第二章 16話 山師と鍛冶師
1547年11月15日
俺は部屋で一人で考えている。
昨日、八善屋に依頼していた鉄砲が百丁届いた。
火薬と弾も買ったからかなり高かった。もう一度言おう。かなり高かった。
まだまだ蓄えはあるから全く問題はないが、こんなに払ってまではいらないかな。火縄銃だし。材料があれば作れるし。
こんな高いなら鉄砲製作にもっと早く取り組んでればよかった。作るとしたらもっと性能がいいもの作れるし。
この辺戦なかったからな。まあこれからやっていけばいいか。
鉄砲に必要なのは、まず鉄だ。『検索』で調べたら鉄鉱石の鉱山は領内に既にあった。
黒姫鉱山、柏原鉱山だ。この時代はまだ手付かずみたいだ。
『技術開発』もあるから、掘るのも何とかなるだろう。ただやっぱり経験者が欲しい。
あとは、作れる鍛冶がいる。これも『技術開発』で何とかなるけど、やっぱり経験者が欲しい。
鉱山の山師と、鉄砲鍛冶をやってくれる鍛冶師を探そう。
鍛冶集団を家臣に出来たら刀も槍も打ってもらえるかな?でも鍛冶師って頑固な職人みたいなイメージあるけどやってくれるかな?他の新しい道具とかもお願いしたいな。
『検索』で信濃で探してみる。山師はいないわ。これは八善屋に頼んで探してもらうしかないな。『探索』で引っ掛かるかな?
あっ鍛冶師はいるじゃん。しかも領内のすぐ近くだ。行ってみよう。
火薬の材料である硝石と硫黄もまだ手に入っていない。
硫黄は今の須田氏の領地にある米子鉱山で取れる。
これも山師を家臣にできたら、須田氏の領地を我が領地として手に入れよう。
硝石は浅川園でそろそろ安定して出来てくる。
ここまで考えて皆を呼ぶことにした。
松若丸「千凛丸。」
廊下で控えてくれている千凛丸を呼ぶ。
千凛丸「はい、お呼びでしょうか。」
松若丸「竹千代、辰千代、長福丸、鷹千代、源太郎、秀胤を呼んで来て。呼んだら千凛丸も一緒に話聞いて。」
千凛丸「はい、わかりました。」
千凛丸は走っていった。走らなくてもいいんだよー
今度は近くに控えてくれているであろう又兵衛に声を掛ける。
松若丸「又兵衛、また頼みがある。来てくれ。」
又兵衛「ハッ、失礼します。」
松若丸「この地図の、黒姫山の南の辺りに鍛冶師がいるって聞いたんだけど、知ってる?」
又兵衛「はい、その辺りは鉄もたくさん取れますし、鍛冶師もたくさんいます。」
松若丸「え?たくさんいるの?鉄もそんな簡単に取れるの?」
又兵衛「はい、たくさんいると言いますか、大きい鍛冶師の村があります。結構腕のいい鍛冶師がいますよ。この辺は鉄が多くて、鉄褐色の土があったり、鉄分が多くて川が褐色になっているところもあります。鉄鉱石の鉱山もあり、量はそれほどでもないらしいですが、鉄鉱石も取れますよ。」
松若丸「え?鉱山開発してるの?山師いるじゃん。めっちゃ近くにいるじゃん。」
マジかよ。めっちゃ『検索』して探したのに。最初から又兵衛に聞けばよかった。
又兵衛「我々戸隠衆の武器も依頼しているところがありますので紹介できますよ。」
松若丸「それは助かる。刀、槍とかは頼んだもの作ってもらえるかな?あと、こっちで設計図描くから鉄砲作ってくれないかな?」
又兵衛「どうでしょう。全く見知らぬ人からの頼みは断ると思いますが、紹介だったらやってくれると思いますよ。」
松若丸「え?そんな感じ?家臣になってくれないかな?保護するってことで。」
又兵衛「そうですね。彼らだって安定して仕事が入ってくるのはいいでしょうから、仕えてくれるかもしれませんね。それは鍛冶村の頭に聞いた方がいいかもしれません。」
松若丸「それは期待できるな。ありがとう。今皆呼んで、相談しようと思ってたんだけど解決したわ。本当ありがとう。じゃあ皆と一緒に俺が行って頼むからさ、また道中の護衛頼むよ。あと、先に鍛冶師と山師に予定聞いてきてもらっていい?」
又兵衛「はい。この辺なら我らなら四半刻もかからないので今から行って来ましょうか?」
松若丸「え?そんな早いの?じゃあお願い。」
又兵衛「ハッ、では行ってまいります。」
又兵衛が部屋を出て行った。
入れ替わりで千凛丸が戻ってくる。
千凛丸「若、皆来ました。」
松若丸「ああ、入って。」
入ってくるなり、座る前から皆が話し始める。
竹千代「どうした?鉄砲の話?」
辰千代「昨日入ったんだって?」
鷹千代「是非、試射しましょう!」
長福丸「訓練は必要でしょうけど、火薬って高いのでは?」
松若丸「そう、鉄砲も火薬も高いから、どっちも作ろうと思って、相談しようとしてたんだけど、解決した。」
辰千代「解決?」
松若丸「『検索』で調べた場所を又兵衛に実際見て来てもらおうと思って相談したら、鍛冶師もいるし鉄鉱石の鉱山もあるし山師もいるって。近日中に皆で行こうと思って、向こうの都合を聞きに又兵衛に今行ってもらった。戸隠衆の武器作ってもらったりしてるから知り合いらしい。全く知らない人からの頼みは断るだろうけど、又兵衛の紹介なら頼めば鉄砲作ってもらえるんじゃないかってさ。」
竹千代「おー、めっちゃ上手くいってるじゃん。」
松若丸「ということだから、皆行く日決まったら言うからね。」
一同「わかりました。」
松若丸「じゃあ辰千代、鉄砲の設計図描いて。これも色々と調べた結果、火縄銃ではなく、この時代で材料とか技術でギリギリ作成可能なのは、ミニエー銃だと思う。ただ、普通のミニエー銃じゃなくて後装式のものがいいと思う。火縄じゃなくて雷管式にして。後装雷管式ミニエー銃。ライフリングつけて弾は円錐型にして、火薬も褐色火薬作って、紙製薬莢を作ろう。あと着剣して戦えるようにして。だから、『技術開発』で設計図描いて欲しいのは、まず着剣可能型後装雷管式ミニエー銃、次に雷管、あと円錐型弾、褐色火薬、紙製薬莢、着剣の六つだね。何枚かずつ描いてもらっていい?」
辰千代「なんとなくわかった。要は、火縄銃の弱点の命中率と威力を、ミニエー銃の銃床とライフリングで上げて、撃つのに時間がかからないように後装式にして紙製薬莢作って、雨でも使えるように雷管式にして、万が一の接近戦のために着剣型ね。」
竹千代「なるほど。」
長福丸「全くわかりません。」
鷹千代「三人ともさすがですね。」
千凛丸「さすがそれを思い付く若がすごすぎですけど、それをご理解される二人もすごいです。」
秀胤「銃に剣が着くんですか?」
千凛丸「そうみたいですね。銃の名前も大峰の名前に似ていいですね。」
源太郎「確かに大峰銃と名前を付けてもいいかもしれませんね。」
松若丸「それ面白いな。上手く出来たら名付けるか。」
辰千代「鉱山の方は?」
松若丸「鉱脈の発見法はまあこっちで調べるから、採掘法と測量法と選別法と高炉の設計図とかかな?あと何かある?」
竹千代「そんなところかな?よくわからんからな。」
辰千代「鉄鉱石だからそんなもんかな?とりあえずそれ描いておくわ。」
松若丸「よろしく。」
その後も話していると又兵衛が帰って来た。
又兵衛「若、戻りました。」
松若丸「おう、又兵衛か、早いな、お帰り。入って。」
又兵衛「はい、失礼致します。」
松若丸「どうだった?」
又兵衛「はい、上手くいきました。鍛冶の方も、山師の方もそれぞれ頭が、噂の大峰家の若殿が会いたいと言っているということで会ってくれるそうです。家臣の話も匂わせましたが、信濃の神童にならと家臣になってくれるようです。ただ、鍛冶集団は喜んでといった感じでしたが、山師の方は仕方なくという感じがしました。」
松若丸「そうか!山師の方は気になるけど、まあよかった。けど、噂の?」
千凛丸「浅川園からの食糧、薬草とか、治水とか、温泉とか、税率とか、関所撤廃とか、善政を布いている、と若はこの辺一体では知らぬ者はないですよ。信濃の神童ですから。」
松若丸「そうなのか。それでいつ?」
又兵衛「二日後にお越し頂きたいと。」
松若丸「わかった。じゃあ申し訳ないけど、学問、稽古、修行は休みにしてもらうよう、千凛丸手配してくれ。じゃあ当日は朝早く出るからな。」
一同「ハッ。」
千凛丸「畏まりました。」
松若丸(上手くいきそうだな。『勧誘』は使わなくても良さそうだね。)
竹千代(そうだな。最近使ってないな。)
辰千代(それはいいけど、この銃作れるのかな?)
松若丸(まあ聞いてみてだね。)
松若丸「又兵衛、その頭たちの名前わかる?」
又兵衛「鍛冶の頭は治平でその子が忠兵衛です。山師の頭は藤井与平でその子が与右衛門です。」
松若丸「わかった。ありがとう。千凛丸、備後に話して一応いくらか資金準備しといて。馬で行くから、皆で少しずつ持って行けるくらいで。」
千凛丸「畏まりました。」
松若丸(辰千代、名前聞いてた?大峰家に仕えたらいいって『神託』やっておいて。)
辰千代(了解。)
竹千代(『諸勢力の伝手』は?)
松若丸(今回は領内だから大丈夫かな。)
竹千代(了解。)
松若丸「では、本日は解散。」




