第二章 15.5話 番外編 千凛丸と信秀
“千凛丸は気付いている”
私は千凛丸。大峰家譜代家臣の室賀備後守秀賢の嫡男。大峰家嫡男の松若丸様の小姓頭。
あれは四年前、出浦殿が大峰家に来た頃。
それまでも賢いお子だったが、若が突然別人のようになった気がした。
まるで全てを知っているかのような、大人と話しているような感覚になったのを覚えている。山下竹千代と中村辰千代もだ。
この四年でもうすっかり慣れたが、三人は我々が知らないようなことを話したり、知っていて当然のように話したりして、私を始め、大久保長福丸や黒田鷹千代などは付いていけないことがある。
長福丸と鷹千代は三人と同い年で、物心ついたときからそうだったため、気にならないのだろう。
一度聞かれたことがある。
長福丸「千凛丸殿、若と竹千代、辰千代が話していることがわらないときがあるのですが、精進が足りないのでしょうか。」
鷹千代「千凛丸殿はお分かりになっているのですよね?どうしたらいいでしょうか?」
千凛丸「あれは神童とまで言われている若とあの二人だから分かることだ。我々は最大限、若とあの二人を支えていけばそれでいいのだ。」
長福丸・鷹千代「はい、わかりました。」
それ以上何も言えなかった。
そこで私は考えた。
こんなことあり得るのかわからないが、若たち三人は、ずっと先の世から来たのではないか。
たまに、現代だったらとか俺らの世ならとか言っているのを聞いたことがある。しかしこんなことあり得るのだろうか。
何でもタイムスリップなるものがあるとか。最近流行りの転生や転移なるものがあるとか。
いや、何だっていい!
もしそうだったとしても、若が素晴らしい知識と能力を持っていることに変わりはない!学問も誰より出来、軍略も備え、武術や馬術も優れている!
こんな若に生涯付いていこうと思っている。
松若丸様の第一の家臣として松若丸様を支え続けることが私の生きる道、私の生きる意味なのだ。
決意を新たにした千凛丸だった。
“信秀の決心”
わしは大峰家当主民部大輔信秀。
大峰大和守信義の嫡男として、藤原上杉氏の支族大峰家の当主として幼い頃から自分に厳しく、ずっと研鑽を怠らずに努力し続けてきた。
一門郎党も優秀な者ばかりだったため、皆の助けもあって何とか当主としてやってきた。
それが最近、やはり生まれ持った才能には敵わないと思っている。
原因は我が子、松若丸だ。
嫡男が優秀なことは喜ばしいことだ。だが優秀過ぎると親はこんな感情にもなってしまうらしい。
他家であったら、あそこまで能力が突出していると煙たがられることもあるだろう。
わしは思う。あれには敵わない。信濃の神童だと言われるのも納得できる。
父上も優秀だった。今の大峰家を作ったのは父上だ。
わしはそれをしっかり次代へ繋ぐためにと思ってやっている。
そして、松若丸の代で飛躍するだろう。もしかしたら上洛して天下に号令をすることだってあるかもしれない。そのためにわしは基盤を固める。それが一族祖先のため、我が子のためだ。
松若丸がより動きやすいようにと、なるべく早く隠居し当主を譲ろうと思う。
ただ、まだ早い。能力的にではなく、今元服し当主へとなると自由が効かなくなり、かえってやりにくいだろう。あと四、五年はわしが当主として矢面に立っていよう。
それまでの間も松若丸が思うように大峰家を引っ張っていけるようにしよう。
一族のために我が子のためにわしはできることをやっていく。
父上や評定衆には先に話し、次の評定のときに、皆に話しておこう。
そう決心した信秀だった。
いい父親だ。まだ若いのに。




