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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第六章
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第六章 157話 布陣と与次郎

1555年2月11日


北条勢が近付いてきた。

かなり警戒しているようだ。進軍が遅い。

成田隊の千を先頭に、清水隊の千、遠山隊の二千、松田隊の二千の順にこちらが構えている北東に向かって進んでくる。


北条勢としては一刻も早く忍城に向かいたいだろうが、こちらを避けて進むと後ろから追われる危険があるため、戦わずにはいられないはずだ。

こちらは、美濃と五氏が忍城を攻め落とすまで時間を稼げばいい。


美濃の方は由良殿、赤井殿がまだ合流していないため、熊谷にいる。

二百の兵が籠る城を三千五百で攻めるわけだから、力攻めすれば、長くかかったとしても十日もあれば忍城を落とせるだろうか。


結構時間かかるな。

食料とか持って来てないな。


信輝「采女、上野と大蔵呼んできて。」


采女「ハッ。」


すぐに采女に連れられて二人が来た。


上野「お呼びでしょうか。」


信輝「うん。ここでしばらく長陣になるかもしれないから、十日分くらいの食料とか鉢形城の陣から輸送してくれる?」


上野「はい。それは可能ですが、しかし殿、あと何日くらい武蔵にいるおつもりでしょうか。そもそも急行軍だったこともあり、鉢形城に来るときにもそこまで多くの食料は持って来ておりません。」


大蔵「掃部殿の前橋にならあるでしょうが、それでもそこまでの量ではないでしょうから、大峰から取り寄せる必要があります。」


上野「伊勢殿が輸送して下さる予定でしたが、伊勢殿は既に大峰にお帰りです。」


大蔵「大峰から輸送すれば一年や二年分の食料やその他の必要物資も手に入りますが、時間はかかります。どうされますか?」


信輝「そうか。大峰から輸送しなかったら何日くらいもつ?」


上野「十五日はもちます。」


信輝「じゃあ、とりあえず大峰から輸送はして。俺らが帰ったとしても鉢形、深谷、本庄と、もしかしたら忍城にも物資はいるだろうし。」


大蔵「かなりの量になりますが、よろしいでしょうか?」


信輝「うん、二人に任せるわ。申し訳ないけど、二人はすぐにここから戻って采配してくれる?」


上野・大蔵「畏まりました。」


二人がそれぞれの家の配下数人を連れて北条勢を避けるために北に向かって行った。


兵糧のこととか二人に任せっきりであんまり考えてなかったな。

でもまあ二人がやってくれるからいいか。


二人が出て行ってすぐ、北条勢が見える場所まで来て布陣を始めた。

当然だが、やり合う気のようだ。

だいたい予想通りの場所に布陣しようとしている。

こちらが鋒矢の陣に構えているのを見て、縦に厚みのある魚鱗に近い形にするようだ。

成田隊がそのままで、清水隊の隣に遠山隊が動いている。二列目に清水隊、遠山隊、後に松田隊にするのだろう。



信輝「主殿、太鼓を。」


主殿「ハッ。」


ドォーーン!ドォーーン!


二回長く鳴らした。

いつも意味のない太鼓を鳴らすことが多いのだが、今回はこれを合図に各隊動き出した。

向こうの布陣が完了する前に、こちらも布陣をすることができるか。


まず、一番左の麒麟と、右の鳳凰が動く。左は伊豆の隊を先頭に図書、左衛門尉、下総の隊と続く。

更にその後ろに玄武の越前、大膳、出羽、長門の隊が続く。

右は鳳凰の左近、兵部、淡路、近江の隊が動いて行く。

与次郎の隊は、青龍の前に移動する。


北条勢は動揺しているようだが、こちらが何をするのかわからないため攻めては来ないようだ。


その間にも、麒麟、玄武、鳳凰の隊は動き続け、こちらの布陣が完了した。

これで、北条勢が魚鱗の陣で固まっている周りを、北条勢が進んできた南東だけは開けて、こちらから見て左の奥から、左衛門尉、下総、越前、大膳、出羽、長門、その隣に与次郎隊、与次郎隊の右に近江、淡路、兵部、左近、回り込んだ伊豆、図書の隊がUの字に囲む。各隊は二百五十ずつに過ぎないため、集中して攻められないように少し距離を置いている。

そして与次郎隊の後ろに青龍。


とりあえず上手くいったな。

これは攻めるためではなく、時間稼ぎのために考えた布陣だ。

あっちを攻めればこっちから、こっちを攻めればあっちから、進軍の邪魔をするように攻め続けるという作戦だ。


北条勢の方も成田隊を先頭に魚鱗の陣で布陣が完了したようだ。

その前に布陣しているこちらは二千しかいなくなったために、もし松田殿が周りの隊を無視して前の敵、つまり与次郎隊と青龍だけに向かって六千で前進してきたらこちらは困ることになる。

けど、まあ大丈夫だろう。






布陣が完了してから一刻程が経った。

日は昇り、少しずつ西に動き始めている。

冬の日は短い。このまま夜を迎えることもありそうだ。

向こうは軍の中を伝令が往復しているのが見える。

しかし、攻めかかっては来ないようだ。

やはり松田殿は笛吹での戦で大峰に恐怖を覚えているのだろう。



信輝「采女。」


采女「ハッ。」


信輝「各隊に油断しないようにって伝令出して。あと太鼓鳴らすけど意味ないからって伝えて。」


采女「ハッ。」


主殿「相手は太鼓が鳴ったら身構えるでしょうな。」


信輝「そうだろうね。色々と考えてもらおう。向こうは食料とか持ってるのかな?」


主殿「腰兵糧くらいは持っているでしょう。」


信輝「まあ、こっちも同じようなもんだけど。」


采女「上野殿、大蔵殿のもとから、先に少しだけでも配下に運ばせますか?」


信輝「うん。明日になっても何もなかったらお願い。」


采女「畏まりました。」


主殿「殿、与次郎殿から使者です。」


信輝「なんとなく予想はできるけどなんだろ。通して。」


主殿「ハッ。」


騎乗のままの俺のところへ使者が近付いてきた。


「拙者、安中家家臣、安中伝兵衛と申します!我が主、与次郎から武衛様に申し上げます!」


かなりガタイのいい若者が来た。

安中ってことは安中家の家老とかかな?若いな。


信輝「どうした?」


「はい!こちらの布陣が完了したのだから、いつ攻め始めるのか、いつでも先陣を切って攻め込む準備はできている!とのことです!」


信輝「こちらからは攻めないって言ってるじゃん。何回も。北条勢が動くまで動くなって伝えて。」


「ハッ。しかし…。」


信輝「伝兵衛だっけ?大変だと思うけど、与次郎を抑えてよ。今回は時間を稼ぐのが目的だって。頼んだ。」


「ハッ!」


伝兵衛が戻って行く。


信輝「主殿、与次郎のところどんな感じ?」


主殿「はい。与次郎殿がかなり焦れているようですね。私が行きますか?」


信輝「うーん、今の伝兵衛に頑張ってもらうよ。危ない時は行ってもらうから、頻繁に様子は伝えて。」


主殿「畏まりました。」





采女「殿、それぞれの隊に伝令行きました。」


信輝「そうか。ありがとう。」


主殿「殿、再度、先ほどの伝兵衛殿が参っております。」


信輝「通して。」


「度々申し訳ございませぬ。我が主から、ここまで包囲しているのだからこちらから攻めることを命じて欲しいとのことでございます!」


信輝「うん、伝兵衛も大変だね。こちらからは攻めないってもう一度伝えて。」


「ハッ!申し訳ございませぬ!」


信輝「主殿、一緒に行ってあげて。」


主殿「畏まりました。」


伝兵衛と主殿が走って行く。


信輝「困ったね。」


采女「危ないですね。」


信輝「さすがに大丈夫だとは思うけど。」


采女「どうでしょうね。」



と、その時、北条勢が動き始めた。

北条勢は南東に向かって退き始めた。

これは予想外。

南東はわざと開けてあるとはいえ、南東に向かうとは思っていなかった。

どうする気だろう。



信輝「采女、太鼓を鳴らすこと言ってあるよね?」


采女「はい。」


信輝「じゃあ、太鼓鳴らして。」


采女「ハッ。」



ドォーーン!ドォーーン!



特に意味はないが、これで北条勢が崩れてくれたら儲けもんだ。


と、その時、今度は目の前の部隊が動き始めた。


采女「殿!与次郎殿の隊が動き始めました!」


信輝「うん、見えてる。」


ハァーー。溜息出るよ。何回も言ったのに。


信輝「主殿は間に合わなかったのかな。」


采女「間に合ったのでしょうが。」


信輝「采女、伝令出せる準備しておいて。状況次第で各隊に伝令出すから。」


采女「畏まりました。」



そこに主殿が戻って来た。


主殿「殿、申し訳ございません。」


信輝「大丈夫。全く主殿のせいじゃないから。伝兵衛も大変だ。」


主殿「はい。」


信輝「主殿、ここも動かすかもしれないからその準備を。」


主殿「畏まりました。」



北条勢は動き出したが、まだほとんど布陣した場所から移動していない。

誘い出すのが目的だったか。

やるな、松田殿。


仕方ない。

やるか。


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