第一章 11話 問題発生
1543年8月5日
ここ北信濃にも夏が来た。
俺たちは毎日、学問、武術の稽古、馬術の稽古、新陰流の修行と励んでいる。休日は山で狩りをしたり、浅川園で手伝いをしたりしている。
ここまでは順調だ。
浅川園も早くも軌道に乗り、椎茸と『技術開発』で栽培期間が短くなり安定増産にも成功した朝鮮人参により、既に莫大な利益を上げている。
ただ、ここに来て一つ問題が出てきた。
それは人口の爆発的増加による食糧の不足だ。
善光寺に多額の寄進を行い、善光寺詣りの人達から情報を得ること、大峰領が豊かであることを全国に広めることを頼んだ。
それはいいのだが、それに加えて浅川園で人を雇ったことも、どうやら大峰家が無償で窮民救済をしていると情報が広がっているらしく、人が各地からどんどん流入している。それでも浅川園については情報が外に漏れないように努力している。
また、隣の武田家が信濃侵攻を進めようとしていることや、こっちも隣の越後では内乱が続いていることも理由となっている。
今回も八善屋にお願いして、酒田や直江津から米を買って凌いでいる。
これでもやっていけないことはないが、領内の石高を上げることに力を入れなくてはならない。
でも人口の増加は大変ありがたい。まだまだ人の力が必要な事業があるだろう。石高を上げるにも単純に人が多いと作業員が増えるわけで、土地を開拓していけばいい。将来的には楽になる。それに農民兵ではない専属兵の集団が作れる。
まずは足下の問題として石高を増やすことだ。
父上たちも評定で、流入した人たちを使っての開拓、灌漑、土木作業を計画し、取り掛かっている。領内が活性化してる。
松若丸「思ったより早く、だいぶ水路も出来てきているが、まだ米の増産に繋がる程ではないな。」
千凛丸、竹千代、辰千代、長福丸、鷹千代、真田源太郎、上泉秀胤。この面子は俺の小姓衆ということになった。その小姓衆と、それに又兵衛ら大岩衆を引き連れて領内の視察をしている。
千凛丸「そうですね。もう少しで刈り入れの時期ですが、増産できるのは来年になるでしょうね。」
竹千代「刈り入れが終わったら、麦の二毛作やったり、まだ育ってない土地で蕎麦を栽培したりしてるから、ある程度は改善はしてくるだろ。」
辰千代「そうだね。『技術開発』で生産量増やして、浅川園の方も上手くいってるから飢饉とかにはならないんじゃん。」
松若丸「まあそうだね。今は俺らにできることはないか。戻ろう。」
そのままみんな俺の部屋へ。広い部屋なので人数が増えても問題ない。
松若丸「とにかく、農業改革だな。そういえば、千歯扱きって作ったのかな?刈り入れの時にはあった方がいいと思うんだけど。」
辰千代「この前、設計図描いて隠岐殿に渡したあと、もういくつも作られてるみたいよ。」
松若丸「じゃあやっぱり今はできることはないか。」
竹千代「領地を増やすってのはできないの?」
千凛丸「戦ではなく、周りの小豪族を臣従させ、その土地も我が領地と同じように農業改革を行えば、その分来年度以降の増産に期待できそうですね。」
源太郎「そのようなことができるのでしょうか。」
長福丸「養子縁組政策ですか?」
松若丸「それよりも理想は領地も領民も全て差し上げますみたいなことにならないかなー。」
鷹千代「さすがにそれは難しいのでは。」
長福丸「攻めてはいけないのですか?」
竹千代「殿はなるべく戦はしたくないらしいよ。」
松若丸「軍備を拡充して威圧するか。でもこの前長柄の槍を提案したら、武器を揃えているということが近隣に伝わったらいらない戦を増やすって言われたんだよね。」
辰千代「この辺は平和だもんな。武田とか長尾は戦してるし。村上と高梨も今のところは動きないしね。」
源太郎「武田は長窪城を落としたあと、村上と睨み合ってはいますが、小県ではなく、伊那郡に侵攻し、高遠城攻めに苦戦しているそうです。高遠氏もまだ勢いは衰えていないのでしばらくはこちらには来ないでしょう。」
秀胤「上州方面も今のところは一応、関東管領の名の下に静謐みたいですよ。相模の北条氏が北上しようとしているみたいですが。」
松若丸「武田と北条って今同盟してるんだっけ?」
千凛丸「そのような話は聞きませんが。調べさせますか。」
竹千代「出浦衆に頼もう。三国同盟っていつ頃だっけ?」
辰千代「川中島辺りだから、あと10年くらい先のはず。でも変わって来てるからわからんよね。」
松若丸「確かに、あんま史実あてにし過ぎると失敗するから出浦衆に頼もう。あと、源太郎は南信濃方面、秀胤は上州方面の情報収集を引き続きよろしく。」
源太郎・秀胤「畏まりました。」
真田源太郎この時6歳、上泉秀胤この時13歳。秀胤は既に元服しているが、秀綱の考えで俺の小姓組に入った。この二人はとても頼りになりそうだ。やっぱり、俺の周りにも同世代の優秀な人材を集めないとな。
しばらくはこの生活を続けて、強くなることだ。領内は俺らが何かをしなくてもいい方向に進んでいくだろう。もし何かあれば軌道修正していこう。




