第二章 14話 軍備
1547年8月6日
朝からかなりの人数が大広間に集まった。入りきらない子らは襖を開けて廊下に座った。
俺は上段の左側に座っている。
四年前から真田幸隆殿と上泉秀綱殿も評定衆に加わった。
今回は物頭級以上のほぼ家臣全員が集まってる。とは言っても軍は大規模ではないので、いつもの評定衆に加えて二十人くらいがいるだけだが。
入って来た父上に皆が頭を下げる。
皆が顔を上げたところで父上が話し始めた。
信秀「本日は、軍備についてだ。わしから今後の方針を話した後、皆の意見を聞きたいと思っておる。まずその前に、言っておきたいことがある。皆が知っての通り、我が家はこの四年で急速に力を付け、発展してきた。皆の働きに感謝する。特に、これも皆が知るように我が嫡男、松若丸の働きが大きい。故に今後わしは、隠居はまだしないが、松若丸の発言権を強めていこうと思う。数年間で少しずつ当主としての権限を移譲していくつもりだ。だから、松若丸も遠慮なく考えを述べて欲しい。そして皆もそれを踏まえた上で宜しく頼む。」
一同「ハッ。」
えっ、聞いてないしめっちゃびっくりなんですけど。まだ父上30にもなってないじゃん。俺まだ8歳だし。でもまあそう言って頂けるなら頑張るか。それに皆驚いてないってことはあらかじめ決まってたな。
信秀「さて、軍備のことだが、領地が広がったことで、南の井上氏、東の須田氏、北の高梨氏と領土を接することとなった。我が家はこの四年で色々な改革を行った故、この三家は面白くないようだ。おそらく、近々攻めてくるであろう。そういう噂が絶えない。その時のために軍備を拡充しなくてはならない。今までは、敢えて軍備は整えて来なかったがそうも言ってられなくなった。領内の民を守るため、そして北信濃の平穏のためにもこれからは戦うことが多くなる。そこで、以前から松若丸が献策していた案を採用しようと思う。松若丸、今考えていることを述べよ。」
松若丸「はい、では説明させて頂きます。まず、徴兵に関してですが、今後は農民を兵として集めることを一切しないと宣言します。そのかわりに、募集兵を募り、戦のための専属兵士の軍団を作ります。兵となった者は手柄を上げれば恩賞を与え、優れた者であれば指揮官として武士に取り立てることもあると説明しておきます。その上で、組織した軍団の調練を徹底的に行います。先程、父上からお話しがありましたように、当家は戦の経験がほとんどありません。これは経験を積むしかないのですが、模擬戦を何度も行うことで兵士たちだけでなく、将としてここにおられる方々の調練にもなります。ここまではよろしいでしょうか。」
一同頷いている。
松若丸「では続けます。次に、武具です。平安時代のような大兜、大鎧はやめ、八善屋に相談して、皆さん動きやすい当世風の甲冑を用意して頂きます。皆さん趣向を凝らしたものにしてください。資金は我が家持ちです。兵たちの武具も動きやすい陣笠、胴丸などを大量に製造し配ります。そして武器ですが、皆さん刀、太刀、槍、薙刀などはお持ちの手に合ったものをお使いください。今回新調される方は好みなどをお申し出ください。これも我が家持ちです。兵士たちの武器もこちらで揃えます。刀はそれなりのものを、槍は三間柄の槍を、弓も強弓を揃えて、全ての兵士に配ります。それを調練でしっかり使えるようにして頂きます。馬も、大きくて足が速い南部馬が揃っていますので将の皆さんにはお選び頂きます。騎馬隊にはこの馬に乗ってもらいます。」
と、とりあえず言いたいこと言ってみたけど、どうですかと父上の方を見てみる。頷いてくれたから問題なさそうだ。とにかく新しくて動きやすくて使いやすいものを持ってもらわないことには始まらないからな。ここにいる皆は、我が家持ちで武具武器を新調できること、いい馬がもらえることでかなり騒ついている。
松若丸「最後に、これからの戦のために鉄砲を大量に購入し、槍隊、弓隊、騎馬隊に加えて鉄砲隊を組織することとします。」
これには一同静まり返った。鉄砲を知らないらしい。まだ日本に伝来して四年しか経っていないから仕方ないか。
松若丸「私からは以上です。」
大久保伊勢「若殿、鉄砲について知らない者がほとんどのようです。実際に見せて頂いた方がいいと思いますが。」
信秀「そうだな。伊勢の言うように鉄砲はまた皆に見てもらう機会を設けよう。基本方針は今松若丸からあった通りだ。何か意見のある者はおるか?」
皆、驚きはあったようだが、ある程度予想していたことであり納得してくれたようだ。
信秀「ないようだな。皆の武具については明日ここに八善屋を呼ぶ故、それぞれ相談して発注してくれ。武器も新調する者はその時に同じく発注してくれればいい。馬も明日の発注が終わり次第、各自で浅川園に行って選んでくれ。わかるようにしておく。」
一同「ハッ。」
よし、方針が決まった!
あとは、兵士の募集かけつつ、頼んだ品が届くのを待って、調練を始めよう。
調練用の場所でも作るか。わざと敵の細作からも見やすい場所に。少しは牽制になるだろ。
今8月だから、刈り入れ終わって落ち着くまで攻めては来ないだろうから、ここから年末までが勝負た。
その夜
又兵衛「若、よろしいでしょうか。」
松若丸「又兵衛か、入れ。どうした?」
部屋で一人で『検索』を使って考え事をしていると又兵衛から話しかけられた。
一人で『検索』使ってるときって側から見たらぼーっとしてるようにしか見えないだろうな。今さらながら考えた。
この四年間で又兵衛ら大岩衆はとてもよく働いてくれている。又兵衛には何か気になることがあれば、例え寝ているときなど、どんな時でも報告してくれと頼んでいる。
又兵衛「失礼します。本日配下の者がどうやら武田の透波衆と思われる者を領内の境で見つけました。探りに来ているようです。」
松若丸「武田か。ついに来たか。まだ直接的な利害関係はないけど。どう思う?」
又兵衛「本当にまだ探りだと思います。武田の透波は最近北信濃に入ってくるようになりました。武田は信濃の、諏訪郡、伊那郡の一部、小県郡の一部、佐久郡の一部を手に入れています。次は本格的に佐久郡へ侵攻が始まるでしょう。その次は小県郡。となると、村上氏と戦うことになります。そのため、その周りを探っているといったところですか。」
松若丸「そうか。一度武田を探ってくれるか。どのような意図を持っているのか。ただ透波がいるだろうから無理はしなくていい。それから引き続き、井上、村上、須田、高梨も調べてくれ。そしてもし可能であれば、安曇郡、筑摩郡、佐久郡の情報も欲しい。あと上州の上杉憲政に関しても。無理言ってすまないが頼むよ。」
又兵衛「畏まりました。」
結構動いてきそうだな。武田は少しずつ信濃に入って来てるし、関東も河越夜戦で関東管領上杉家側が北条氏に大敗したことで大きく動いたしな。
越後はまだ内乱続きだけど、景虎の存在がそろそろ大きくなって来ているみたいだから注意しなきゃ。
忍がもっと欲しいな。父上に相談して使える数を増やしてもらうか。今俺が指示出せるのが大岩衆五十人。戸隠衆は今六百五十人くらいいるはずだ。
善光寺からの情報は備後にまとめを任せている。
竹千代の指示で動いてるのが出浦衆五十人。
真田家も独自の諜報機関があるみたい。
これだけあれば大丈夫か。
父上はきっと色々と把握しているのだろう。
聞いてみよう。




