第五章 112話 年貢と戸籍
1554年10月4日
今日は春の部屋で起きて、また食堂で皆で食事をして、武道場で小姓たちを相手に軽く汗を流し、昼も皆で食堂で食事をして、昼からは政庁に行き父上からの引継ぎを行い、帰ってきた。
夕方、梅の間で今日の引継ぎ事項の確認を行っている。
半兵衛「殿、上野殿と大蔵殿が参られました。」
信輝「上野と大蔵が?何かあったか。ここに来てもらって。」
半兵衛「はい。」
信輝「どうした?浅川園で何かあった?」
上野「はい、このようなお時間に申し訳ございせん。まずは大蔵殿から。」
大蔵「はい。殿、今年の収穫についてです。今年は冷夏だった影響を受け、米の出来がよくありません。例年通りの年貢を納めてもらうことはとても無理です。納めてもらわなかったとしても貯えのない農民たちは生活が苦しくなるでしょう。もしかしたら、飢饉となる可能性があります。」
上野「浅川園の方も、今年は菜園の方が例年に比較すると出来がよくありません。お城の方々の分は何とか変わらずに出せていますが、城下にはまわせなくなってきています。」
信輝「そうか。」
大蔵「それで、殿、城の蔵にずっと貯えていた分を民に分け与えてはと考えているのですが、いかがでしょうか。」
信輝「うん、そうしよう。米の他に粟、稗なんかもあるよね。それも放出しよう。采配は大蔵に任せる。かなりあるはずだから、それで足りるだろう。もし足りなかったら我々が食べる量を減らしてもいい。」
大蔵「はい。畏まりました。ありがとうございます。」
信輝「飢えて餓死する者が出ないようにしてくれ。上野、浅川園の野菜もできるだけ民に分け与えてくれ。」
上野「畏まりました。」
信輝「収穫が減ったのってこの地域だけかな?」
大蔵「信濃、上州、はともにですので、付近一帯は同じようなものではないでしょうか。」
信輝「そうか。わかった。じゃあ、それで進めてくれるか?」
上野・大蔵「ハッ。」
信輝「又兵衛、またお願いがあるんだけどいい?」
又兵衛「ハッ。」
信輝「全国の米の収穫を調べて欲しい。奥羽から西は播磨、因幡辺りまでお願い。」
又兵衛「はい。采女殿と話して配下に調べさせましょう。」
信輝「よろしく。采女には今俺から言おう。」
信輝(采女、今話せる?)
采女(はい、いかがいたしましたか?)
信輝(今、又兵衛にお願いしてたんだけど、全国の米の収穫を調べて欲しいから、戸隠衆の采配を又兵衛にお願いするよ?)
采女(畏まりました。又兵衛殿、お願い致します。)
又兵衛(はい。わかりました。)
采女(殿、このままご報告よろしいでしょうか?)
信輝(うん、また動いた?)
采女(はい、義龍殿が兵をまとめて安藤守就殿の大垣城に入りました。続々と兵が集まっています。いよいよのようです。)
信輝「西に行ったね。やっぱり浅井に援軍頼んでいるのかな?」
采女(そのようです。浅井の方ではまだ兵は集めておりません。)
信輝(そうか。尾張は?)
采女(はい、今川勢がまた北上をするようです。斉藤、織田は庄内川まで兵を進めています。)
信輝(やっと戦か。)
采女(はい、おそらくは。ただ、今川勢は長く故郷を離れ、農民兵たちは収穫の時期でそれが出来ていないので士気は下がり続けています。)
信輝(そうだろうね。今川義元殿はその辺気にしないのかな?)
采女(はい、近郷から強制的に食べ物を徴収し続けているようなお方ですから、気にしていないのでしょう。)
信輝(斉藤勢、織田勢はその辺どう?)
采女(斉藤勢は刈り取りを早めにしてから来ているようです。織田勢は、うちと同じく専属兵の軍を作っています。数は多くはないですが。)
信輝(そうか、そうだよな。わかった。その戦が終わったらそろそろ戻ってきていいよ。長い間悪かったね。)
采女(ハッ。畏まりました。)
1554年10月5日
今日は直の部屋で起き、食堂で皆で食事をして、午前中に政庁に行き、昼も皆で食堂で食事をして、午後からは梅の間で今日の引継ぎ事項の確認を行っている。
三右衛門「殿、備後様がお越しです。」
信輝「ここに通して。」
三右衛門「ハッ。」
備後「若、お呼びだと聞きお伺いしました。」
信輝「悪いね、忙しい所。」
備後「いえ、殿に隠居の許可を頂き、年明けに若が家督を継がれる際に、こちらも備前に家督を譲ることになりまして、もうほとんど備前に仕事は任せましたので。」
信輝「そうか。備前なら大丈夫だもんな。そこで備後にお願いがあるんだけど。」
備後「はい、備前から話は聞いております。戸籍をまとめ新しく作成されるとか。」
信輝「そう、かなり大変だと思うんだけどお願いしていいかな?」
備後「お任せください!戦には出れなくなりましたが、その手の仕事ならまだまだ若い者たちには負けませぬ。」
信輝「ありがとう。時間はかけてもいいから、戸籍の作成と、今後、戸籍の変化があった時にどう申請してもらうかの仕組み作りも頼むよ。」
備後「畏まりました。さっそく明日から取り掛かります。月一程度で進捗をご報告いたします。」
信輝「ああ、そうしてくれると助かる。何かあった時は教えて。もちろん費用も出すから。」
備後「わかりました。」
信輝「じゃあよろしく。」
備後「ハッ。」




