第七章 171話 子供たちと未来への投資
1555年2月28日
備前、肥後、陸奥を除く十神隊の将たちと、掃部、美濃、修理、勘十郎、桐生、それから久しぶりに弾正も参加させ、軍議という形にした。
信輝「皆、連日集まってもらってすまないね。そして、弾正、久しいな。長尾景虎殿はじめ越後の見張りを任せてしまって悪いね。」
長尾景虎殿が栃尾城を居城にしているため、少し遠いが沼田城の真田弾正に真田忍を使って見張りを任せている。また、元の沼田城主だった、行方不明のままになっている沼田万鬼斎の動向も警戒させている。そのため、普段は前橋城で軍議を行う時も弾正には沼田に在城してもらっている。
弾正「とんでもございません。重要な役割を与えて頂きありがとうございます。そして無沙汰お詫び申し上げます。殿におかれましてはご壮健そうで安心致しました。」
信輝「心配かけてすまなかった。もう大丈夫だよ。じゃあ、今日集まってもらった話を始めるよ。」
まずは、上野、武蔵の状況を説明し、中将により足利藤氏殿と交渉していることを説明した。
信輝「藤氏殿の後ろ盾になりながら、こちらはこちらで武蔵、下総の北条に従っている者たちを切り崩していく予定だよ。ここまではいいかな?」
皆、納得してくれたようで頷いている。
信輝「そこで、配置替えに協力して欲しい。まず、美濃には館林城に入ってもらう。館林城はここ前橋城ほどじゃないにしてもそれなりに大きく修築しようと思ってる。家族の引っ越しは時間がかかるだろうから、まず兵を率いて先に行って欲しい。引っ越しは掃部も手伝ってくれ。」
美濃「ハッ。ありがたき幸せ。館林城はお任せくだされ。」
掃部「畏まりました。」
信輝「次に、修理には本庄城に入ってもらう。修理もまずは兵を率いて向かってくれ。美濃には館林城に腰を据えてもらおうと思ってるけど、修理の方はまた近いうちにもう少し南に移ってもらうと思うから、申し訳ないけどそのつもりで。」
修理「ハッ。」
信輝「勘十郎は、これから北、西の方で手が足りなくなることが予想されるから一緒に大峰に帰って欲しい。」
勘十郎「なるほど。畏まりました。」
掃部「殿は大峰に戻られるので?」
信輝「うん。一度戻って、武蔵、下総の状況見ながら軍を編成し直してまた出陣します。それまでは掃部と新田金山城の伊勢とで臨機応変に頼んだよ。」
掃部「ハッ。」
信輝「あと、新田金山城は廃城にして西側の平地に新田城を築いて、桐生助綱と桐生家を継ぐことになった半四郎を入れる予定だ。」
桐生「あっ、ありがたき幸せ!」
信輝「頼んだよ。」
桐生「ハッ!」
仁科家を継ぐことになっていたが、仁科盛政に嫡男が生まれたため、大峰に戻った半四郎を娘しかいないという桐生家の養子とすることにした。以前から桐生助綱とその同族の佐野豊綱には内々に話していたが、これが正式な発表となったため、他の者には多少驚きがあったようだ。
信輝「これによって、今までの伊勢崎、藤岡は廃城にする。馬場家、内藤家がそれぞれ移ったら掃部手配してくれ。あと、今まで伊勢崎、藤岡で管理していた土地も引き継いで。」
掃部「ハッ。」
信輝「桐生も柄杓山城から新田城に移って欲しいんだけど、大丈夫?」
桐生「はい。柄杓山城は先祖伝来の地ですが、殿の命とあらば喜んで移らせて頂きます。」
信輝「ありがとう。もちろん元の領地はそのまま桐生の領地として安堵するので。」
桐生「ありがとうございます。」
信輝「俺からは以上だけど、皆から何ある?」
掃部「由良、赤井のその後はいかがしたのでしょうか?」
信輝「小田原に向かったみたいだよ。まあ重用されることはないだろうけどね。かわいそうなことに。」
掃部「それは自業自得でしょう。仕方ありますまい。」
信輝「まあね。あ、あと由良の国寿丸は、本人の希望と、采女と相談した結果、戸隠の里で育てることになりました。」
武蔵「それは、忍としてですか?」
信輝「そうなんだよ。采女に聞いたら、見込みがある子を集めて戸隠衆として忍を育てたりしてるんだって。知ってた?」
近江「知りませんでしたが、まあ考えたらそりゃありますよね。」
下総「しかし、皆が皆、優秀な忍になれるとは限らないのでは?」
これ以上言っていいのかと思い、俺が座っている上段の横、一段下がったところに控えている采女の方を見た。采女が頷いたのを確認し、続ける。
信輝「戸隠衆は戦とか他にも色々な理由で孤児になってしまった子たちを戸隠の里で育ててるんだって。で、全員が采女とか主殿みたいになれるわけじゃないから、中には戸隠の里で仕事をしたり、他の所に諜報員として住んで普通の生活をしたりしてるんだって。」
播磨「なるほど。」
武蔵「それはいいですね。もちろん戸隠衆としてもいいのでしょうし、孤児を助けるということがとてもいいことだと思います。」
近江「そうですね。結構いるでしょうしね。」
下総「うちでやってる募集って、兵の募集とか、鉱夫の募集とか、あと城下に移り住む人たちだって、もうある程度自分の意思で考えられる人たちですからね。」
武蔵「はい。ですから、これから行く先々でもそうですし、戸隠衆が行った先々で孤児を大峰に連れてきて大峰で皆育てるということはありなんじゃないでしょうか?」
播磨「近隣に孤児を集めるために派兵してもいいでしょうね。」
武蔵「領内でも、孤児になった子供たちを村で面倒を見ていることもあるでしょう。今挙がったことを実施するだけで、かなりの数の子供たちを救うことができるのではないでしょうか。」
信輝「そうだね。その子たちが育ったら、色々な面で活躍してくれるだろうね。じゃあ、これに関しては三家老のあの三人が戻ってきて落ち着いてから取り組もうと思ってたけど、武蔵がそこまで熱くなってるなら武蔵に任せようかな。どう?」
武蔵「ありがとうございます!是非やらせてください。」
越前「では、近隣へは私をお遣わしください!」
信輝「資金はあるから予算はどれくらい使ってもいいよ。集まった子たちは一般学校で学んでもらったらいいし。大峰に戻ったら、とりあえず案をまとめて持ってきて。」
武蔵「ハッ!」
信輝「よし。他何かある人ー?」
弾正「殿、長尾景虎殿との戦はいつになされるのでしょうか?かなり焦れているようですが。」
信輝「そうだね。一度戻ったら、関東に出てくる前に、先にそっちやるか。長尾景虎殿だけじゃなくて玄蕃も焦れてるだろうし。」
弾正「その際は我ら真田一族も使ってくだされ。」
信輝「あ、本当?じゃあ、沼田勢も戦力として考えて作戦立てるよ。」
弾正「ありがとうございます。殿の指揮下で働けること、楽しみにしております。」
信輝「じゃあ、また連絡するね。」
弾正「お待ちしております。」
信輝「これくらいかな?じゃあ今日は、弾正と会うの久しぶりだし、方向的に、修理とは会うだろうけど、美濃とはしばらく会わなくなる可能性もあるし、軽く宴にしよう。掃部頼んだ。」
掃部「ハッ。」
信輝「では皆一度解散。それぞれ宜しく!」
一同「ハッ。」
その夜。
最初は席が決まって始まったが、段々と皆移動してそれぞれ少人数で集まって飲み始めた。
俺は弾正、美濃、修理と話している。
弾正「殿、愛はお役に立てておりますか?」
信輝「もちろん。息災でしっかりやってくれてるよ。」
弾正「それはよかった。左衛門尉も源五郎も面倒を見て頂き、感謝しております。」
信輝「いやいや、皆優秀でこちらこそ助かってるよ」
弾正「殿、この機に次男の徳次郎もお預かり頂けませんでしょうか?徳次郎だけは時期が合わず我が手元におりましたが、これにも殿の薫陶を受けさせたいのです。」
信輝「そしたら弾正の手元に子供残らなくない?」
弾正「いえ、まだ源五郎の下にも源次郎というのがおります。それに殿にお預かり頂けるのであれば手元には残らなくてもいいのですが。」
信輝「そうなの?じゃあ徳次郎はお預かりしようか。いくつだっけ?」
弾正「ありがたきお言葉。12です。」
信輝「元服は?」
弾正「そろそろさせようかと。」
信輝「じゃあこれを機に元服させようか。俺が烏帽子親になろう。」
弾正「よろしいので?」
信輝「うん。でもどうする?元服はさせるけど、小姓衆に入れる?それとも左衛門尉の下で働いてもらう?」
弾正「お許し頂けるのであれば殿のお近くに置いて頂きたく。」
信輝「そうか。じゃあ、元服はするけど、とりあえず小姓衆で働いてもらおうか。」
弾正「宜しくお願い致します。実は本日連れて参っております。」
信輝「そうか。じゃあ明日元服式やって、今回大峰に来てもらうよ。」
弾正「重ね重ね忝く。宜しくお願い申し上げまする。」
信輝「うん。こちらこそ。子供四人も預けてくれてありがとう。」
美濃「弾正殿は子沢山で羨ましいですな。」
修理「本当に。」
信輝「二人のところは一人だっけ?」
美濃「はい。皆夭折しており、今は彦左衛門という4つの子だけです。」
修理「私も同じ状況で、源右衛門という3つの子だけです。」
信輝「そうか。大変だったね。」
美濃「ありがたきお言葉。殿、我が子、彦左衛門も小姓衆としてお預かり頂けませんでしょうか?」
修理「我が子、源右衛門もお願い致します。」
信輝「でもまだ幼いから親元から離したらかわいそうじゃない?それに一人だから手元で大事に育てた方がいいんじゃない?」
美濃「一人だからこそです。私のところはありがたいことに殿のお陰を持ちまして、衣食住は整っておりますが、大峰に比べたらかなり程度は低いです。大峰では衣食住ばかりか、医療も充実しており、学ぶ環境も整っております。」
修理「美濃殿の言われる通りです。だからこそ一人子を殿の元でお育て頂きたく。その方が我が子も幸せでありましょう。」
信輝「なるほど。それは確かにそういう風にも考えられるか。わかった。じゃあ、彦左衛門と源右衛門も預かるよ。」
美濃・修理「ありがとうございます。」
二人は同時に頭を下げた。
部屋に戻ってきた俺は考えた。確かに美濃が言った通りかもな。この時代、かなり小さいうちに夭折してしまうことが多い。それに、今日話したように色々な理由で身寄りがなくなってしまう子も多く、成人する率がかなり低い。
武蔵にやってもらおうと思ったのは孤児院だったけど、それだけじゃなくても、子供を大峰に預けていい環境で育ててもらいたいという考えを持つ親もいるかもしれない。それも武蔵に考えてもらうか。
今ある学校とは別に、その下の機関を作ればいいんだろうな。幼稚園、保育園みたいな。名前はまた考えるとして。これやり始めたら莫大な資金が必要になるだろうけど、まあ余裕はあるし、十年後を考えたらやって損はない。先々のために始めてみるか。




