第二章 13話 4年の成果
1547年8月5日
また夏が来た。
俺は8歳になった。
現代風に言うと、医食同源のお陰で身体も順調に大きくなっている。体格だけ見ればこの時代の13歳くらいには見えるだろう。
大峰領はとても安定して発展している。
水車、水路による灌漑や、堤防による洪水防止、正条植え、塩水選の実施により石高は飛躍的に上がっている。
浅川園もさらに広くなり、八善屋に依頼していた野菜も順調に増えているため、領民たちにも肉や野菜を分けることができるようになり、税率は四公六民になったこともあって、領民の暮らしはとても豊かになった。
傷病者には薬草を渡し、湯治もできるようになり、生存率も上がった。
善政と関所撤廃により、まだまだ人が増え続けている。
そして何と、周りの小豪族が治めている地の領民たちが、大峰家の支配下に入りたいと言ってくるものが多く、小豪族たちもこれ以上は無理だと諦め、隠居して、領地、領民を大峰家に任せるということが起きた。
普通は考えられないが。真田一族がかなり動いたようだ。たまたま都合よくその小豪族が跡継ぎがなく老齢だったこともある。真田一族がそこを狙ったからかもしれない。
それによって、西は小谷村の辺りまで、南は犀川を渡った辺りまで、東は千曲川を渡った辺りまで、北は豊野、小布施の辺りまでを治めることになった。
もちろん新しい領地でも水車や水路の灌漑、開拓、堤防建設、正条植え、塩水選が行われている。
西はないが、南は井上氏、その先に村上氏、東は須田氏、北は高梨氏と、中勢力と境を接することとなった。
現在、まだ戦はないが、いつ攻められてもおかしくない状況になってきた。
ただでさえ税率下げたり、流民受け入れたりしてるからな。そんな領地が近くにあったらみんな行きたいさ。そうなると何でうちは違うんだってなって領主を恨んで言うこと聞かなくなるし、大峰家に自分のところも治めて欲しいってなる。
そうなると領主は余計なことをしている大峰家が邪魔になる。
そのため、領地の境を戸隠衆、出浦衆が警戒し、もし何かあればすぐに知らせが届くようになっている。
一方面だったらいいけど、高梨氏、須田氏、井上氏、それに村上氏まで絡んで攻めて来たらヤバイな。
大峰家は現在、五万石を超えてきた。
さらに、商売の儲けも飛躍的に伸びている。米の収穫に余裕ができたために、昨年製造を始めた清酒や、育てた薬草から作った葛根湯が売れに売れ、椎茸、朝鮮人参と共に莫大な資金を作り出しているため、商売の儲けで十五万石、七万五千貫くらいの稼ぎがある。
現在の価値でいうと七億五千万円くらいか。
それを、家臣たちや、浅川園の家臣たち、領内の土木工事を専門にしている家臣たちの給金にあてている。
それに、どんどん入ってくる流民たちのための長屋を作り、本当に窮民救済を始めた。ある程度落ち着いた後は、開拓や浅川園や土木工事、物作りなど何らかの仕事に付いてもらってはいるが。一部これはという見込みのある者は武士として家臣に取り立てている。
一方でまだ軍備が心許ない。
軍馬は大きくて逞しい体躯の南部馬がどんどんどんどん増えている。
軍を率いることになる将も、一族は皆あのカリキュラムをやっているし、4年前から新陰流を学んだことにより、より一層強くなっている。ただ戦の経験はほとんどない。
兵士も人はいるのだから徴兵できるが、そろそろ専属の兵士を育ててもいい頃だろう。
あとは武器。結局、武器は何も改革できていない。
俺の部屋の近くに次世代のための話し合う部屋を用意した。基本的には俺は小姓衆と相談して決めているが、下の世代を育てるためにも、なるべく定期的に話し合いをしている。
今もそこに皆集まっている。
松若丸、竹千代、辰千代、千凛丸、長福丸、鷹千代、源太郎、秀胤に、藤丸、糸丸、豊丸、仙千代、菊千代、熊千代、富丸、金丸、鶴千代、蓮丸、進丸、徳次郎とかなりの大人数になってきた。聞いているだけの者もいるが、聞いてるだけでも学べるからね。
松若丸「さて、前から言っているが、かなり差し迫った問題になった軍備について、皆はどう思うか。」
豊丸「兄上が以前から仰っておられるように、槍を長柄にし、弓を強弓にし、専属の兵士団を作るのがいいと思います。」
長福丸「若、一刻も早く実行すべきときです。現状でしたら二千や三千はすぐに集められるでしょう。」
鷹千代「数を集めても使えない兵では意味がありません。早く組織して、調練して、軍団として使えるようにしなくては。」
源太郎「通常の兵の他に陣や道普請を行う特殊兵も組織すべきです。これは数は少なくてもいいかもしれませんが。」
糸丸「戦をするなら情報戦でもある故、戸隠衆とは別に斥候専門部隊などがあってもいいと思います。」
藤丸「まずは徴兵をして戦をするのか、農民たちには戦は一切させないと発表して安堵させた上で、専属兵を募るのか、方針を明らかにすべきでしょう。」
松若丸「そうだな。まずは父上に決断して頂くしかないよな。」
竹千代「殿もきっと決断してくださるだろう。ここにいる皆もそれぞれの父上に話してみてもいいかもな。」
辰千代「そうしよう。ここまで領内が豊かになっているのだから、攻められて壊されないようにしなきゃ。」
松若丸「よし、千凛丸、父上に時間を頂くように聞いてきてくれ。備後にも一緒にいてくれるように言ってくれ。」
千凛丸「はい、畏まりました。」
千凛丸が部屋を出て行った。
今まで何度となく話してきた内容であり、色々な具体策も案としてあるため、そろそろ進めるべき時が来たように思う。
しばらくすると千凛丸が戻って来た。
千凛丸「殿からですが、言いたいことはわかっている。その件で明日評定をする故、ここにおる全員、明日の朝早くに大広間に集まるようにと言われました。」
松若丸「そうか。じゃあ皆聞いたな。」
一同「ハッ。」
松若丸「又兵衛、和尚様にこの件を伝えて明日は休みにして頂くように伝えてくれ。秀胤、お師匠様も評定には出られるだろうが、一応明日の修行の件はよろしく伝えてくれ。」
又兵衛「承知しました。」
秀胤「わかりました。」
本日はこれで解散とした。明日、意見を求められたら答えられるようにしておくか。
鉄砲が欲しい。
そのために鉄鉱石が出る鉱山が欲しい。
探してみるか。




