第一章 9話 浅川園誕生
1543年6月15日
大急ぎで作られた、牧場、菜園、薬草園もほぼ完成し、八善屋が頑張ってくれた家畜、薬草は揃い、菜園にも思っていたより多くの野菜が集まった。完成間近のここに俺たちは来ていた。
信秀「思っていたよりかなり広くなったな。」
室賀備後「はい、八善屋が頑張ってくれたおかげで様々な家畜や、上等な南部馬、薬草、野菜が揃いましたので。そしてそれらの栽培方法や世話の仕方を若殿が考え、教え込んだ世話係もかなりの人数となったため、その者達の住む建屋も増えました。そのため当初の予定よりは日数がかかってしまいました。」
信秀「そうか。その分かなり期待出来るな。備後、兵庫、主計、ご苦労であった。」
室賀備後・山下兵庫・中村主計「ハッ。」
信秀「これを機にここに名前を付けようと思う。牧場、菜園、薬草園では言いにくいからな。色々考えたが、地名を取って浅川園とする。」
室賀備後「畏まりました。呼び易くていいかと思います。」
信秀「あと十日もあれば出来そうだな。伊勢たちも見込みより帰りが遅れている。ちょうど同じ頃になろうな。」
松若丸「父上、よろしいでしょうか。」
信秀「どうした?」
松若丸「実は、また別に作らせていた物がありまして。」
信秀「まだ何かあるのか。どこにあるのだ。」
松若丸「はい、こちらです。」
浅川園の端の方に皆を案内した。ここに建ててもらった小屋に入り、ある物を見てもらう。
信秀「これは椎茸か。」
松若丸「はい、椎茸の栽培に成功し、干し椎茸も作らせてみました。」
信秀「これは八善屋を通して売ればかなりの儲けになるな。よくやったぞ。備後、屋敷に戻る。八善屋に来る様に使いを出してくれ。」
急いで帰って来た我々がいる屋敷の大広間に、これも急いでやって来た八善屋甚右衛門が入ってきた。
竹千代、辰千代もいる。
信秀「甚右衛門、急かして悪かったな。この度は色々と無理を通してくれ、骨を折ってくれたこと感謝する。」
甚右衛門「いえ、お役に立てて光栄です。本日はわざわざそのお言葉を?」
信秀「いや、それもあるのだが、また子息の松若丸からの話を聞いてくれ。」
甚右衛門「畏まりました。」
松若丸「甚右衛門殿、この度は色々とお世話になりありがとうございました。お陰様で思っていた以上の出来となりました。ありがとうございます。」
松若丸(じゃあ始めるから『交渉』頼むよ。)
辰千代(長かったな、ここまで。)
竹千代(長かったような、あっという間だったような。)
松若丸「本日は我らが栽培した物を商品として扱って頂けないかとの相談です。まず、こちらをご覧ください。」
甚右衛門「ほう。これは椎茸ですか。しかも干し椎茸もですか。これを栽培されたと。すごいですな。これならこちらからも是非お願い致します。」
松若丸「ありがとうございます。もう一種あります。これです。」
甚右衛門「これは先日こちらからお持ちした朝鮮人参ではないですか。まさかこれも栽培されたのですか?朝鮮人参の栽培はまだ誰も成功したことがなく全て貿易で入れているはずですが。」
松若丸「はい、試行錯誤の結果、栽培に成功しました。」
甚右衛門「なんと!これも是非こちらからもお願い致します!これらならば相当な高値で売れますので、売上の六割をお渡しします!」
松若丸「そんなにいいのですか?」
甚右衛門「それだけの価値があります。それでも当方もかなり儲けさせて頂けます。さらに、今回色々と仕入れた分のお代もいりません!」
信秀「それはさすがに。」
甚右衛門「いえ、結構でございます。これからも是非ご贔屓にして頂ければ今回のお代など安いものでございます。民部様、良い御子息様をお持ちになられましたな。信濃の三神童とはよく言ったものです。今後とも宜しくお願い申し上げます。」
信秀「そうか。なんだか申し訳ないが、有り難くそうさせてもらおう。こちらこそ今後も宜しくお願い致す。」
松若丸「宜しくお願い致します。」
松若丸(『交渉』使った?)
辰千代(使ったよ。俺が話してなくても使えるらしい。そして尋常じゃない効果を発揮した!)
竹千代(さすがに八善屋がかわいそうじゃない?)
松若丸(俺もさすがにかわいそうだと思ってしまった。)
辰千代(いいって言ってんだから大丈夫さ。いい取引したね!)
松若丸(容赦ないね。)
竹千代(しかし信濃の三神童って。)
辰千代(まあ名前が売れてやり易くなることもあるんじゃん?)
松若丸(まあね。)
その後、父上や大峰家だけでなく、八善家甚右衛門の方もとても満足して帰って行った。
まあこれで色々と目処が立ってきたな。
食には困らなくなったし、定期的なかなり高額な収入も入ることになったし、軍馬もいいのが育つし。石高も増えるし。農具も作れるものは作ろう。薬草が育ってきたら薬を作ろう。あと何だろ。武器か。次は武器だ。
いつもの様に俺の部屋に集まった。
千凛丸もいる。けど、俺らは普通に話している。最初はびっくりして抵抗あったみたいだけど、もう慣れたのか普通になった。
松若丸「いやーよかったね。上手くいって。」
千凛丸「若のお考えが素晴らしかったからです。」
竹千代「そうだな。よく色々考えたよ。」
辰千代「あとは何だろ?」
松若丸「武器かな。槍を長柄にして。弓も強化するか。あとは鉄砲が欲しいね。設計図描けない?」
千凛丸「槍の柄を長くするのは確かに有効ですね。その鉄砲とは何ですか?」
辰千代「多分描けると思うけど、作れなくない?まずは鉄でしょ。千凛丸楽しみにしてて。」
竹千代「鉄砲欲しいな。でも鉄砲作れたとしても火薬作れないじゃん。」
松若丸「それも考えててさ、今回家畜小屋作ってもらったじゃん。あの家畜はもちろん食用なんだけど、その糞尿で硝石が出来るらしいからそれも世話係の人たちにお願いしてある。石灰石が必要だったから、本当は石灰石の鉱山が欲しいんだけど、ないから八善屋にお願いして買うことにした。まあ今はまだ鉱山あっても技術ないし人もいないから掘れないからさ。ただ出来るのに最初は五年かかる。」
竹千代「五年は長いけど、まあどうせ鉄砲作れるまで時間かかるだろ。」
辰千代「火薬って硝石とあと何だっけ?」
松若丸「硫黄ね。硫黄は千曲川の東側の山入っていった場所に米子硫黄鉱山があるはずだから、それもそのうち手に入れよう。」
辰千代「鉄は?」
松若丸「それも鉱山見つけなきゃね。」
竹千代「先は長いな。」
千凛丸「まずは長柄の槍を作ってみたらいかがですか?」
竹千代「そうだな。そうしたら?」
松若丸「じゃあこれも八善屋か。これは甚右衛門殿じゃなくでもいいな。利助殿と相談するか。試しに長さの違うの何本か試作してもらおう。」
辰千代「あんま戦ないよね?ここだけかな?」
竹千代「どうなんだろう?出浦衆が帰って来たら周りの諜報活動してもらうか。」
松若丸「確かに。俺も又兵衛に頼むよ。」
千凛丸「それも八善屋に頼めるのではないですか?あと、善光寺詣りの者たちから情報を得るという手もあります。」
竹千代「それ使えるな。」
辰千代「どうやって?」
松若丸「じゃあ善光寺に寄進しよう。そして情報を集めてもらうってのは?」
千凛丸「父上にお願いしてみましょう。」
竹千代「じゃあ頼むね。」
松若丸「あと千歯扱きってわかる?辰千代これの設計図描いてくれない?あと、正条植えのための田植え定規。これあるとかなり収穫効率上がるって。」
辰千代「わかった。それはすぐにやろう。」
竹千代「それに塩水選もじゃない?。そっちはまた隠岐殿と相談だな。水路も結構進んでるみたいだしな。」
松若丸「色々上手く行ってるね。」
あとは上州からの帰りを待つか。




