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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第七章
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第七章 167話 国寿丸と使者

1555年2月24日


采女「殿、よろしいでしょうか?」


天幕の中で寝ていた俺のところに采女が来た。さっき寝たばかりだから、まだ日付がちょうど変わった頃だろう。


信輝「もう動いた?」


采女「いえ、城に入った国寿丸殿のご報告です。」


信輝「そうか。どうなった?」


采女「由良殿や一族の方々の話し合いで、国寿丸は大峰に仕えさせると決まりました。よくある、子供たちをいくつかの家に仕えさせることにより家名を残すということが目的です。」


信輝「なるほど。まあ目的はどうあれ国寿丸がこちらに来ることになったのはいいんじゃない?」


采女「そうですね。」


信輝「それで由良勢としてはどうするんだろう?」


采女「まだ決めかねているようですが、出陣の準備はしております。」


信輝「まあ籠城しても仕方ないもんね。」


采女「はい。」


信輝「北条からの援軍とかないよね?」


采女「はい。今のところ北条に動きはありません。」


信輝「他は?」


采女「今のところは特に動いておりません。」


信輝「そうか。今思ったんだけどさ、もし由良勢が逃げたとして、館林城に入られたらちょっと面倒じゃない?」


采女「館林城の兵はほとんど逃散してしまったためもう百もいればいい方ですが。」


信輝「そうなの?でも、ここも一万もいらないだろうから先に館林城にも向かわせようか。」


采女「畏まりました。どなたに行って頂きますか?」


信輝「備前、肥後、陸奥にしよう。主殿、呼んで来てもらっていい?」


主殿「ハッ。」



すぐに三人が入って来た。


肥後「どうした?」


陸奥「何かあった?」


備前「我々三人だけですか?」


信輝「うん。こんな時間に申し訳ないんだけど、新田金山城はもう片が付きそうだから、三人には先に館林城に行って欲しくて。」


肥後「なるほど。」


陸奥「ここからどれくらいかかるっけ?」


備前「我らの三隊だけであれば一日半掛けたら到着できるかと思います。」


信輝「悪いけど、お願いしていい?」


肥後「わかった。戦術は?」


信輝「任せる。力攻めしてもいいし、開城して退去するならそれでも。」


陸奥「赤井殿の人質は返したんだっけ?」


信輝「うん。明日には着くと思うよ。」


肥後「こっちの城が落ちたらあっちも逃げそうだけどな。」


信輝「それならそれで。」


陸奥「ここが片付いたら館林城に来るの?」


信輝「その予定だよ。」


備前「では館林城でお待ちしております。」


信輝「戸隠衆何人か連れてく?」


肥後「いや、出浦がいるから大丈夫。」


信輝「そうか。じゃあ何かあったら念話で連絡して。三人とも頼んだ。」


肥後「わかった。すぐに行こう。」


三人はそれぞれの隊に戻ると大量の松明を持って東へ進んで行った。



信輝「采女、国寿丸が大峰に仕えることになったってことだけど、朝になったら誰かが送ってくるのかな?」


采女「おそらくはそうだと思います。」


信輝「そうか。じゃあ俺もう少し寝ておくわ。また何かあったら起こして。」


采女「ハッ。」




采女「殿、起きてください。」


また采女に起こされた。目を開けるとまだ外は暗いようだ。


信輝「動きあった?」


采女「由良勢が出陣するようです。」


信輝「こちらに?」


采女「それはわかりませんが、あと一刻もせずに出ると思われます。」


信輝「兵は六百でこっちの七千にはさすがに攻めて来ないよね?」


采女「はい。おそらく。それに先程、三隊が移動した際の松明の動きに驚き二百程まで減ったようです。」


信輝「その二百が農民兵を除いた由良の家臣か。じゃあ城は放棄して全員で出るのかな?」


采女「そのようです。」


信輝「わかった。国寿丸は?」


采女「まだ城内に。」


信輝「いつ来るんだろうね。まあ問題ないと思うけど、一応迎撃の準備をしよう。主殿、皆に伝えて。こっちからは攻めないから、準備だけ。」


主殿「ハッ。」


信輝「采女は引き続き向こうがどう動くか教えて。」


采女「ハッ。」



こちらの兵たちが準備が整った頃には空が白み始めた。


采女「殿、由良勢、出ます。」


信輝「わかった。」


天幕から出て、前線に出てみる。


すると、山の上の方から「エイエイオー!エイエイオー!」と鬨の声が聞こえてきた。どうするのか耳を澄ませる。


声は段々とこちらとは逆の東の方へ降りて行ったようだ。


まあそうだろうね。ここから東に行った後、南に向かい利根川を渡って北条領に行くのだろう。北条方でも来られても困るだろうけど。


そんなことを考えていると、騎馬が数騎近付いて来るのが見えて来た。国寿丸だろう。


「馬上から失礼!大峰様はいらっしゃいますか!」


遠くから女性の声が聞こえてきた。


采女「殿、いかがしますか?」


信輝「出よう。」


青龍の中から馬上のまま采女と主殿を左右に従えて出る。


信輝「私が大峰右兵衛督です。」


見ると国寿丸も後ろの馬に家臣と共に乗っていた。


自然な動作で、すっと馬から降りた女性は話し始めた。


輝子「大峰様、由良成繁が妻、赤井の娘、輝子と申します。此度は我が夫と愚弟がご迷惑をお掛け致しました。これにおります我が子、国寿丸は大峰様にお仕えしたいと申します故に勝手ながら連れて参りました。置いて参りますので、どうぞ煮るなり焼くなりご自由に宜しくお引き回しの程お頼み申します。では!」


言うや否やまたもや自然な流れで馬上の人となり駆けて行った。


なんと使者は、有名な妙印尼だった。まさかそう来るとは。

この頃にはまだ有名になってはいないだろうが、史実だと秀吉の小田原攻めの時に活躍する。


この行動には、あちらの従って来ていた家臣も驚いたようだが、国寿丸を采女に預けて駆けて行った。こういう時って小姓とか、家臣の一人でも付けて行くだろうに本当に国寿丸一人を置いて行った。

まあいいか。


由良勢はやはりそのまま南へと向かって行った。


その後、新田金山城に入城してみたが、これは力攻めすることにならなくてよかった。後に関東七名城と言われたのも納得だった。


ここには誰を入れておくか決めなくてはならないが、とりあえず伊勢を呼ぶことにした。

そして館林城に出発する前に少し休息することにした。


次は館林城だ。

それに昨日、忍城に泊まった中将一行の様子も聞こえて来るだろう。



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