表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第三章
30/191

第三章 24話 富国強兵と江部新保の戦い

1550年1月10日


米子鉱山を手に入れてから二年が経った。俺は11歳になっている。


あの後、上杉、村上、笠原連合軍と武田軍との戦いが小田井原であったが、史実のように上杉側の大敗にはならなかったようだ。

笠原の志賀城もまだ持ち堪えている。

上杉は北条に攻められ続け、平井城にいるが、ほとんど支配地はない。いつまで持つか。

1448年の2月に上田原の戦いが起きるはずだったがまだ起きていない。上田原の戦いは武田と村上が戦って武田が負け、板垣信方と甘利虎泰が討死するはずだけど、今後起きるのか。



大峰領は順調で、着々と力を付けている。


まず、軍備。専属兵が一万人まで増えた。調練で長柄の槍、強弓、南部馬の騎馬、そして遂に使えるようになった大峰銃を全ての兵が使える。

また、戦場で特殊兵として土木工事もできる。

普段は調練の他、領内見廻り、開拓や浅川園、鉱山の手伝いなどもしている。これによって治安も良くなった。


硝石生産と硫黄の採掘が上手くいき、紙製薬莢も大量に作っている。銃の製造量も上がって、今四千丁が使える。


鉱山開発も順調で鉄鉱石、金、銀、銅、硫黄の産出量がかなり増えている。

銅は雷管に使ったりしているが、金、銀、銅をある程度の大きさの塊にして倉庫に貯めている。


浅川園は拡大が続いている。


商売は、『技術開発』で砂糖と芋焼酎の製造に成功し、新しく始めた蚕業で生糸、綿花の栽培で綿、『技術開発』でぶどうからワインを製造し、椎茸、朝鮮人参、清酒、葛根湯とともに収益を上げている。

焼酎は消毒薬としても使えるよう精製している。


商売の収益は今や五十万石分、つまり二十五万貫分、約二十五億円分も売り上げが出ている。


果樹園も上手くいき、収穫も多くなったので、先程挙げたワインの製造や、領民に与えたりもしている。

戦場への携行食として干し果実も作り始めた。以前から作っている干し肉と共に大量に保存をしている。携行食としては梅干しも作り始めた。


野菜も収穫が多くなり食事のメニューも多くなった。食事では、味噌から醤油を作り、料理に使えるようになった。


そして、ずっと欲しかったゴムを使えるようになった。

『技術開発』を使い、ゴムの木から取れる液と硫黄とを合わせて我々が知るゴムを作った。


最初に作ったのは靴だ。俺が『検索』で色々と調べた結果、ハンティングブーツという靴底がゴムで造られた皮のブーツがあったので、『技術開発』でそれを真似て作った靴に軍靴と名前を付けた。

将だけでなく兵士にも履かせることで、機動力が格段に上がった。一緒に靴下も作った。

防水防風防寒のための裏地に毛皮を付けたゴム引きロングコートも作成し、そのままだが外套と名前を付けた。

衝撃を吸収するために甲冑の内側にも付けた。これは将たちの甲冑には既に付け、兵士たちのものにも付ける予定だ。

甲冑の籠手の手のひらの部分にも滑り止めのために付けた。

今のところはこれだけだか、ゴムも増産して役立てていきたい。



と、ここまでがこの二年の成果だが、大峰家の富国強兵度合いがわかると思う。

家督はまだ継いでないが、ほとんどは俺の判断で行えるようになった。

そろそろ元服も考えられているようだが、まだ決まってはいない。



それから、上泉愛殿と真田佳殿とはたまに会って話をしている。こっちもいつどうなるかはまだ決まっていない。






又兵衛「若、よろしいでしょうか。」


松若丸「どうした、入って。」


又兵衛「はい、失礼します。高梨家に動きがありそうです。」


二年前、高梨政頼殿からの依頼で、武勇に優れた兄二人が家臣たちに担がれ、劣勢となった家督を継ぐ予定の嫡男頼親殿の後ろ盾となるかわりに高梨家の領地を半分献上し、臣従するという申し出を受けた。

それから、領地の四分の一程は割譲されたが、その後何も言ってこないので、こちらからも敢えて何も言わずにきていた。その高梨家が何かあったのだろうか。



又兵衛「嫡男頼親殿ではなく、兄の頼治殿、秀政殿がそれぞれについた家臣たちと戦を始めようとしています。」


中野の辺りは既に大峰領となっており、その近くの館に政頼殿、頼親殿が入っている。北にある飯山城に頼治殿が入っていた。その飯山城に秀政殿が攻めかかろうとしているらしい。飯山城と言っても規模は砦程である。


又兵衛「いかが致しましょうか。」


松若丸「うーん、とりあえずは静観かな。援軍の依頼もないし。飯山城遠いし。情報だけ集めておいてもらっていい?」


又兵衛「そうですね。わかりました。」


そんな飯山城の戦いあったかな?

うーん、あとやっぱり上田原の戦いが起きるか気になるな。



松若丸「采女、いる?」


戸田采女「ハッ。」


戸隠衆七百人の棟梁である戸田隼人の嫡男が元服し戸田采女正信員と名乗り、又兵衛と同じく俺の側に仕えている。


松若丸「武田と村上の動きを厳重に見ておいて。あと、引き続き長尾、上杉、北条は注意して。京の情報も取れるようだったらお願い。」


戸田采女「ハッ、畏まりました。」


また周りが動き始めたな。






1550年1月12日


又兵衛「若、失礼します。」


松若丸「入って。」


又兵衛「ハッ、失礼致します。」



又兵衛「高梨家の件です。頼治殿、秀政殿が和睦しました。政頼殿が二人を中野の屋敷に呼ばれ、頼親殿に家督を譲るので、それに従うように説得するようです。そのような使者がこちらにも参るでしょう。」


松若丸「そうか。とりあえずよかったな。」


その後、又兵衛が報告してくれたように高梨家から使者が来て、お騒がせしたがもう大丈夫だと説明して帰った。




その日の夜。


又兵衛「若、失礼します。」


松若丸「何か起きたか、入って。」


又兵衛「はい、失礼します。高梨家のことです。」


松若丸「落ち着いたんじゃないの?」


又兵衛「いえ、政頼殿が斬られました。」


松若丸「何!それで政頼殿は無事か!頼治殿か!秀政殿か!」


又兵衛「はい、頼治殿に秀政殿が従うと決め、政頼殿と頼親殿を亡き者にしようとしたようです。なんとか政頼殿と頼親殿はその場を逃れ、我が領内に入ったとのこと。それを追うために頼治殿、秀政殿が我が領内に軍勢を入れようととしているようです。その数二千五百程。」


松若丸「千凛丸、聞いてたか!軍議を開く!まず父上にその旨を話し、備後に準備をさせるように!備後には兵五千出陣できるようにも準備させよ!今回は大峰銃は使わん!騎馬が千八百、槍が千五百、弓が千七百だ!」


千凛丸「ハッ!畏まりました!」


松若丸「又兵衛!小姓衆も軍議に参加させる!呼んで来て!大岩衆は引き続き頼治殿、秀政殿の軍勢の様子を!」


又兵衛「ハッ!」


松若丸「采女!政頼殿と頼親殿の護衛に人数を出して!あと、武田、村上の動きを見張って!」


戸田采女「ハッ!」


暗い中、それぞれが動き出した。館では徐々に篝火が焚かれ、慌ただしく人が動き始めた。


松若丸「父上、失礼します。」


信秀「入れ!」


父上の部屋に入ると既に甲冑を付けていた。もちろん俺も甲冑を付けている。


松若丸「父上、聞かれましたか。すぐに出陣したいと思います。」


信秀「聞いた。まずは軍議じゃ。大広間へ。お主に指揮は任せる。」


松若丸「はい!」


大広間へ入ると既に皆甲冑を付け集まっていた。俺の小姓衆も集まっている。


信秀「皆の者、大義。説明は松若丸からする。」


松若丸「はい。大岩又兵衛の知らせによると、高梨家で内紛が起きた。政頼殿の子、頼治殿、秀政殿が争っていたが、二人が和睦したため、政頼殿が頼親殿に家督を譲ることを説得しようと中野の屋敷に呼んだ。そこで、頼治殿、秀政殿は政頼殿、頼親殿を襲い、政頼殿が斬られた。二人は我が領内に逃れたが、頼治殿、秀政殿の軍勢が追って来ている。我らは、政頼殿、頼親殿を救うため、我が領地を荒らす敵を駆逐するために出陣する!ただ高梨領の兵は農民だ。むやみに殺したり怪我させたりし過ぎないように注意せよ!」


一同「おー!」


松若丸「陣立を発表する!先陣、湯塚玄蕃殿、槍七百。同じく鎌田内膳殿、槍七百。次鋒、真田弾正殿、弓八百、同じく黒田掃部殿、弓八百、次に大久保伊勢殿、騎馬七百、室賀備後殿、騎馬七百、本陣が私の六百だ。父上、上泉壱岐殿、山下兵庫殿、中村主計殿は、ここに残って南からの村上、武田の備えをして頂く!」


一同「おー!」


松若丸「敵は頼治殿、秀政殿だ!親兄弟を襲うなど、信義にもとる!我らが正義だ!では出陣!」


一同「おー!!」


松明を持った軍が出陣した。

さてどうなるかな。




大峰から北東に進み、豊野辺りから東に向って千曲川を渡り、小布施を越えた辺りで敵の動きを見に行った又兵衛が戻って来た。

辺りは明るくなってきている。



松若丸「どんな様子?政頼殿と頼親殿は?」


又兵衛「はい、まず政頼殿、頼親殿は保護しました。戸隠衆の手の者により、大峰館にお連れしています。頼治軍は、こちらの進軍に気付き、先程から南下して来ました。数およそ二千五百。全て出て来ました。この調子で進むと江部、新保辺りで四半刻も経たずにぶつかります。」


松若丸「そうか、政頼殿、頼親殿はよかった。平野で戦うことになるか。陣形変えよう。小姓衆呼んで。」


又兵衛「ハッ。」


松若丸「まず、皆には伝令役を務めてもらう。湯塚隊に秀胤、鎌田隊に満親、真田隊に源太郎、黒田隊に鷹千代、大久保隊に長福丸、室賀隊に千凛丸、竹千代と辰千代は本陣に、又兵衛と采女には臨機応変に動いてもらう。」


一同「ハッ。」


松若丸「敵は中野の高梨館から南西に向かって進んでくる。こちらは北東に進んでるから正面から当たることになる。陣形は魚鱗。先頭が湯塚隊、その後ろに鎌田隊、その右に黒田隊で左に真田隊。弓隊は合図したら一斉射撃。準備しておくように。射撃の後、湯塚隊が突撃。鎌田隊は湯塚隊の動きに合わせて。鎌田隊の後ろに室賀隊、その後ろが本陣。大久保隊は本陣の後ろ。また指示するけど、湯塚隊が敵と当たり始めたら迂回して敵の脇腹を突いてもらう。じゃあ行って!」


一同「ハッ!」


皆がそれぞれの隊に伝令に行った。


松若丸「又兵衛、敵に変化は?」


又兵衛「ありません。頼治殿、秀政殿は相当自信があるみたいです。秀政殿を先陣に槍隊がそのまま進んで来ます。」


松若丸「わかった。変化があったら教えて。」


又兵衛「ハッ。」


松若丸「采女、大峰館からとか南から特に何も情報来てないよね?」


戸田采女「ありません。」


松若丸「わかった。よし、行くか。」



陣形を整えながら進み、敵が見え始めたところで一度全軍停止した。小姓衆は本陣に戻ってきている。



松若丸「向こうからは仕掛けて来ないか。」


竹千代「数が違うからな。」


辰千代「誘いでもかける?」


松若丸「乗るかな?」


竹千代「乗らないだろ。」


松若丸「じゃあこのまま行こう。正攻法で。」



松若丸「全軍、前進!」



こちらが前に進み出すと、敵も合わせて進み出した。お互いに段々速度が速くなる。



松若丸「よし、弓隊一斉に放て!」


合図の太鼓と共に弓隊の強弓が鳴る。普通の弓よりも長い距離が届くので、当たらなくても敵方は怯む。それを見て、湯塚隊が突っ込んだ。


出だしは上々。



松若丸「大久保隊に予定通り迂回するように伝えて!」


長福丸「ハッ!」


長福丸が馬で駆けて行く。




敵は先頭が疲れ始めると新手と入れ替え、思ったより粘っている。

秀政殿か。上手いな。

湯塚隊も七百なので、局所的にはそんなに優劣つかないか。

鎌田隊が上手く補助しながら戦っている。

弓隊は強弓を活かして、味方に当たらないように敵方の後方目掛けて射撃している。

敵はそれを嫌がっているようだ。


段々、前の隊と後の隊の意思の疎通ができなくなっているように見える。



松若丸「大久保隊に攻撃合図して。」


合図の太鼓が鳴る。



敵方が目の前の槍隊と降ってくる矢に完全に意識を向けたことを確認して、大久保隊の騎馬を左手から攻撃させる。敵方は見事に混乱した。



松若丸「よし!全軍突然!湯塚隊と鎌田隊に真ん中空けさせて室賀隊に突っ込ませて!湯塚隊、鎌田隊もそのまま突撃!真田隊、黒田隊も行かせて!」


秀胤、満親、千凛丸が駆け出す。

源太郎、鷹千代も駆けて行った。


そして太鼓の連打が鳴り響く。



上手く空いた真ん中を室賀隊の騎馬が敵兵を蹴散らしていく。


乱戦となったが、敵方は少しずつ後退して、逃げる者が多くなってきた。

そもそも農民兵は戦意が乏しい。こちらが武器を弾いたり殴ったりしているだけで戦意を完全に失い逃げていく。




「高梨秀政殿討ち取ったり!!」


そこでこの戦いは決着がついた。敵兵が我先にと逃げていく。


松若丸「逃げた兵は追わなくていい!このまま高梨館に向かう!」


また戻って来ていた小姓衆が駆け出す。



兵たちは農民が駆り出されただけなので、あっという間にいなくなった。残りは頼治殿とその近臣のみ。その少人数が高梨館に入った。



我々も高梨館に着き、遠目に囲んだところで、軍議を開く。


松若丸「皆、ご苦労様でした。皆の指揮ぶりさすがでした。さて、頼治殿をどうするか。」


大久保伊勢「若殿の鮮やかな采配に感服仕りました!」


湯塚玄蕃「完璧でしたな!先陣の栄誉を頂き感謝致す!我が隊で秀政殿を討ち取れなかったのは残念だが。」


鎌田内膳「秀政殿は伊勢兄上の手柄ですかな。」


真田弾正「采配も素晴らしかったですし、伊勢殿の隊の攻撃もすごかったですな!」


黒田掃部「こちらの被害がほとんどないばかりか、相手も死者はそんなに出ていないようです。若殿の描いた通りになりました。素晴らしい。」


大久保伊勢「頼治殿には降伏の使者を出しますか。」


黒田掃部「そうですな。降伏の使者を送り、あとは政頼殿の判断にお任せしますか。」


松若丸「そうですね。では、今回は内膳殿にお願いします。」


鎌田内膳「畏まりました。降伏の使者ですね。」


又兵衛「若、使者が参りました!」


松若丸「そうか、ここに通せ。ここで聞く。」


使者「失礼致します。我が主君、頼治からです。頼治がここで切腹致しますれば、後に残る我が子、また秀政の子らを赦して欲しいとのことです。」


松若丸「そうか。まあそれくらいなら許そう。検分もいらないかな。」


使者「ハッ。忝く。では失礼致します。」


松若丸「皆、よろしいですな。」


湯塚玄蕃「そうですな!潔い引き際天晴れじゃ!」


鎌田内膳「しかし、政頼殿としてはどうでしょうな。」


黒田掃部「まあ自分から、我が子に腹を切らせたり、孫をどうこうはあまり言えますまい。」


大久保伊勢「これでよかったと思います。」


松若丸「では、ここで少し休憩した後、ここに一部兵を残し、まずは飯山城に向かい、越後との境まで平定して戻りますか。往復で十日程で行けましょう。休憩している間に以前から作らせている携行食も取り寄せますので。その旨は、頼治殿、秀政殿の首と、保護する子らと共に父上のところへ使者を出して報告します。皆、よろしくお願いします。」


一同「ハッ!」


その後、戸隠衆を駆使して周りを警戒しながら、千曲川沿いに北上し、越後境まで平定して、大峰館に戻った。


真冬の行軍だったが、軍靴と外套で寒さは問題なかった。雪を除けるのには苦労したので、その道具を作ろうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ