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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第七章
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第七章 165話 人質と戸隠衆

1555年2月23日


ここは前橋城の先日から俺が使っている部屋。

一人で情報の整理と次の手を考えている。


昨日の昼頃にここ前橋城を出発した中将一行は昨日は深谷城で泊まり、今日は成田長泰殿の忍城、明日は成田長泰殿の弟である小田朝興殿の騎西城、そして明後日が簗田晴助殿の関宿城に行き、足利晴氏殿、藤氏殿に会う予定となっている。

調べたところ、藤氏殿、義氏殿のさらに弟の藤政殿も中将から偏諱を受けているようだ。その下にも腹違いの弟がいるようだが、今はいいか。

中将一行と一緒に少数の兵を率いて弥九郎は深谷城に、勘十郎は本庄城に戻って行った。残りの兵はそれぞれ二千ずつを深谷城には笠原家の、本庄城には大井家の家臣が連れて行くことになっている。


しかし、まだ中将と呼ぶのには慣れないな。なんとなく違和感。ただあの後聞いてみたら意外にも征夷大将軍、左近衛中将は従四位下で、俺の官位の右兵衛督と同じ位階らしい。調べてみたら、後に従三位と、従一位左大臣を贈られていたけど、その前の段階だったようだ。自分と同じ位階の官位を俺にくれていたのか。


先日の軍議で忍城の成田殿は信用できないとのことになったが、前公方一行の訪問は快く受け入れると使者が来たため、恐らくこれを機に北条を離れ大峰に従うことになるだろう。まあ前公方が訪れるとなればある程度箔がつくからか。良いような悪いような。忍城までが大峰領となることで鉢形城が攻めやすくなり、武蔵松山城も見えてくるのはいいことだが、いつ裏切るかわからない者を家臣とするのはやはり安心できない。

由良、赤井がいい例だ。かえって手間がかかることになる。


と考えていると采女が帰って来た。


采女「殿、戻りました。」


信輝「お帰り。入って。」


采女「ハッ。失礼します。」


信輝「どうだった?」


采女「はい。やはり由良殿は北条と繋がっております。殿からの書状を確認次第、北条へ使者を発しました。目立たないように籠城の準備も始めております。」


信輝「そうか。まあ予想していた通りだな。」


采女「はい。新田金山城で籠城の準備が整うと厄介になりそうです。」


信輝「そうだな。すぐに出陣しよう。赤井は?」


采女「配下に調べさせましたが、赤井殿も同様に北条と繋がっているようです。ただ、由良殿との連携と北条からの援軍を期待しており、由良殿に比べると籠城の準備はまだのようです。」


信輝「北条からはどんな条件を提示されたんだろう?」


小太郎「由良と赤井で上州半国ずつということのようです。」


また小太郎が急に現れた。


信輝「半国ずつにしたら北条の取り分ないじゃん。」


小太郎「ですから、口約束でしょうな。」


信輝「だよね。由良、赤井は可哀想な気もするけど、仕方ないな。」


小太郎「反旗を翻した以上は仕方ありますまい。」


信輝「うん。他に北条の動きある?」


小太郎「はい。先日こちらで戦をしていた大道寺、笠原、遠山、松田、清水などもそうでしたが、急速に世代交代が進んでおります。垪和兄弟や板部岡、安藤などの名前はこれから聞くようになると思われます。ほとんど殿と年が変わらない者たちです。」


信輝「そうか。その辺さ、もしできるようだったら大峰に来るように引っ張れないかな?」


小太郎「難しいでしょう。氏康様の時からの家臣ならわかりませんが、氏政が取り立てた者たちですからな。」


信輝「まあ、そうか。誰かこちらに内応しそうな人いる?」


小太郎「先日戦に出てきていた太田資正殿は心から北条に服したわけではないので誘ってみる価値はあると思います。それから、今回新たに鉢形城に入った藤田重利殿も勧誘してみてもいいかもしれませんな。」


信輝「太田資正殿ね。まあ確かに。藤田重利殿?って誰だっけ?」


小太郎「武蔵国榛沢郡藤田郷の有力豪族です。」


信輝「藤田…、藤田、そうか氏邦、乙千代丸の藤田か。大道寺とか笠原とかは城主にしないのかな?それか一門の誰かとか。」


小太郎「城主にするには皆まだ若すぎるのでしょう。」


信輝「なるほど。十神隊の将たちと同じだな。」


小太郎「まあ近いところでしょうな。」


信輝「太田殿と藤田殿には書状送ってみるか。」


小太郎「そうしてみてくだされ。」


信輝「わかった。ありがとう。もし他にもいたら教えて。あと引き続き北条がいつ攻めてくるかも探ってね。」


小太郎「ハッ。」


小太郎が消えた。



信輝「よし。一刻後にここを発つ。十神隊の一万でいい。念のため、それぞれ美濃は伊勢崎城に、修理は藤岡城、桐生も桐生城に戻るように伝えて。伊勢、掃部、与一郎は残りの兵と前橋城で待機。主殿、皆に伝えて。」


主殿「ハッ。」


信輝「采女。勘十郎、弥九郎、佐野、足利長尾には新田金山城と館林城を攻めることをまた書状を書くから届けてくれる?」


采女「ハッ。配下に走らせます。」


信輝「それから中将にも書状書いたら届けられるかな?」


采女「はい。父と連携してどこにいるのかがわかるようにしておりますので、可能です。」


信輝「じゃあそれもよろしく。あと、太田殿、藤田殿にも書いてみるか。軍議で話した方がいいかな。でもまあ皆には後で言えばいいか。なんか手紙ばっかり書いてるから俺も右筆欲しいな。采女、岩付城の太田殿、鉢形城の藤田殿にもお願い。」


采女「どちらかは私が行きますか?」


信輝「いや、采女は残って。」


采女「畏まりました。」


信輝「そういえば由良、赤井の人質どうしたっけ?」


采女「ここ前橋城におります。」


信輝「佐野と足利長尾の人質は?」


采女「佐野昌綱殿だけは先日の忍城攻めの際に佐野殿の元に行かれて、まだこちらに戻られておりません。」


信輝「そうか。由良国寿丸と赤井又六は返してあげようか。ついでに長尾新五郎も返してあげよう。」


采女「よろしいのですか?」


信輝「うん。人質処刑するとかはちょっとね。この城にいるなら国寿丸と又六呼んできてくれる?どうせ新田金山城と館林城攻めるって聞こえるだろうし、その前に会ってみよう。」


采女「畏まりました。」



割とすぐに二人を伴って采女が戻ってきた。


采女「殿、お連れしました。」


信輝「ありがとう。入って。」


俺は今回は甲冑は付けないつもりなので平服のままでいる。


采女「失礼します。」


采女に連れられて二人が入って来た。国寿丸5歳、又六7歳。国寿丸は緊張しているのか固くなっている。又六は自分を大きく見せようとしているのか肩を怒らしている。


信輝「二人とも突然申し訳ないね。」


二人とも俺の態度に驚いている。


国寿丸「いえ、とんでもございません。」


国寿丸だけがなんとか答えた。


信輝「二人には人質ということで来てもらっていたのだけど、由良殿、赤井殿の二人が大峰を離れて北条に付くことにしたみたいです。」


二人ともに驚く。


又六「それなら早く我らを討てばよかろう!」


信輝「いや、うん、まあ普通はそうするんだけど、二人にどうしたいか聞いてみようと思って。二人をそれぞれ由良殿、赤井殿に返そうと思っているんだよね。どうする?」


なるべく恐がらせないように話し二人を見る。


又六「それなら早く帰してくだされ!」


又六は無事で帰れるとわかり踏ん反り返る。


国寿丸は下を向いている。考えているようだ。


信輝「国寿丸はどうする?」


考えがまとまったのか顔を上げて真っ直ぐにこちらを見た。


国寿丸「私も帰りたいとは思いますが、大峰様の味方をすると言ったにもかかわらず裏切ったのは我が父です。斬られても仕方ありませぬ。私には弟たちもいるため、大峰様に従います。」


賢い子だね。由良殿も能力は高いもんな。


信輝「そうか。では、又六はすぐに人を付けてお父上の元に送ろう。国寿丸は我らがこれから新田金山城に向かうから共に行こう。そこでやはり帰るか、それとも大峰に仕えるか決めたらいい。」


国寿丸「よろしいのですか?」


信輝「うん。最初から斬るつもりはないよ。」


国寿丸「ありがとうございます!」


国寿丸は頭を下げた。

又六はまだ踏ん反り返っている。まあいいか。


采女を呼んで二人を下がらせ、国寿丸は輿を用意させて新田金山城に連れて行くこと、又六は館林城に送らせることをお願いした。



采女「殿、手配整いました。」


信輝「ありがとう。国寿丸は賢い子だったね。」


采女「はい。見込みがありそうだったので戸隠衆として育ててみてもいいと思います。」


信輝「え、そんな外から連れてって育てることもあるんだ?」


采女「はい、ありますよ。身寄りのない子で優秀な子がいましたら戸隠に引き取って育てることがありますので。」


信輝「そうなのか。まあ言われてみれば当然やるか。それでその子たちは采女や主殿みたいになれるの?」


采女「いえ、全員が我らのように体術が身に付くわけではないため、里の中でのことをやったり、情報を得るためにどこかに移り住んで、普通に生活する者もいます。」


信輝「そうなんだ。まあそれも考えてみればそりゃあそうだよね。」


采女「はい。申し上げておりませんでしたね。申し訳ございません。」


信輝「いや、大丈夫。それよりさ、その身寄りのない子って全国で結構いるのかな?」


采女「はい。戦がある限りは。それに大峰領では考えられませんが、他領では盗賊が横行していて人が殺されたり拐われたり、食べる物に困って子を捨てたりが頻繁にありますので。」


信輝「そうか。そしたらその子たちを大峰でも育てよう。鍛治とかの職人になったり、鉱山で働いたり、兵になって武士になったりもできるだろうし。これはまた後で皆に言ってみる。ありがとう。」


采女「いえお役に立ててよかったです。もっと早く申し上げていればよかったですね。」


信輝「大丈夫だよ。」


そこに主殿が戻ってきた。


主殿「殿、準備が整いました。」


信輝「ありがとう。じゃあ行くか。」


采女・主殿「ハッ。」



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