第七章 161話 北条と鉢形城
1555年2月21日続き
越前「鉢形城を取り返しましょう!」
沈黙を破ったのはまたしても越前だった。
さっきと同じことをまた言った。
さっきのがなかったかのように。
信輝「皆はどう思う?」
武蔵「確かに鉢形城を取り返すことは必要ですが、方法ですよね。」
播磨「また鉢形城だけを攻め落としたとしても、また北条が攻めて来て、また鉢形城周辺で戦をして、の繰り返しになると思います。」
近江「攻める場所を変えますか?」
下総「そもそも北条と今また戦をすべきかも考えた方がいいのでは?」
備前「では、鉢形城を攻めるかどうか、もし他の地点を攻めるとしたらどこか、北条とまた戦をすべきか、この三点について話しましょう。殿、よろしいでしょうか?」
信輝「うん、じゃあそれで。」
肥後「鉢形城だけを攻めるのは播磨の言ったように、また同じことを繰り返すことになるため、やめた方がいいと思います。」
陸奥「忍城はいかがでしょうか?」
二人も自身の親や父上、叔父たちがいるためこの場では言葉遣いを変えるようだ。
播磨「まず、新田金山城、館林城をどうにかすべきではないでしょうか?」
武蔵「由良殿、赤井殿は大峰に臣従したのでは?」
下総「いまいち信用できませんよね。」
播磨「私はもう黒だと思っています。そこを固めない限りは、鉢形城も忍城も厳しいでしょう。」
近江「殿がお目覚めになったことを伝えて、殿から再度ここに来るようにお命じ頂くというのはどうでしょう?」
肥後「一度やる価値はあるかもしれませんね。」
備前「殿、いかがでしょうか?」
信輝「まあ、やってみるか。じゃあ、それで来たときと来なかったときどうする?」
越前「来なかったら攻めますか?」
信輝「主殿は新田金山城も館林城も行ってくれてるよね。攻めるとしたらどう?」
主殿「ハッ。新田金山城はかなり堅固な城なので日数はかかるでしょう。館林城は新田金山城ほどではありませんが軽く落とせる城でもありません。ただ、もし北条と通じていたとしてもどちらも北条からの援軍は期待できないでしょうから、攻め落とすことはできると思います。我らが先に侵入し手引きすることもできますので。」
信輝「そうか。掃部はどう思う?」
掃部「ハッ。残念ではありますが、こうなってしまった以上、新田金山城攻め、館林城攻めは致し方ないかと。」
信輝「そうか。修理は?」
修理「しっかりと上州を押さえることが第一だと思われます。」
信輝「うん。美濃は?」
美濃「共に忍城攻めをしましたが、このまま素直に大峰に従い続けるのは厳しいと感じました。」
信輝「わかった。繋がってるのは北条かな?」
近江「古河公方様もでしょう。」
下総「まあ古河公方様と繋がってるところでそんなに影響は。」
武蔵「それでも古河公方様に従っている下総勢は七千から八千はいましたよ。」
陸奥「でもそれって北条に言われて出てきたのであって、古河公方様に従っていたのとは違うのではないですか?」
信輝「采女、下総勢の内情を調べて。」
采女「畏まりました。」
播磨「地理的には下野の方が近いですね。」
信輝「下野ってどこが有力?」
采女「小山、皆川、壬生、芳賀、茂木、宇都宮、那須、大田原、大関、それから佐野殿などが主なところで、割拠している状況です。」
信輝「じゃああまり気にしなくてもいいか。一応そちらも探っておいて。」
采女「畏まりました。」
備前「では先程の、鉢形城を攻めるかどうか、もし他の地点を攻めるとしたらどこか、北条とまた戦をすべきか、の三点ですが、いかがでしょうか?」
肥後「新田金山城、館林城の決着がついてからでいいと思いますが、鉢形城と忍城を攻めるのがいいのではないですか?」
播磨「仰る通りです。唐沢山城、館林城、忍城、鉢形城の線が出来たらいいと思います。さらにその次の段階として松山城、騎西城が取れればなおいいと思います。そこまでいけば、河越城が見えて来ます。河越城を取れれば武蔵国の支配も現実味を帯びてきます。」
近江「確かにそうですね。先は長そうですが。」
下総「北条が黙っていないでしょう。」
武蔵「城攻めもそうですが、民の心を掴むことが重要だと思います。」
信輝「確かにそうだね。播磨の言った戦略で進めながら、武蔵の言った政策を合わせてやっていくのがいいだろうな。半兵衛どう思う?」
半兵衛「はい。よろしいかと。武田殿、佐竹殿に加えて、あまりいい評判は聞きませんが、一時的に安房の里見殿と結ぶことも考えてもいいかもしれません。」
信輝「里見か。確かにな。時期を見て考えよう。」
備前「では、まず由良殿、赤井殿、武田殿、佐竹殿、佐野殿、足利長尾殿、長尾景虎殿に殿から書状を送って頂くということでよろしいでしょうか?」
陸奥「忍城の成田殿にも降伏勧告の書状送ったらいかがでしょうか?」
播磨「成田殿は信用に足る人物とは言えませんので、攻め落とす方がいいと思います。」
陸奥「まあ、確かにそうか。」
信輝「じゃあ手紙を書いて送ってみよう。皆は新田金山、館林、鉢形、忍を攻めることになったらすぐに出陣できるように準備を。」
一同「ハッ。」
信輝「武蔵はすぐに実施できるように具体的な政策を考えておくように。」
武蔵「畏まりました。」
信輝「播磨は先の戦略まで考えて。」
播磨「ハッ。」
信輝「越前は兵たちの士気を上げておいてくれ。」
越前「畏まりました!」
備前「引き続き北条を攻めるという方針でよろしいでしょうか?」
信輝「防衛線が描けるまではそうだな。」
備前「畏まりました。」
信輝「父上、以上でよろしいでしょうか?」
父上「そうだな。わしは口出しすることもなかったな。念のために来たがわしは三家老を連れて大峰に戻り、領地の方を見ておこう。もしも手伝えることがあったら言ってくれ。伊勢と連れてきた兵たちは置いていく。」
信輝「ハッ。ありがとうございます。」
備前「では皆様、本日はこちらで以上とさせて頂きます。」
信輝「皆、準備をしっかり頼んだ!」
一同「ハッ!」




