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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第五章
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第五章 126話 南下と北上

1554年12月27日


ここは上田城の城主の間。伊勢叔父がまだ大峰にいるため。俺はここに泊まらせてもらった。

まだ暗い中采女に起こされた。


采女「殿。起きてください。今川、北条が進軍を始めました。今川は蒲原で、北条は足柄で休んだ後、それぞれ北に向かって動き出しました。この速度だと昼過ぎには、今川は鰍澤に、北条は笛吹に到着する勢いです。」


信輝「早いな。武田勢は?」


采女「一万が躑躅ヶ崎に集まっています。」


信輝「じゃあすぐに出よう。又兵衛、四半刻後に出発するから皆起こして準備させて。」


又兵衛「ハッ。」


信輝「采女、伊勢叔父に甲斐に来てもらうようにと、龍岡の大隈叔父に先に行ってもらうように伝えて。」


采女「ハッ。」


信輝「小太郎いる?」


小太郎「はい。」


信輝「これ策を立てたの誰だろうね。」


小太郎「わかりませぬ。氏政ではないでしょう。義元殿でもないと思います。」


信輝「北条に軍師っている?」


小太郎「氏康様はご自身で策を考えていましたので、今川の太原雪斎殿のような方はいませんでした。」


信輝「太原雪斎殿も亡くなったんだよね?」


小太郎「はい。」


信輝「誰だろな。策を立てているのが誰かわかったら、性格とかで次の手を読んだりできると思ったんだけど。」


小太郎「はい。申し訳ございません。」


信輝「いや、大丈夫。ちょっと探ってみてよ。」


小太郎「わかりました。」



俺もすぐに準備をして、城門に集まっている軍のところに行く。

さすが十神隊。四半刻も経たない間に出発した。

まだ薄暗い。

前日に上田城の賄い方にお願いしていたおにぎりを食べながら、俺たちは駆け足で南下して行った。

躑躅ヶ崎に向けて使者を出したら、すぐに戻って来た。

武田家から援軍の使者と一緒に。急いで行くと戻って伝えてもらうように頼んだ。


走る。


走る。


南へ。


走る。



うん、これちょっと間に合いそうにないな。

上田から甲府より、蒲原、足柄から甲府の方が圧倒的に近い。半分くらいの距離だろうか。

失敗したな。昨日せめて龍岡まで行っていたら。


信輝「又兵衛、越前のところに行ってもう少し急ぐように伝えて。」


又兵衛「ハッ。」


十神隊はかなり厳しく調練しているため、鎧を着ていてもある程度の距離なら走り続けられる。

ここから甲府まではさすがに無理だけど。それに、走って行って間に合っても疲れ切ってしまっていたら援軍の意味がない。適度に急ぎながら、体力を温存できるくらいを見極めなくては。


信輝「采女、今川軍の進軍の邪魔してきて。」


采女「わかりました。」


信輝「少しでも到着が遅くなったらそれでいいから無理しない程度に。」


采女「ハッ。」


信輝「小太郎は北条の方に。こっちも無理しない程度に。なんか北条軍は危険な気がするから気を付けて。」


小太郎「ハッ。」


二人とその配下が走って行く。

ような、気配がするだけ。見えたわけではない。



俺たちもなるべく急ぎながら、途中休みも入れながら、でも急ぎながら甲府盆地を目指した。

なんとか昼前には八ヶ岳を超え、清里まで来た。もう少しだ。


少し休ませるために行軍をゆっくりにして歩く。


信輝「ちょっと疲れたね。疲れたとか言ってられないけど。」


又兵衛「そうですね。采女殿と小太郎殿が上手くやってくれていたらいいですね。」


信輝「武田勢、今川勢、北条勢が今どの辺か様子見てきてもらっていい?」


又兵衛「畏まりました。」


又兵衛が走って行く。


その後も俺たちは小走りになったり、ゆっくり歩いたりしながら甲府を目指した。


韮崎まで来た時に又兵衛が戻ってきた。

ここまで来たらあと少し。

速度は緩めず俺の馬に並走しながら報告を受ける。


又兵衛「殿、戻りました。」


信輝「ありがとう。どうだった?」


又兵衛「武田勢は躑躅ヶ崎を出て、釜無川と笛吹川が交わる辺りにいます。大隅殿も龍岡城の軍勢三千を連れて武田勢に合流しています。今川勢が北条勢より先行して既に甲斐に入り、鰍澤口辺りまで来ているのでそれに備えているようです。それでも采女殿の活躍でかなり遅らせることが出来たようです。北条勢はまだ黒岳辺りで風魔に翻弄されています。」


信輝「そうか。武田勢が今川勢と対峙したなら俺たちは北条勢だな。堀越公方家の因縁もあるし。よし、とにかくまずは武田勢に合流しよう。越前に伝えて。」


又兵衛「ハッ。」


少し行ったら采女が戻って来た。

速度は緩めない。

采女も並走して報告してくれる。


采女「殿、戻りました。申し訳ございません。大した成果もあげられず。既に今川勢は鰍澤まで来てしまいました。」


信輝「いや、無理なお願いをしたのはこっちだし。大丈夫。ありがとう。それでも結構遅くなったよね。」


采女「多少は。今川勢は以前見た時より統率が取れています。」


信輝「何でだ?」


采女「わかりません。油断できません。」


信輝「わかった。晴信殿にも進言しよう。ありがとう。」


采女「ハッ。」


小太郎はまだ戻ってこない。


釜無川に沿って南に行くと、武田家の軍が見えて来た。

武田菱に諏訪法性、風林火山の旗。



信輝「采女、着いたって報告してきて。」


采女「ハッ。」


やっと着いた。

なんとか間に合ったな。


武田の今福の陣に入った。


俺は案内されて、武田菱の陣幕の中に入る。

備前、肥後、陸奥を連れて来た。


義信「信輝殿!」


奥の方で義信殿が床几から立ち上がった。

それに応えて軽く頭を下げ、奥に進み、用意された床几に腰掛ける。




晴信「武衛殿、よく来てくれた。さあ、軍議を始めよう。」


晴信殿の低く重い声が張り詰めた陣幕の中に静かに響いた。




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