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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第二章
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第二章 19話 小瀬橋の戦いと鬼神

1547年11月17日続き


黒姫鉱山を出て一刻程進むと、日が沈み始めた。これじゃ大峰までは帰れないな。


松若丸「備後。」


室賀備後「はい、暗くなってきましたね。」


松若丸「本日はこの辺のどっか寺でも泊まらせてもらうか。」


室賀備後「そうですね。この辺は新領地なのでせめてもう少し進んでからの方がいいと思います。」


松若丸「そうか。じゃあもう少し進もう。」


又兵衛「若、備後様、お話し中申し訳ございません。まだかなり距離はありますが囲まれつつあります。数は合わせて百程。どうやら領地境の見張りに引っ掛からなかったようです。申し訳ございません。いかが致しますか。」


室賀備後「何!どこの者かわかるか。」


又兵衛「恐らく、須田かと。武士は五、六人程で、後は金で雇われた者のようです。」


松若丸「まあかなり早く気付いてくれたから対策を打てるし大丈夫。ただ百はちょっと多いね。じゃあまとまった方がいいな。又兵衛、大岩衆集めようか。」


室賀備後「若、そうしますと若も戦うことになるかもしれませんが。」


松若丸「そうなるかもしれないけど、大岩衆も一人も失いたくないし、金で雇われたような奴らに俺ら負けないでしょ。」


又兵衛「若、そんな我らのためにご自身を危険に晒すなど!」


室賀備後「若、確かそうかもしれませんが、どんな手を使って来るかわかりませんぞ。」


松若丸「だから、大岩衆集めたら、ただ襲われるんじゃなくて迎え撃とう。又兵衛、早く配下呼んで。」


又兵衛「畏まりました。」


室賀備後「そこまでお考えでしたら若に従います。」



大岩衆はすぐ集まってきた。


松若丸「又兵衛、大岩衆何人?」


又兵衛「私も含め二十人です。」


松若丸「こっちは俺、備後、主計殿、千凛丸、竹千代、辰千代、長福丸、鷹千代、源太郎、秀胤と大岩衆二十人ね。源太郎、真田の忍も来てるね。何人いる?」


源太郎「ばれておりましたか。今回は五人だけです。」


松若丸「わかった。ありがとう。竹千代、出浦衆も来てるね。何人?」


竹千代「こっちも五人だけ。呼ぶ?」


松若丸「いや、ここに集めたのが主力で、真田忍と出浦衆は遊撃隊みたいな感じで頼むよ。」


源太郎「ハッ」


竹千代「わかった。」


源太郎と竹千代がそれぞれ配下に指示を送る。


松若丸「こっちは主力が三十人に、遊撃隊が五人、五人の四十人。それも全員手練れ。相手は金目当ての烏合の衆百人。負ける訳ないね。よく手出してきたな。又兵衛、この辺豊野の辺りだよね?行く時この辺に大きめの橋あったよね?あとどれくらい?」


又兵衛「はい、この速度で行くとすぐです。」


松若丸「じゃあその橋で敵が追い付くように速度調整して。橋だったら前後だけだから囲まれても戦えるし。多分前から来る人数の方が多くなるから、前は秀胤が先鋒で、又兵衛が補助して大岩衆が十四人、後ろは備後が先鋒で、主計殿、源太郎が補助で大岩衆が五人ね。前は千凛丸、竹千代、辰千代が二列目、後ろは俺と長福丸、鷹千代が二列目。前の敵の後ろから出浦衆に援護させて。後ろは真田忍で。なるべく侍は殺さないで生捕りで。ただ少なくとも一人は逃して。その後を出浦衆に追わせて。金で雇われたってのも必ず頭がいるはずだから、それは逃して真田忍に追わせて。ここまで大丈夫?」


一同「ハッ。」


松若丸「じゃあ絶対一人も死なないように頼むよ。」


一同「ハッ。」




予定の橋の真ん中辺りまで来て速度を緩めると予想通り前後を挟まれた。向こうはちょうど逃げ道をなくして袋の鼠だと思ってるのだろう。まだ日は沈み切っていないが、薄暗くなっている。


松若丸「来たね。秀胤、一応何の用か聞いてみよう。」


まだ距離があるため大声で秀胤が叫ぶ。


秀胤「はい。そこの者たち!我らは越後の直江津から善光寺詣でのためにここまで来た者である!誰かと間違えておらぬか!そこを通して欲しい!何か用がおありか!」


侍「白々しい!こちらはその方たちがどこの誰かわかっておる!黙って言う通りに従え!」


秀胤「だ、そうですよ?」


松若丸「まあ、だろうね。須田の者だってわかってるって言っていいよ。」


秀胤「須田の者の言うことを素直に聞く義理はない!」


侍「なんだと!それなら力尽くで従ってもらうまでだ!」


おー時代劇の悪者みたいな台詞だね。本当に言うとは。


前から明らかにちんぴらみたいなのがわんさか走って襲ってきた。この橋は大きいと言っても五人も手を広げて並べば横いっぱいになる。一度に相手するのは五人、相手は数に頼った攻めができない。長さはあるので、真ん中辺りに馬を纏めて、皆馬から降りている。高さはないので、馬が怖がることもない。そもそも南部馬は気性が荒くないので扱いやすいのだが。



備後「後ろも来ました!」


前も後ろも敵がいっぱいになってきた。


松若丸「よし!かかれ!」


一度は言ってみたかった台詞。

しかし、全くやられる気がしないな。


俺の合図で前後とも戦闘が始まった。



まず前を見てみる。




秀胤半端ないって!


さすが剣聖の嫡男。一人で既に二十人はいったかな。あ、また二人。


そして又兵衛もさすが。又兵衛も既に十人くらいはいったね。あ、また一人。


後ろは備後と主計殿だからな、そりゃ安心だ。経験が違う。これくらいの小競り合いには慣れてるって感じだね。この辺りは戦はほとんどないが、これくらいの数の小競り合いは年に数回ある。それを鎮圧して来た経験が二人にはある。


源太郎もやるね!真田信綱だもんな。そりゃ強いよ。


二列目の俺らは見てるだけ。俺らも新陰流の修行みっちりやってるから、下手な大人よりよっぽど強いけどね。まあいいか。そのうち戦う時も来るだろう。そろそろ終わるかな。



又兵衛「若、敵が逃げ始めました。大岩衆にも追わせますか?」


松若丸「余裕があったら追って」


又兵衛「はい、行けっ」


余裕あるんだね。


秀胤「若、二人捕らえました。一人はご命令通り逃しました。」


そこには血まみれの鬼神が。


松若丸「お、おう、秀胤お疲れ様。すごい働きだったね。」


秀胤「はい、ありがとうございます。ですが、まだまだです。」


それでまだまだって。剣聖と比べりゃそうだろうけど。


室賀備後「若、一人捕らえました。一人は逃げられてしまいました。申し訳ございません。」


松若丸「いや大丈夫だよ。お疲れ様。捕らえた者は手足縛って猿轡しといて。」




皆集まってきた。


松若丸「皆お疲れ様。怪我してる人は……うん、いないね。じゃあ皆、下の川で汚れ落とそうか。竹千代、源太郎、出浦衆と真田忍も言ったようにしてくれてるよね?」


竹千代「大丈夫。」


源太郎「問題ありません。」


松若丸「よし。又兵衛は付近の様子見てきてくれる?」


又兵衛「ハッ。」


又兵衛が大岩衆に指示を出し、自らも走って行った。




又兵衛「若、この近くに寺があります。本日はそこでよろしいですか?」


松若丸「うん、お願い。あと、そこの寺の人に襲われたってことを強調して伝えてここの掃除もお願いして。埋葬して供養してもらって。」


又兵衛「ハッ、若のお名前は出してもよろしいですか?」


松若丸「いいよ。後で寄進するとも言っておいて。」


又兵衛「わかりました。」


松若丸「又兵衛も返り血落としてから行きなよ。」


又兵衛「いえ、大丈夫です。全く浴びてませんので。では行って来ます。」



又兵衛も半端ないって。




川で皆汚れを落とし、馬にも水をやっていると、又兵衛と寺の者が松明を照らして戻ってきた。


又兵衛「お待たせしました。和尚様に話したところ、快諾してくれました。ご案内します。」


松若丸「ありがとう。お寺の方も忝い。」



案内に従って寺に入った。


松若丸「和尚様、お騒がせして申し訳ございません。大峰松若丸と申します。お世話になります。」


和尚「大変な目に遭われましたな。大したこともできませんが。ご案内します。」


松若丸「いえ、ありがとうございます。」



離れに通された。


松若丸「川で汗は流したし、とりあえず寝るには十分だな。皆で横になろう。」


室賀備後「はい、私と主計で交代で見張りをします。」


又兵衛「我らも見張りをします。」


松若丸「よろしく。あっ、秀胤、捕らえた奴らにどこの者か尋問して。俺は出ない方がいいだろうから。」


秀胤「ハッ。」




秀胤「若、よろしいですか。」


松若丸「おう、早かったな。わかった?」


秀胤「簡単に口を割りました。やはり須田の者でした。ただ須田満親殿ではなく、父親の須田満国殿の手の物のようです。満親殿は刺客に猛反対されていたようです。更に、満親殿は若に臣従してもいいと思っているらしいです。それに満国殿が反対したからということみたいですね。」


松若丸「割れているのか。」


千凛丸「いかが致しますか。」


鷹千代「これは上手くいけばすぐにも落ちそうですね。」


辰千代「でも須田の領地は直轄にしたいんだろ?」


長福丸「米子鉱山ですか。本日、藤井殿も家臣になりましたしな。」


竹千代「どうする?」


松若丸「どうしようかな。確かに直轄領にしたい。でも須田満親殿も家臣に欲しい。又兵衛、逃げて行った者を追って行ったの帰ってきた?」


又兵衛「まだです。」


松若丸「そうか。須田満国殿は大峰に従いたくないだけなのかな?」


又兵衛「いえ、それだけだはなく、これは噂ですが、満国殿は満親殿ではなく、側室が生んだ満長殿を跡目にしたいようです。そのため、満親殿が大峰に従うならと、それに反対する家臣たちが満長殿を立てることで、満国殿を煽って、今回のことに繋がったようです。」


松若丸(そんな話、史実であったっけ?)


辰千代(さあ、地方の話まではわからん。でも、今起きてることが大事なんじゃん?)


竹千代(俺らが動いてるから色々変わって来てるんだろ。真田殿と上泉の師匠様の例とか、武田の信濃侵攻が遅いとか。とりあえず今起きてることに対して思うようにやれば?)


松若丸(そうだね。そうする。)


松若丸「そうか。よくある話だけど、こちらにとっては迷惑な話だな。でもそれを使うか。現在の須田領を直轄地にして、須田満親殿は旧領の石高と同じ給金で家臣になってもらうか。そしたらどっちも上手くいく。とりあえず今日はここまでにしよう。休息も必要だ。又兵衛、悪いけど、その捕らえた須田の家臣見張っておいて。備後と主計殿が見張りしてくれるけど、寺の周りの見張りも頼むよ。あと、一人は大峰館に伝令に行って、隼人殿に人数出してもらうのと、湯塚玄蕃叔父に騎馬隊三十くらいを朝出発でいいから、この辺に出してもらうように父上に伝えてもらって。逃げたの追ってった者が帰ったら俺が寝てても教えて。竹千代、源太郎もそれぞれ手の者が帰ったら教えて。では、皆寝るぞ。明日早く出立するからそのつもりで。」


一同「ハッ」


これ俺らの初陣だったんじゃない?初陣と呼べるのか。でも戦さだったしな。

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