの敵に集中する。殺気を放った。
その変化を相手は感じたのか一瞬の隙ができた。
少し腰が引け顔が上がったように見えた。
そこを見逃さず、兜と鎧の間を無理矢理突いた。
一撃。相手は何も言えず倒れた。
「殿!」
「御大将!」
敵の供が周りに群がってきた。
千凛丸「若!」
こちらも千凛丸、竹千代、辰千代、長福丸、鷹千代が追い付いてきた。
殿って、御大将って言ったか?
三好長逸か?マジか?
千凛丸「若!三好長逸殿のようですぞ!」
又兵衛と采女も追いついてきた。
又兵衛「若!三好長逸殿を討ち取られたか!」
采女「大峰松若丸が三好家大将、三好長逸殿を討ち取ったぁ!!!!」
采女が叫ぶと、周りの喧騒が一瞬静まった。
「うおー!!」
答えたのはうちの連中か。
三好勢が崩れ西に向かって退き出した。
それを馬に乗った十河一存殿と思われる者がまとめている。
が、もう敗走は免れないだろう。
十河一存殿もいっとくか?
何だかいけそうな気がする。
あの、稽古や修行の時にも時々感じる、誰にも負けない感じ。
祖父の考えたあの稽古や師匠との修行のお陰だ。
武芸百般とまではいかないが俺らはその辺の武将よりは強いだろう。
少し余裕が出てきたので又兵衛に皆を俺のところに集めさせる。
長逸殿の首は又兵衛の配下に持ってもらった。
そのまま、派手な大鎧の義藤様と思われる人のところへ移動を開始する。
義藤様を守りながら戦おう。
それを見た十河一存殿が仕掛けてきた。
長逸殿を討ち取った俺を討とうとするのか。首を取り返そうとするのか。
義藤様のところに行かせないつもりなのか。
松若丸「皆!来たぞ!」
十河一存殿の供回りと、俺の小姓衆の戦い。
十河一存殿の供も強い。多い。
でもうちの連中の敵ではなかった。
そしてちょうど流れ矢が十河一存殿に当たり、落馬した。
これはもう討ち取るしかないと思って近づいたが、でかい。めっちゃでかい。
俺も背は高い方だが、もっとでかい。横にもでかい。
再度、目の前だけの敵に集中する。
が、さすがに十河一存殿は怯まなかった。
数合、刀で打ち合ったが、力が強い。俺は強いと言ってもまだ体が出来上がっていない。
少しずつ力で押され始めた。
その時、周りで戦っていた十河一存殿の供回りと、俺の小姓衆が何かを叫んだ。
十河一存殿は一瞬そちらに気が向いた。
そこを見逃さなかった。
刀を入れる隙間がなかったので、横殴りに兜の上から刀を叩き付けた。
刀は曲がってしまったが、十河一存殿は脳震とうを起こしたらしい。
ふら付いた。
そこを更に脇差を抜いて兜と鎧の間に突き刺した。
驚いた顔をした十河一存殿。そのまま倒れた。
そこで周りの声が聞こえてきた。
「若っ!若っ!」
皆が俺を呼んでいた。
松若丸「又兵衛か!」
又兵衛「ハッ!お見事にござる!」
采女「大峰松若丸が十河一存殿を討ち取ったぞぉー!!!!」
これで指揮者がいなくなり三好勢は完全に敗走し出した。
追い打ちをかけることもできたが、逃げるに任せておいた。
足軽ばかりだから雲散霧消するだろう。
三好長逸殿はどこで亡くなるかは知らないが、十河一存殿は確かではないにしても松永久秀に毒殺されるよりはよかったんじゃないだろうか。
そこで、俺はすぐそばに派手な大鎧がいることに気付いた。
義藤「見事じゃ!」
とっさには、わからなかったが、将軍義藤様だ。
周りの小姓衆は、警戒は解かないが軽く頭を下げた。
俺も遅れて頭を下げた。
十河一存殿が気を取られたのは将軍義藤様が来たからか。
義藤様のお陰だったな。しかし、こんな乱戦の真ん中に入ってくるとは。
そういえば塚原卜伝の弟子なんだっけ?腕に自信があるからか。
義藤「松若丸とやら、そしてその家臣の者たち、見事であった。天晴れじゃ。この命そちたちのお陰で助かったぞ。首実検をするから中尾城に参れ。」
一同「ハッ。」
三好勢は完全に周りからはいなくなったが、又兵衛と采女に三好勢の様子を見てきてもらうよう頼んだ。
桂川の向こうにはまだ一万五千の軍がいる。
その後、俺たちは義藤様とその護衛の後に続き、中尾城に入った。




