第七章 163話 奥羽と同盟
1555年2月22日
次の日、大峰に向けて前橋城を出発する父上と三家老隠居たちを見送った後、再度軍議を開いた。父上や三家老にも参加してもらおうかと思ったが、もう任せると言って父上は大峰に戻って行った。
俺が上段に座り、右に備前、肥後、陸奥、伊勢、掃部、弥九郎、勘十郎、与一郎、左に武蔵、播磨、越前、近江、下総、正面に美濃、修理、桐生が座った。十神隊の将たちも話を聞いて欲しかったので、さらにその後に座ってもらった。
真ん中には昨夜のうちに主殿が大峰に取りに行ってくれた広範囲の地図を広げている。
人数も多いため、大峰の大広間に比べるとかなり狭く感じる。
事前に話しておいた備前が始めた。
備前「本日の議題も昨日に続き今後の方針についてです。昨日、殿に由良殿、赤井殿、武田殿、佐竹殿、佐野殿、足利長尾殿、長尾景虎殿、そして成田殿に書状を送って頂きました。引き続き、対北条についてが差し当たっての議題です。」
信輝「備前、ありがとう。ここからは俺から話そう。昨日少し話に出た里見の他に同盟を結べそうな先を検討してみたのだけど、まずはこの地図を見て欲しい。これは昨日のうちに主殿に大峰から持って来てもらった地図だ。」
皆は地図を覗き込む。桐生殿は昨日取りに行ったというところで驚いたようだ。
信輝「北条領の周りを見ていくと、まず小田原から西に、駿河の駿東郡、富士郡には武田家の高坂弾正殿の入瀬山城があり、その西には駿河、遠江を領する今川、三河は松平家臣と今川代官が、尾張は織田、美濃は斎藤。まあ西は今はいい。次に東を見ると安房、上総の一部の里見殿、常陸の佐竹殿、さらに北に目をやると陸奥に岩城、相馬、伊達、大崎、葛西、会津の蘆名に、出羽まで見ると最上を始めとした諸勢力。この中で岩城、相馬、蘆名、さらに伊達が北条との使者のやり取りをしており同盟を結ぶ可能性があるようだ。これを踏まえて、我らとしてはどうするのがいいか意見が欲しい。」
陸奥「これはかなり広い範囲の話になりましたね。」
肥後「まあ、昨日の局地的なのも大事だけど、今のうちから広く考えておく方がいいということですな。」
備前「殿、北条と岩城、相馬、蘆名、伊達が結んだ同盟に対して、我らもどこと同盟を結べばよいかというお話しでよろしいでしょうか?」
信輝「いや、まだ北条と使者のやり取りをしているのがわかっているだけで絶対じゃないから、一応それを踏まえた上でとにかく意見を言って欲しい。」
備前「畏まりました。」
武蔵「私は信濃の大峰からこうして上州に出てきて、武蔵国で戦をしているだけでも遠くに来たという印象ですが、殿は既に会津や陸奥、出羽のことまでお考えなのですね。」
播磨「確かに。遠い会津や陸奥の勢力と同盟を結んで、それを踏まえて戦略を立てるとなるとなかなか難しいですね。」
越前「陸奥と言えば八幡太郎義家殿が活躍された舞台です!是非そこで戦がしてみたいです!」
近江「まあ、そこまで難しく考えなくても、現状例え同盟を結ぶと言っても戦が出来るのは領地が隣り合っている勢力か、行けたとしてその隣くらいでしょう。」
難しく考えなくてもいいという近江の言葉に皆が頷いた。
下総「そうですな。もし北条が岩城、相馬、蘆名、伊達と結んだとしても、我らにはそこまで直接的な影響はないでしょうし。」
肥後「ただ、そこが同盟結んだら常陸の佐竹は厳しくなるな。下野にも侵攻してくる可能性があるから、ゆくゆくは佐野、足利長尾辺りにも影響してくるだろうし。」
陸奥「そしたら、さらにその背後の北側の勢力と結ぶとか?」
備前「地図で見ると、最上、葛西、大崎、さらにその北では南部、安東ですか。」
肥後「その間にもまだどこにも属してない勢力があるだろう。」
武蔵「では我々からも岩城、相馬、蘆名、伊達に使者を送ってみるというのはいかがでしょうか。」
下総「まあまだ同盟が確立していないとするなら送ってみるのもありでしょう。」
近江「先程、肥後が言ったようにその同盟の直接的な影響を受けるのが佐竹殿なのであれば、大峰との同盟を提案すると同時に、岩城、相馬、蘆名と佐竹との同盟も提案してみたらいいのではないですか?」
信輝「確かにそれもありか。そういえば、伊達家の稙宗殿と晴宗殿との争いが奥州周辺まで波及した天文の乱という戦が七、八年前まであったから、それぞれ戦してるし、簡単には結び付かないか。」
肥後「具体的に稙宗派と晴宗派ってどうなってる?」
信輝「今話にあがった中では稙宗派は、相馬盛胤殿くらいかな。あと三春の田村隆顕殿も稙宗派。田村隆顕と仲が悪い蘆名盛氏は晴宗派。岩城重隆殿も晴宗派。葛西も大崎も現当主は晴宗派だね。」
陸奥「そうなると、伊達、岩城、蘆名と相馬の同盟って難しいのではないですか?」
武蔵「相馬と結べば我らと佐竹、相馬で同盟ができるかもしれませんね。」
播磨「それも考えられますが、やはりそれぞれ皆したたかでしょうから、先程武蔵兄上が仰ったように我らも岩城、相馬、蘆名、伊達と全てに同盟の使者は送ってもいいかもしれませんね。相馬だけではなく岩城、蘆名、伊達とも同盟を結ぶことになるかもしれません。」
近江「そうですね。そして、佐竹との同盟も言ってみるだけ言ってみますか。」
下総「それが上手くいけば、とりあえずは北は気にしなくてもよくなりますね。」
越前「しばらくは対北条の戦ですな!」
備前「ではそのようにそれぞれ大峰からも使者を送るということでよろしいでしょうか?」
信輝「まあとりあえずはそれでいいか。色々と話したけど、結局難しいことはなかったね。」
備前「はい。では使者にはどなたに行ってもらいますか?」
播磨「殿、その前によろしいでしょうか?周りの対策も大事なのですが、北条内部から崩すというのはいかがでしょうか?」
播磨の言葉に皆が気付きを得たように頷き、話を聞く態勢になった。




