第一章 2話 能力の実験
1543年3月15日続き
寺に行くと、本堂の横にある庫裏に入った。既に何人か。4歳から始めるからそれより下の子供たちはまだ参加していない。
二人もいました。4歳だけど、まあわかる。
俺が入ると、穏やかな顔の和尚様が軽く会釈。ここでは読み書きから六韜三略、簡単な算数なんかを学んでるみたい。年齢に合わせたカリキュラムで。誰が作ってるんだか。
午前中の時間が終わり、寺の下男に先導されて、みんなで武術の稽古のために館まで歩いて戻るとき、やっと二人と話ができた。
すぐ後ろに千凛丸がいるから、あまり詳しくは話せないけど。4歳だしね。
ちなみに、この時代では珍しく、大峰城の一族家臣9家は館の周りにそれぞれ家を建てて生活している。寺からそこまで歩いている。と言ってもそんなに大きな町ではないので500メートルくらい。
で、歩きながら二人との会話。
山下「いやーこれすごくない?」
中村「びっくりしたね。」
大峰「すごいびっくり。」
山下「見つけてくれた中村に感謝だわ。」
大峰「もうすでに面白いもんね。なかなか野望を体験できないよ。」
中村「これから大変そうだけどな。」
大峰・山下「確かに。」
山下「一度これからどうするか3人で話さない?」
大峰「そうね。稽古が終わったら自由らしいからじゃあその時に。」
山下・中村「了解。」
話してる間にもう着いた。近い。
稽古は刀、太刀、薙刀、槍、弓と一通りやってくらしい。あと馬術も。これも年齢に合わせたカリキュラムで。すごいね。
これもっと多くの家臣の子たちにやらせたらと千凛丸に聞いたら、そんなに家臣いないらしい。これからの課題を確認した。
稽古の後、俺の部屋で三人で丸くなって話す。
千凜丸は廊下に控えている。
中村「結構しんどいねカリキュラム。」
山下「体力ないからだろうけど、これ考えた人すごいよ。」
大峰「さっき聞いたら祖父が考えたらしいよ。先の先のことを考える人みたい。父の兄弟たちも、二人の親父さんたちもこれやってたらしい。」
山下「そうなん?親まだ話してないけど。」
中村「俺も。武家の家ってそんなもんだったって言うしね。」
大峰「まあそうか。俺もだけど。きっとみんな優秀なんでしょう。千凛丸に聞いたけど、まだみんな若いらしいよ。これからの家って感じなんじゃん。さっき武術を教えてくれたのが室賀備後守秀賢だよ。」
山下「めっちゃ強かったな!傅役も千凛丸いるのもずるくない?めっちゃ優秀やん。」
大峰「ハハ、殿様だからね。これから優秀な人材集めていこ。」
山下「この家が無名なのはやっぱり場所がわるかったんだろうな。」
大峰「だろうね。」
中村「そういえば能力あったじゃん。『勧誘』ってやつ。」
山下「確かに。使えるのかな。とりあえず今使える能力は『念話』と『検索』と『鑑定』くらいじゃん?」
大峰「全部俺か選んだやつね。やってみるか。『念話』って要はテレパシーみたいな?頭の中で念じれば会話できるってことか。やってみよう。」
大峰(これ聞こえる?)
山下・中村(おー!すげー!)
大峰(めっちゃ便利だね、これ。離れてても使えるらしい。あと一度俺から『念話』で話した相手なら、今後そっちからも使えるようになるらしいよ。戦のとき、特に夜襲とかのときこれ使えたらいいね。)
中村「スマホだね。そのうち信用できる他の人も入れていこう。」
山下「他は?」
大峰「『検索』ってやると自分だけが見えるネット検索ができるみたい。これもめっちゃ便利。色々使うことが多いだろうな。あと『鑑定』はよくあるやつだね。対象決めて『鑑定』ってやると説明が出る。今度、山の中でやってみよう。色々見つかりそう。2人のは?」
山下「『念話』『検索』『鑑定』って最強じゃん。もう勝ったみたいなもんじゃん。」
中村「誰によ!」
山下「俺のは『勧誘』『探索』『諸勢力への伝手』ってのね。『勧誘』は直接話した人を家臣にできるやつで、『探索』は探知機みたいな感じだね。これは使い方次第でだいぶ使えそうだな。この『諸勢力への伝手』って良さそうだから選んだけどどうやって使うんだろ」
大峰「ゲームでよくある諸勢力って忍者、海賊、商人、寺社かな?ちょっとやってみて。」
中村「それ使って、直接会って『勧誘』使って家臣にできたらめっちゃいいな。」
山下「やってみたけど、頭の中に一覧が出て選択できるな。近くにいないとダメらしい。あんまり使わないかもな。あっ!近くに忍者がいる!」
大峰「戸田家じゃなくて?一族の戸田家って祖父が自分の弟を曽祖父と相談してまだ小さいうちに戸隠忍者の棟梁家に養子に入れたらしいよ。今では超強い大忍者集団の棟梁。本人もめちゃ強い忍。」
中村「マジか?すげーな、大峰家。」
山下「マジか!でもそれじゃないな。出浦清種って人が選べるから選んでみるか。」
俺「え?マジ?大丈夫?俺らまだ4歳よ?」
中村「やってみよう!」
山下「そりゃ中村はそう言うよな。選べたけど。使ったけど。」
中村「まだ?」
山下「何か起きた?『探索』使ってみるか。あっ!」
大峰・中村「何!?」
廊下に控えていた千凜丸が声を掛けてくる。
千凛丸「失礼します。若、出浦殿と名乗る方が竹千代殿をご指名でご挨拶をしたいと館にお越しですが、如何致しましょうか。」
中村「マジか!」
大峰「大広間に行くか。」
大峰(でも俺ら4歳だけど大丈夫?)
中村(まあゲームだから。)
山下(親父さんに来てもらったら?)
大峰(あっ、そうしよう!)
大峰「父上に出浦殿とお話し頂くように話してみて。我々もよかったら同席させて頂くようにお願いして。」
千凛丸「わかりました。」
千凜丸が部屋から離れて行った。
大峰(その状況で『勧誘』使ったら誰の家臣になるの?)
山下(さあ?)
中村(とりあえずやってみよう!)
大広間にて。
父信秀が上段に、一段下がった横に室賀備後が、対面する形で出浦が、我々は廊下を背に出浦の横に並ぶように座った。
廊下には千凜丸が控える。
平伏す出浦に父が話し掛けた。
信秀「よくお越し頂いた。面を上げられよ。」
出浦「ハッ。拙者、出浦左衛門佐尉清種と申します。突然の訪問申し訳ございませぬ。善光寺詣りの帰りに近くを歩いておりましたら、どうしてもご挨拶をさせて頂きたくなりまして。」
来た理由めっちゃ曖昧だけど大丈夫?
信秀「さようか。これはこれは。私は大峰民部大輔信秀と申す。お噂は聞いており申す。お父上のことは残念でこざったな。」
出浦「有り難きお言葉。父のことは戦のこと故、誇らしく思っております。」
信秀「そうでしょうな。さぞかしご活躍されたのでござろう。これを機に懇意にして頂けたら当家としても嬉しい限りでござる。」
一通りの挨拶を聞いていた我々は『念話』で話す。
大峰(『諸勢力への伝手』ってめっちゃすごいじゃん。個人なのに諸勢力ってどうなんってのは置いといて。さっき言ってたけど、諸勢力でヒットしたってことは忍者なんでしょ?)
山下(忍者だね。出浦ってあの出浦なんじゃん?信濃だし。)
中村(真田の家臣の?盛清じゃなかった?親か!けど、めっちゃ若いね。)
大峰(『検索』使ったらそうだったわ。次男が盛清らしい。『検索』めっちゃ便利。)
中村(めっちゃ便利!それはそうと早く『勧誘』使ってよ!)
山下(よし、『勧誘』!)
俺(え?俺ら直接話してないのに?めっちゃ不自然だけど、どうなるんだ?)
出浦「こちらこそ宜しくお願い致します。ところで、そちらにいらっしゃるのはご子息様方でございますか。」
信秀「そうじゃ。そちらが山下竹千代丸の名前を出していたと聞いたので、まだ童ながら同席させて頂いた。不快になられたら申し訳ござらん。」
出浦「いえいえ、滅相もございませぬ。大峰様、突然押し掛けて来て、不躾なお願いを申し上げますが、宜しければ拙者を家臣の末席にお加え頂けませんでしょうか。さらに我が儘を申し上げますが、そちらの方の家臣に。」
信秀「そちらとは、山下竹千代丸のか。まだ年端も行かぬ小童じゃが?」
出浦「きっと将来立派な将となられるお方とお見受けしましたゆえ。」
信秀「さようか。そこまで申すなら許そう。こちらも心強い家臣が出来ることは喜ばしい。我が直臣になってくれるとなおよいが、まあ細かいことはなしにしよう。今、あれの親を呼びに行かせる故、少々待たれよ。」
信秀が笑う。
出浦「ハッ。申し訳ごさいませぬ。ありがたき幸せにございます。」
信秀「よい。備後よ、兵庫を呼んでまいれ。」
室賀備後「ハッ。ただいま。」
室賀備後が立ち上がり、部屋を出て行く。
大峰・山下・中村(マジかよ。)
大峰(それもだけど、竹千代なん?)
山下(らしいよ。中村は?)
中村(辰千代だった。)
大峰(俺、松若丸だからね。それで呼ぶのに慣れてかないとだな。)
山下・中村(そうだね。お互いそう呼びあおう。)
その後、山下兵庫助が来て、父信秀の提案で禄は大峰家から出し、山下家の預かりで、山下竹千代付きとして出浦左衛門佐尉清種を家臣にすることとなった。この時出浦15歳。
後で聞いた話だと、1541年の海野平の戦いで負けた海野勢は海野棟綱一族が上州に逃れた際に、多くの家臣たちは帰農、離散。
出浦家は先代が討死。出浦衆は信濃に残り、主なし状態に。
忍者集団としてはうちの戸隠忍者程数は多くはないが結構優秀で、引く手数多だったが、忠誠を誓える程の相手はおらず、新しい頭の清種は今後の一族のことで悩んでいて善光寺詣りをしていたと。
ナイスタイミング!
そして、真田との繋がりが出来た!武田に行ってしまう前に引っ張って来よう。
最初から上手くいきすぎたな。
その日はそれで解散となった。
疲れた。早く寝よう。
そういえば中村の能力について全く話さなかったな。明日聞いてみよう。