表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第七章
189/191

第七章 178話 竹千代

1555年3月20日


竹千代「松平竹千代と申します。」


松平竹千代が無表情に挨拶をした。


ここは俺の屋敷の大広間。今朝、大峰に到着した松平竹千代一行は一度、本丸内にある貴賓館に入り、少しの休憩の後、ここまで登って来た。

大広間には左右に十神隊の将たちも揃っている。


信輝「大峰右兵衛督信輝です。ご無事で何よりでした。ちょっと強引で申し訳なかったけど、これから宜しくお願いします。屋敷は本丸に建設するので、それまでは来賓館で過ごしてください。できれば、ここ大峰を我が家だと思ってもらえると嬉しいです。」


俺の丁重な挨拶に若干驚いた様子の竹千代だが、あまり表情は動かさない。


竹千代「ありがとうございます。」


11日からここまでだいぶ時間がかかったのには経緯がある。


11日の夜に竹千代一行を連れて駿府を出た采女だったが、采女たちが駿府へ入った後に甲駿間が今川の兵たちに固められており、それに早く気付いた采女はそこを通過するのは断念し、方向転換して清水湊の八善屋に入った。甲駿間の今川兵の知らせを聞いた時はことが露見したのかと思ったが、興国寺城での戦に今川勢が出陣していたため警戒していただけだった。興国寺城では武田勢と今川勢、北条勢が対峙したが、大きな戦はなくそれぞれ退いている。


その後、松平家臣たちが全員駿府を抜け出すのを待ち、14日に八善屋の船で全員で三河へ向かい、16日に岡崎城に入った。何年かぶりに竹千代一行は岡崎への帰還を果たしたことになる。


一方で12日に岡崎への大量の物資を持ち、兵を引き連れて大峰を出発した肥後と陸奥も15日の夜に三河の大樹寺に入っていた。途中、井伊谷に寄りそこでも物資の提供をしてくれている。


そのため、16日には三河岡崎で、松平竹千代、岡崎松平家臣、肥後と陸奥が会うことになった。この時は『念話』を使い、二人に俺の考えもやり取りしながら話してもらった。


岡崎松平家臣たちは主君竹千代を救い出してくれ、また大量の物資を提供してくれた大峰にとても感謝してくれたらしい。


そのまま竹千代が岡崎に留まることも選択できたが、まだ竹千代が幼く、三河ではまだ反岡崎松平で親今川派の家が多数あることから、ひとまず竹千代は大峰で匿うことになった。その方が安全だからだ。井伊直親と同じように。


今回の物資を基に岡崎松平家臣たちがこれから地盤固めを行う。それが整い、竹千代の成長を待ち、竹千代は岡崎に城主として戻ることになっている。


また、肥後と陸奥がそれぞれ千五百ずつ、合わせて三千の兵を連れて行ったため、一時、三河で平定戦を手伝うことにもなった。今まで岡崎城代として入っていた今川家の山田景隆は早くも駿府に逃げ帰っている。こちらは戸隠衆が確認している。


そのため、松平竹千代は数名の家臣と采女、主殿と共に岡崎から信濃へ入り、山間部を抜けて、飯田、高遠、松本を経て、今朝ここ大峰に着いた。


竹千代としてはせっかく故郷に帰ったのに、また他家に行かなければならないという状況に当然不満があるのだろう。


信輝「竹千代殿、今回の件は心中お察しします。ただ、大峰は竹千代殿を人質とは微塵も考えておりません。松平家とは対等の同盟を結びたいと思っております。竹千代殿にはこの城では自由にしてもらって構いません。当家が行っている政治経済の施策や、農産業、軍事関係についてもお教えしましょう。後で、城の内外をご案内しましょう。」


竹千代「よろしいのですか?」


信輝「うん。俺が案内するよ。」


砕けた感じの方が良さそうなので話し方をいつも通りにしてみる。


竹千代「よろしいのですか!?」


なんだ、表情変わるじゃん。今までは抑えていたのか。それが習慣になっているのか。


信輝「どっか見たいところある?」


竹千代「浅川園という見たこともない野菜や果実などを育てている広い農園があると聞いたのですが、そちらを見てみたいです。」


はっきりと言う竹千代に後ろに控えていた年上の家臣が慌てている。


信輝「よく知ってるね。いいよ。これから行こうか。他はある?」


竹千代「天守閣という大きな建物にも登ってみたいです。」


さらに家臣が慌てている。


信輝「来るとき見えた?いいよ。他には?」


竹千代「須坂に巨大な練兵場があるとも聞きました。そこにも行ってみたいです。」


家臣がもっと慌てている。


信輝「いいよ。それはまた後日行こう。他は?」


竹千代「野尻湖にも何やら工場なるものがあるとか。そこにも行ってみたいです。」


家臣はもう大変だ。


信輝「いいよ。ちょっと距離あるからそこも後日行こう。まだありそうだね。」


竹千代「越後の直江津の湊を整備されたとも聞きました。船や塩田も見てみたいです。」


家臣は諦めたようだ。


信輝「いいよいいよ。全部行こう。なるべく俺が一緒に行けるようにするよ。」


竹千代「よろしいのですか?」


信輝「うん。他にもあったらどんどん言って。色々と見て学んでね。」


竹千代「ありがとうございます!」


信輝「ところで、後ろの家臣たちを紹介してもらってもいい?」


竹千代「はい。これに控えますのは、酒井雅楽助正親、同じく小五郎忠次、石川与七郎数正、天野又五郎康景、安部徳千代正勝、平岩七之助親吉、榊原平七郎忠政でございます。」


信輝「この皆が駿府にも一緒に行ってた?」


竹千代「さようにございます。」


慌てていたのは、この中で年長の酒井雅楽助正親のようだ。酒井忠次と石川数正ってしばらく徳川家を引っ張っていく二人じゃん。


信輝「そうか。皆さんも苦労されましたね。大峰では気楽に過ごしてください。松平屋敷は大峰の一門、重臣の屋敷と同じくらい大きいの造る予定なのですが、もし手狭だったら言ってください。それから、竹千代殿も皆さんも、学校で学んだり、道場で新陰流の修行したりも希望あれば言ってください。手配しますので。」


そう言うと家臣の皆さんはとても喜んでくれた。


俺は話しながら、どれが誰なんだろうと思って『鑑定』を使ってみる。


信輝「あっ。」


『鑑定』を使って、忘れてたことを思い出して、思わず口に出してしまった。皆が俺を向く。


信輝「いや何でもない。しかし、竹千代殿はうちのことよく色々知ってるね。」


ごまかすために話題を変えた。


竹千代「実際にどんなことをやっているかまでは知りませんが、大峰殿が色々なことをされていることは有名ですから。実際、八善屋から商品を買っている人は駿府でも多かったですし。」


信輝「そうなのか。まあそりゃそうか。それで儲かってるわけだしな。」


竹千代「そのほとんどを大峰殿がお考えになられたと聞きました。」


信輝「まあ、全部じゃないけどね。それに皆の協力があってこそだし。」


竹千代「素晴らしいです。これから多くを学ばせてください。宜しくお願い致します。」


信輝「こちらこそ。とりあえずさっき言ったようにしばらくは貴賓館にいてください。何かあったら、ここに使いを出してもらえれば。俺も今のところはしばらく大峰にいる予定だし。」


竹千代「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせて頂きます。」


信輝「じゃあ、今から浅川園にでも行こうか。上野は付き合って。他の十神隊の皆は解散で。」


一同「ハッ。」


その後、松平一行を引き連れて浅川園を一周した。

松平一行は一つ一つにいい反応を示してくれた。



夜、部屋に戻って来た。寝室である笹の前。


信輝「采女、主殿、二人ともありがとう。報告は都度聞かせてもらってたけど、大丈夫だった?配下の皆も無事?」


采女「ありがたいお言葉。お役に立てて何よりです。」


主殿「何も問題なく。配下も皆無事です。」


信輝「それならよかった。駿府はその後どう?」


采女「松平屋敷に少し人の出入りがありましたが、特別騒ぎにもならず。」


信輝「そんなもんなんだ?義元殿は?」


采女「特に興味も持たれなかったようです。」


信輝「婚姻の話は?」


采女「義元殿が言い出したことではなく、周りが画策していたようです。三河では現状、ほとんどが反岡崎松平、親今川を表明しており、義元殿はもう三河は今川領だとお考えのようなので。」


信輝「なるほど。じゃあ義元殿としては岡崎松平家と、親岡崎松平の家を攻めるきっかけが手に入ったことになるのか。」


采女「そうなりますね。」


信輝「じゃあ、肥後と陸奥に頑張ってもらって、少しでも勢力拡大しておかないとだね。」


采女「はい。」


信輝「伝えておくよ。ありがとう。」


采女「ハッ。」


信輝「あとさ、明日から竹千代殿連れて領内まわろうと思うから、また宜しくね。せめて今日はゆっくり休んで。」


采女「ハッ。」


主殿「畏まりました。」


信輝「又五郎と小次郎も頑張ってくれてるから、このまま側にいてもらうよ。二人とも宜しく。」


又五郎・小次郎「ハッ。」


信輝「じゃあまた明日から頼むね。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ