第七章 168話 新田金山城と上州
1555年2月24日続き
少し休息した後、采女、主殿を連れてこの新田金山城の中を見て回った。ここにいる十神隊の将たちにも見ておくように言ってある。
入城させた兵は一部で、残りの兵たちは昨日の夜に建てた城外の天幕で休息させた。
今は、曲輪などを一通り見て回り、本丸に向かっている。
信輝「山城ってやっぱ不便だね。守るのにはいいのかもしれないけど。」
采女「そうですね。戦のための城ですから。」
信輝「大峰城とは違うよね。」
主殿「殿、大峰城と比較したらほとんどの城は不便だと感じましょう。」
信輝「まあそうなんだけどさ。この城どうしようかね。」
主殿「どうしようとは?」
信輝「これからの城はさ、戦のためだけの城っていらなくなって来ると思うんだよね。それにこんな山に籠ったとしても大量の鉄砲があれば落とせるし。山城に籠城すれば攻め落とされないってのは一昔前の話だよね。」
主殿「なるほど。」
信輝「だから、この城は廃城にしようかな。」
采女「よろしいのですか?」
信輝「うん、代わりにこの辺のどこかいい場所にこの地域を治めるための城でも造るか。でも手間掛かるかな?」
采女「規模にもよると思いますが。」
信輝「上州は全て領地になるわけだし、いい機会だから城と誰を配置するかも考え直した方がいいよね。」
主殿「そうですね。」
信輝「皆、もう本丸に戻ってるかな?」
采女「まだだと思います。皆様、かなり細部までご覧になっているようですので。」
信輝「まあそうか。自分が城の縄張りする時の参考にって言ってあるしね。じゃあ本丸で待とうか。」
主殿「呼んで参りますか?」
信輝「ありがとう。待ってるから大丈夫だよ。」
主殿「畏まりました。」
本丸の城主が使っていたと思われる屋敷に入り、皆を待つことにした。
信輝「この城の話とかは皆が来てからにするとして、先に情報の整理をしておこうか。」
采女「ハッ。」
信輝「まず、北条の動きだけど、小太郎は来てるかな?」
采女「いらっしゃっていないですね。北条には今のところ動きはないはずですが、小太郎殿がいらっしゃらないということはこれから何か動きがあるのかもしれません。」
信輝「そうか。戻って来たら聞いてみよう。他はどうなってるかな?三日前に書状送った先はどうなってる?返事って来た?佐野と足利長尾からは返事来たからとりあえず待機するように伝えてくれたんだよね?」
采女「はい。お伝えしたおります。そして、つい先程、武田家、佐竹家、越後長尾家へ行っている者も戻って参りました。」
信輝「それならちょうどよかった。」
采女「それぞれ書状をお預かりしておりますので、ご覧ください。」
信輝「ありがとう。」
中を読んでみる。
佐竹殿からは、縁類として俺が目を覚ましたことへ祝着至極だとの言葉があり、今後も共に北条へ対してお願いしたいと書かれ、最後には徳寿丸との縁組をできるだけ早く行いたいと書いてあった。今後もとてもいい関係が築けそうだ。
晴信殿からも同じようにいいことが書かれており、こちらは義信殿からも手紙をもらった。こちらもいい関係が維持できている。そして、近々援軍として駿河の駿東郡からと甲斐から北条領へ攻め入ると書かれてあった。恐らく駿河でまだ北条方が持っている興国寺城と、武蔵は八王子城か津久井城、田代城辺りになるだろう。まあそこは任せるけど、あまり北条領を武田家が攻め取るのもこちらの分が減ってしまうので、それはそれで難しいところだ。
長尾景虎殿からは雪が溶けたのだから早く越後に来て戦をするべきだと文句がつらつらと書かれてあった。今は相手している暇がないので少し放っておこう。采女に言って、春日山城の湯塚玄蕃と飯山城の高梨勘解由、沼田城の真田弾正に注意するように使いを出しておいた。
信輝「中将の方はどうなった?」
采女「はい。順調に忍城での歓待を受けて騎西城に向かわれております。」
信輝「それならよかった。あとは何かあるかな?」
采女「はい。京からの情報ですが、鎌倉公方一行の出発は三月の後半になるようです。」
信輝「そうか。できるだけそれまでに関東の支配を強めておきたいね。」
采女「はい。それから、これはお耳に入れるべきかわかりませんが、そしてまだ噂ですが、今川殿の元におられる松平竹千代殿が今年のうちに元服し、義元殿の養女と婚姻されるとのことです。」
信輝「え?そうなん?そんな早く?」
采女「はい。おそらく実行されるでしょう。」
信輝「それなんとか邪魔できない?もう少し先だと思ってたわ。竹千代殿にはうちの姫をって思ってたんだけど。」
采女「これは何とも。」
信輝「三河の皆さんも今川の婿になるって快く思ってないと思うんだけど、そうじゃない?」
采女「それはそうでしょうね。」
信輝「竹千代殿が今川の婿になったら完全に三河は今川の属国になっちゃうからそれもよく思ってないよね?」
主殿「それはそうでしょうが、殿、何をお考えで?」
信輝「よし!竹千代殿を誘拐してしまおう!」
采女「本気で仰ってますか?」
信輝「采女と主殿ならできる!」
采女「まあ出来なくはないでしょうが…。」
主殿「我々二人とも殿のお側を離れてしまうのは危険ではないでしょうか?」
信輝「じゃあその間は俺は戦には出ないってのはどう?」
采女「それだけでは…。」
信輝「じゃあその間、大峰城に戻ってる。」
主殿「今戻れますか?」
信輝「竹千代殿を手に入れる方が大事だと思うから戻るよ。大峰に戻って、俺の側には主殿の子の又五郎と、小太郎の子の小次郎を付けるということでどうでしょう?」
主殿「まだあれにはそこまで頼れるわけではございませんが。まあいないよりは。」
采女「そんなに竹千代殿を評価されているのですか?」
信輝「そうなんだよ。どうしても家臣にしたい。」
顔を見合わせる二人。
主殿「畏まりました。では、我らでなんとか致しましょう。」
采女「まだ噂ですので、十日や二十日は余裕がございましょう。」
信輝「ありがとう!頼むよ。」
采女・主殿「ハッ。」
信輝「じゃあさ、館林城に行った三人にも伝えてもらっていい?」
主殿「殿、あのお三方にはここからでもお話しできるのでは?」
信輝「そうか。忘れてたわ。やってみる。」
信輝(三人とも聞こえる?)
陸奥(びっくりした!)
肥後(これ確かに急にだと驚くわ。)
備前(殿、いかがされましたでしょうか?)
信輝(急にごめんよ。そして申し訳ないのだけど、俺館林城には行けなくなったわ。)
備前(何かございましたか?)
信輝(ううん、問題は起こってないよ。でも大峰に戻ろうと思ってね。)
陸奥(何で?)
信輝(順を追って説明すると、今川の人質になっている松平竹千代殿がもうすぐ元服して義元殿の養女と婚姻を結ぶそうなのです。でも、俺としてはなんとか竹千代殿は大峰の婿にしたいわけです。そこで采女と主殿に竹千代殿を誘拐してもらうことにしました。)
備前(そんなことできるのですか?)
信輝(采女と主殿なら大丈夫!)
陸奥(竹千代殿っていくつ?)
信輝(今12。)
肥後(そんな早くに元服して嫁をもらうのか。)
信輝(うん。だからね、采女と主殿にお願いしたところ、まあ先日撃たれたり、何日も目を覚まさなかったりとありましたので、俺は、防御力が高い大峰城に戻ることになったのです。)
備前(上野や武蔵はよろしいのですか?)
肥後(まあ松平竹千代を手に入れるためだったら仕方ないか。)
陸奥(うん、まあそれは仕方ない。)
備前(え、そうなのですか?)
信輝(そうなのです。だから申し訳ないけど、俺、大峰に帰るね。)
陸奥(了解。こちらはどうする?)
肥後(もうそろそろ館林城に着くけど、出浦に探らせたらもう城には誰も残ってないみたいよ。)
信輝(それなら戦にならなくてよかった。まだこれ誰にも言ってないんだけど、配置替えをしようと思って。)
陸奥(どんな風に?)
信輝(まず、館林城はしっかりした城に造り直して美濃を置く。)
肥後(美濃の伊勢崎城は?)
信輝(伊勢崎城と藤岡城は廃城にするよ。元々そんなしっかり造ってないし。)
備前(そうしましたら修理殿は?)
信輝(修理は本庄城に入れる。)
肥後(勘十郎殿は?)
信輝(勘十郎はこれから多分西で手が足りなくなるからとりあえず連れて帰るよ。)
陸奥(そうなの?新田金山城は?)
信輝(この新田金山城は廃城にして、西側の麓に新田城を建てて、桐生を継がせる予定の半四郎を入れようと思って。すぐには手が回らないからしばらくはこの城使うけど。)
肥後(そしたら廃城にする必要ある?)
信輝(この城入って思ったんだけど、山城過ぎて不便なんだよね。これだと経済の中心地にはならないからさ。)
陸奥(なるほど。)
備前(さすが殿です!)
信輝(と、いうことだから、三人は美濃が行くまでは館林城押さえておいてもらって、美濃と交代したら大峰に帰って来て。)
肥後(対北条は大丈夫?)
信輝(今は中将一行に任せよう。一度様子見です。またその辺が動いたら関東に出てくるから。)
陸奥(了解。)
備前(では、こちらは館林城に入って美濃殿が来るまで待機します。殿、お気を付けて。)
信輝(ありがとう。三人も気を付けてね。悪いけど宜しく。)




