第六章 139話 書状と戦
1555年1月9日
今日は直江津に船を見に行く。
愛の部屋で起き、洋風食堂で朝食にした。
妻たちも行きたいと言ったが、今回はまだ寒いので妻たちは留守番にした。
備前、肥後、陸奥、采女、小太郎、源五郎、半兵衛、三右衛門を連れて、馬を飛ばして直江津に向けて出発した。
途中、いつものように妙高高原で一度休憩をすることにした。
いつもの森の中の小川で馬に水をやる。
それぞれ、木の根っこや、その辺の大きな石の上に座っている。
だいたいいつもこの辺で休憩するから、小屋でも建てておこうかな。
と考えていると、付近の警戒に当たっていた采女が戻って来た。
采女「殿、北の方から使者が来ます。おそらく春日山から大峰に向かう者だと思います。」
信輝「何だろ?俺にかな?聞いてきて。」
采女「ハッ。」
少しすると采女に案内されて使者が一人近付いてきた。
俺が立ち上がると、小太郎、源五郎、三右衛門が俺とその使者の間に立つ。
目で合図すると、横に移動する。
俺と使者が少し距離を置いて向き合い、采女も含めて四人が左右に立つ形になった。半兵衛は座ったまま。
跪こうとした使者をそのまま立たせて話しかける。
信輝「お疲れ様。信輝だ。俺への使者かな?」
使者は驚き、返答していいのか困った様子で采女を見る。
采女「答えてよいぞ。」
「ハッ!我が主、湯塚玄蕃よりの使者として参りました!手紙を預かってきております!」
信輝「そうか。ありがとう。叔父上何か言ってた?」
「はい!武衛様にお見せして返答を頂いて来いと言われております!」
信輝「そうか。なるほど。」
玄蕃叔父からの手紙を読み終わった。
肥後「何だって?何か問題?」
座ったままの肥後に手紙を渡す。肥後が受け取り、その後ろに陸奥が立ち一緒に読む。
二人とも驚いている。
肥後「どうする?」
陸奥「何の話だろうね?」
備前「何かありました?」
信輝「長尾景虎殿からの使者が春日山城に来ているらしい。それも、宇佐美定満殿と直江景綱殿が。大峰に案内していいかということだった。」
備前「おお、名の知られた重鎮お二人ですね。何でしょう?」
信輝「まあ、直江津に行く予定だったし、春日山で会うか。」
肥後「そうだな。」
陸奥「全く予想がつかないね。」
信輝「うん、じゃあ、使者の方、今から俺らも春日山に向かうから、玄蕃叔父にそう伝えてもらえる?」
「ハッ!畏まりました!では、失礼します!」
そう言って来た道を戻って行った。
長尾景虎が何の用だろう?戦を仕掛けて来るなら使者なんて差し向けて来ないだろうし。
結局去年、刈羽郡で、北条氏、安田氏と戦っていたが決着はつかなかったと聞いている。
信輝「俺たちも行こうか。」
それぞれ馬に乗り駆け出した。
春日山城に着き門を潜り、しばらく行くと、麓の館の前で玄蕃叔父が待っていた。
玄蕃「おう!武衛!久しいな!」
信輝「これは叔父上、わざわざのお出迎え恐縮です。」
玄蕃「うむ。長尾景虎殿の使者なのだが、今は控えの間で待ってもらっておる。まだ要件は聞いておらん。戦を仕掛けてくるような雰囲気ではないが。」
信輝「そうですか。まあ、聞いてみないとわかりませんね。大広間がいいですね。」
玄蕃「そうしよう。わしも一緒に聞くぞ?」
信輝「そうしてください。」
厩に馬を預け、玄関から入り、そのまま大広間へ。
俺が正面の上座へ。玄蕃叔父と湯塚家の家老が左側、備前、肥後、陸奥が右側に座る。
源五郎、半兵衛、三右衛門が後ろに控える。
案内役に案内され、宇佐美定満殿と直江景綱殿が入ってきた。
二人は正面に座り、頭を軽く下げる。
宇佐美定満「大峰殿、お時間を頂き忝い。この度は景虎様からの書状をお持ちした。目を通され返事を頂きたい。」
なんかちょっと上からの感じしない?まあ、50歳くらい年上だから仕方ないか。
信輝「畏まった。書状を。」
源五郎に書状を取りに行かせる。
長尾景虎殿から手紙とは。
内容はまず、昨年凶作だった景虎殿の領内に米を配ったことの感謝から始まった。
しかし、余計なことをしてくれるな。大峰に心を寄せる者が多くなり困っている。どうしてくれるのだという苦情になった。
そして、この上は日時を決め戦で決着を付けよう、日時はそちらで決めて宇佐美、直江に伝えて欲しいと終わっていた。
なんだろ。真っ直ぐすぎて、育ちのいい坊ちゃんが自分の思い通りにいかないから文句言ってきたって印象を受けた。
信輝「宇佐美殿、直江殿はこの内容に納得されていますか?」
宇佐美「もちろんじゃ。」
これはだめだ。
直江「はい、何分、我が主は気の難しいお方にて。」
おお、直江殿は話が通じそうだな。
信輝「もし、そちらが負けたらどうするのです?」
宇佐美「こちらが負けることなどありえん。」
信輝「ではそちらが勝ったらどうするつもりなのでしょう?」
宇佐美「お主の首をもらう。」
信輝「ではこちらが勝ったら景虎殿の首をもらうということになりますね。」
宇佐美「そのようなことはわしがさせん。」
信輝「ご自身が何を仰っているかわかってますか?」
直江「宇佐美殿、大峰様、一度落ち着いて下され。大峰様は、戦に対しては拒否はしないが、戦後の条件などをはっきりさせようと仰るのですな?」
信輝「そうそう。そういうことです。いきなり来て戦しようって。それで俺の首をもらうって。喧嘩売っているとしか取れませんよね。ここでお二人の首をもらうこともできるわけですからね。」
宇佐美「そのような卑怯なこと許されん。」
信輝「いや、卑怯とかそうじゃないとか関係ないですから。もう少し融通利かないとこれからの世ではやっていけませんよ。」
宇佐美「何をこの小童!」
立ち上がりかけた宇佐美殿を直江殿が抑える。
直江「宇佐美殿!!!大峰様も挑発はおやめください。」
宇佐美「止めるな!わしが今ここで討ち取ってくれる!」
信輝「采女。」
一瞬の風が吹いたと思ったら、宇佐美殿が倒れた。
采女が俺の隣に姿を現す。
采女「眠って頂いただけです。」
信輝「そうか。直江殿、すみませんでしたね。」
直江「いえ、こちらこそ。」
信輝「では、話を進めましょうか。直江殿はどのようにお考えですか?」
直江「はい。現在の長尾家では大峰家に太刀打ちできますまい。景虎様はまだお若い。そして周りの老人たちに色々と吹き込まれ、少し周りが見えていないのです。決して愚かな方ではありません。」
信輝「そうか。じゃあ直江殿を信じよう。今年は雪が少ない。二月末には戦が出来るほどになろう。二月末、詳細な時期はまた近くなったら決めるとして、頸城平野で戦をしよう。もし長尾家が勝ったらここ春日山城を譲ろう。もしこちらが勝ったら、景虎殿に大峰の娘と婚姻を結んでもらい、大峰に臣従してもらう。これでどうだろう?」
直江「ハッ。ありがとうございます。その条件で景虎様に承諾して頂くように努めます。」
信輝「そうしてください。直江殿はわかっていると思うけど。民が大峰に心を寄せているって時点で戦をしなくてもこちらが勝っているようなものですからね。」
直江「ハッ。仰る通りだと思います。」
信輝「わかってくれていればいいですよ。戦をするっていうけど、全力でいきますよ?」
直江「はい。それは勿論でございます。」
信輝「鉄砲を使ったから卑怯だとか言ってきても知りませんからね。」
直江「はい。確かに言いそうではありますが、景虎様にご理解頂くよう努めます。」
信輝「そうしてください。その老人たちを退けたら、景虎殿ももっと目が開けるのではないですか?」
直江「はい。その通りなのですが、なかなかそう簡単には。」
信輝「そうですか。苦労されているのですね。まあ、そういうことでお願いしますよ。」
直江「畏まりました。」
そう言って、直江殿は宇佐美殿を担いで退出して行った。
軽く大人一人を担いで行った直江殿に驚いた。
敵に回したくない人だな。




