第五章 102話 風魔と戸隠
1554年8月15日
采女「殿、時間がかかって申し分けございませんでした。戸隠衆として風魔受入容認となりました。」
信輝「そうか。ありがとう。手間をかけさせたな。風魔衆にはここから南東の吾妻山の辺りに住んでもらおうかと思ってる。」
采女「わかりました。父が、風魔小太郎殿が戻られる前に一度話が出来ればと申しております。」
信輝「そうだね。俺もそう思ってた。あとさ、相模からこっちに来るのを戸隠で手伝ってあげてくれないかな?」
采女「はい、父もそう申しておりました。」
信輝「あ、本当?じゃあ隼人呼んできてもらっていい?」
隼人「若、私も来ております。」
信輝「おお、隼人悪いね、無理言って。」
隼人「いえ、我らと風魔は一度も争ったことがございませんでしたので、それがよかったです。」
信輝「そうか。よかった。采女、じゃあ小太郎殿呼んできて。あ、やっぱり竹の間にしよう。俺らも隣に移動しよう。」
采女「わかりました。」
その後、小太郎殿と隼人、采女とで、戸隠と風魔の共存のための話し合いをした。基本的にはどちらも大峰のために働こうということになった。
ありがたいことだ。
そして、風魔小太郎殿と、戸隠衆棟梁の隼人自身が一緒に相模に行くことになった。
棟梁が行くということが大切らしい。小太郎殿も喜んでいた。
信輝「じゃあ、小太郎殿、氏康殿によろしくな。隼人も悪いけど宜しくお願いします。」
小太郎「わかりました。」
隼人「お任せください。」
二人と小太郎殿の配下が大峰を発つのを見送った。
信輝「そういえばさ、采女、やっぱり明智だったな。」
采女「はい、今度は鎌倉公方らしいですね。」
信輝「着実に手を打ってるな。細川晴元。これは明智光秀の献策かな?誰が言い出したかとかわかる?」
采女「申し訳ございません。そこまでは。」
信輝「だよね。」
采女「あと、遅くなったのですが、京から次の情報が入りました。」
信輝「ああ、何かあった?」
采女「はい、まずはやはり、二条晴良殿が再度関白になりました。そして、その二条晴良殿の娘が義道様の正室となりました。」
信輝「まあ予想通りだな。正室の件もそんな珍しいことじゃないよね?義輝様の最初の奥方は近衛稙家様の娘だったし。」
采女「そうですね。あと、細川殿の嫡男に明智殿の娘が正室として迎えられるようです。」
信輝「明智の娘?って?」
采女「はい、側室との子みたいですが。」
信輝「あれ?明智って正室一筋じゃないの?」
采女「何人か側室がいらっしゃるみたいですよ。大峰にも連れて来てましたし。」
信輝「そうなん?知らなかった。じゃあ明智と細川が縁戚になったんだ?」
采女「そうですね。そして細川晴元殿の娘が、今度鎌倉公方となる義方様の正室となるようです。」
信輝「繋がったね。明智、細川、足利、二条、九条、十河、三好までが縁戚になったわけだ。あれ?細川晴元の継室は六角だっけ?六角もだね。それで前の正室が三条氏で、本願寺顕如の正室が三条だよね?で、本願寺顕如は九条稙通の猶子だよね?あとなんか繋がりある?」
采女「朝倉義景殿の正室が細川晴元殿の娘です。」
信輝「朝倉も繋がったじゃん。朝倉と浅井は仲良しだもんね。斉藤と毛利は?」
采女「これは私の推測ですが、斉藤家ではなく明智殿が欲しかったのではないでしょうか?」
信輝「そんな有名だった?」
采女「源氏の血を引いている中で、新しい将軍家の側近となれる有能で若い者を探してでもいたんじゃないでしょうか。そして有職故実に秀で、秩序を大切にするという、まさに明智殿は最適と判断された。そのため、斉藤に連合の話が行った。でもその時、明智殿は大峰に来ていた。そこで例の僧が通ってきた。今考えたら甲賀者だったかもしれませんね。」
信輝「そうか。そう言われてみればそんな気もする。」
采女「もう一つ、明智殿が欲しかったのではないかとの理由が。まだ噂ですが、明智殿を副将軍にすると。」
信輝「副将軍って?」
采女「常設ではないのですが、過去にも数回、任命された者がいる役職です。」
信輝「誰が?」
采女「はい。足利尊氏様の時の足利直義殿、足利義持様の時の今川範政殿、足利義尚様の時の斯波義寛殿です。」
信輝「へえ、名誉職みたいな感じかな?管領とどっちが上?」
采女「おそらく副将軍の方が上ではないでしょうか?」
信輝「そんなのよく細川晴元は許したね。」
采女「先ほどお話ししましたように明智殿は血筋も能力も申し分なかったのでしょう。それに義道様が明智殿をひどく気に入られたようです。美濃源氏の土岐家の別れですので、そのような理由でも気に入られたのではないかと。」
信輝「そうか。正統だなんだって言ってたから、そういうのを大事にしたがるのかな?あれ?あと毛利は?」
采女「毛利家は村上水軍を従えています。それが理由ではないかと。」
信輝「そうか。そこまで考えているとは。」
采女「そうですね。出自も見ていますが現実も見ているようです。」
信輝「なるほどな。他は何かある?」
采女「細川連合の方々に近く官位が与えられるそうです。」
信輝「そうか。朝廷に献金でもしたのかな?まあそれはいいや。他何か動きある?」
采女「京はそれくらいですね。」
信輝「そういえば今川軍どうなった?」
采女「やっと鳴海まで到達したようです。」
信輝「そんな時間かけて兵糧とか大丈夫なん?」
采女「その場所ごとに近郷から徴収しているようですね。」
信輝「そうか。それじゃ京までは行くのは無理そうだな。尾張は?」
采女「はい、斉藤勢が尾張に入ろうとしている他は以前と変わりありません。」
信輝「尾張はやっぱまだどこの勢力も自分から動くには力が足りないか。」
采女「はい、斉藤勢と今川勢の動き次第のようですね。」
信輝「わかった。ありがとう。」
采女「はい。」
信輝「また何か情報入ったら教えて。」
采女「畏まりました。」




