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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第五章
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第五章 94話 木曽と六神隊

1554年7月11日


まだ今川軍は動かない。


が、先に動いた軍があった。


斉藤勢だ。

采女からの知らせでわかった。


使者が往復していたというし、今川も連合軍側で、武田と大峰が今川を攻めると聞いて、その援軍に斉藤勢が動いたということか?


斉藤勢は先日同様また東に向かって軍を動かしてきた。

既に恵那まで進出しているようだ。前回と違って行軍が速い。


数は一万。前回よりは少ないが、大将は長井道利殿で稲葉一徹殿と氏家卜全殿が将として来ている。今回は本当に攻めようとして来ているようだ。将と行軍の速さでそれが感じられる。

木曽からまだ何も言って来ていないが、まだ気づいてないのだろうか。


松本から内膳叔父に五千の兵ですぐに木曽に行ってもらい、仕方なく武田の援軍に行くことは諦め、俺も木曽に行くことにした。今回はそれに加えて、小笠原家を継いだ小笠原佐八郎長信叔父にも内膳叔父の軍に入ってもらった。

武田の援軍へは伊勢叔父と、龍岡城の島津大隈叔父、それに笠原家を継いだ笠原弥九郎清信叔父、大井家を継いだ大井勘十郎貞信叔父にも行ってもらうことにして、龍岡城で待機してもらうことにした。


俺は大峰で待機していた六神隊と、馬を飛ばして、また木曽へ。

六神隊の旗を新しく発注していたのだが、今回はまだ間に合わなかった。

そのため、まだ今回もそれぞれの色を染め抜いただけの旗を翻し、六色の旗が木曽の山に立ち並んだ。




1554年7月14日


信輝「今回は、おそらく斉藤勢は本気です。」


鎌田内膳「そうだな。前回とは軍の勢いが違う。いかがする?」


小笠原佐八郎「わしは、武衛殿に従うぞ。」


信輝「ありがとうございます。前回と同様に南木曽で迎え撃ちましょう。今回は全軍ひとまとまりになって戦うのがいいと思いますが、いかがですか?」


木曽義康「いや、前回もわしの軍の働きで斉藤勢を追い払ったのじゃ!今回も同様の戦略でやる!」


信輝「え?そうでしたっけ?」


木曽義康「そうであったろう。それなのに大峰からは何の恩賞ももらっておらぬ!わしが斉藤勢に寝返っても何も言えぬぞ!」


木曽義昌「父上、それは違います。前回は、斉藤勢に攻める気がなかったからです。我らも何も手柄を挙げたわけではないので大峰から恩賞を頂けないのは同然です。」


木曽義康「ふん、お主は大峰の嫁に誑かされたか!木曽の誇りを忘れたか!」


木曽義昌「木曽の誇りは忘れませぬが、現実を見て頂かないと木曽は滅びますぞ。今は大峰家あっての木曽です。」


木曽義康「ではお主はここの連中と好きにすればいい!わしはもう行くぞ!わしのやり方で戦う!」


信輝「あーあ。」


木曽義昌「武衛様、内膳様、佐八郎様、申し訳ございませぬ。私からなんとか父は説得致しますので。」


鎌田内膳「できるか?」


木曽義昌「やります!」


小笠原佐八郎「頑張ってもらわねばな。」


信輝「まあその気持ちは大事なんだけど、大事なところで裏切られても困るよね。」


木曽義昌「申し訳ございませぬ。」


信輝「いや、こちらとしては義康殿より、義昌殿に期待してるから。頼むよ。」


木曽義昌「ありがたきお言葉!」


信輝「正直、あの態度だともう義康殿は信用できないよ。」


鎌田内膳「そうだな。自分で言っていたが、本当に斉藤と内通していてもおかしくはない。」


小笠原佐八郎「残念ながらそうですな。」


木曽義昌「そのようなことは。」


鎌田内膳「ないと言い切れるか?」


木曽義昌「それは……。」


信輝「義昌殿には申し訳ないが、その可能性も考えて布陣し直さないとな。」


鎌田内膳「いかがする?」


信輝「相手は一万。こちらは木曽勢を抜いて七千二百。南木曽まで行くのはやめよう。この木曽福島で相手の出方を待つ。武田方の、飯田城の飯富兵部殿、高遠城の武田典厩殿、諏訪高島城の武田逍遙軒殿にも知らせておこう。」


鎌田内膳「わたった。佐八郎、手配せい。」


小笠原佐八郎「畏まりました。」


木曽義昌「武衛様、私は?」


信輝「木曽福島城下に滞在させてもらうから、その手配を頼むよ。」


木曽義昌「畏まりました。」





その夜、俺が泊まることになった寺に又兵衛が帰ってきた。


又兵衛「殿、戻りました。」


信輝「お疲れ。どうだった?」


又兵衛「義康殿、間違いないかと。」


信輝「じゃあ、斉藤勢が攻めて来たのはそれが理由か。今川との関係はどうなんだろう?」


又兵衛「それはわかりませぬ。」


信輝「そうだよね。どうするか。」


又兵衛「義康殿は、殿が南木曽に出陣したら、木曽福島城で兵を挙げ、斉藤勢と挟み撃ちにする予定だったみたいです。」


信輝「そうか。危なかったな。けど、それだともう退路を塞ごうとしてるかもしれないな。」


又兵衛「松本までのですか?」


信輝「すぐに調べて。」


又兵衛「ハッ。」


信輝「あと六神隊の皆と内膳叔父と佐八郎叔父呼んで。あと義昌殿も。」


又兵衛「わかりました。」




寺に皆が集まってきた。


肥後「どうした?こんな時間に。」


陸奥「なんか起きたんだね。」


信輝「そう。義昌殿には申し訳ないけど、義康殿が本当はどうなのか確認させてもらった。」


木曽義昌「本当にどうなのかとは?」


鎌田内膳「それで?」


信輝「黒だ。」


佐八郎「そうか。それでどうする?」


木曽義昌「そうなのですか?父が斉藤にということですか?」


信輝「そうだ。南木曽に行っていたら危なかった。退路も既に塞がれている可能性もある。今、又兵衛に確認してもらっている。ここはもう木曽を諦めて退こうと思う。」


木曽義昌「そんな。そしたら木曽は斉藤に……。」


信輝「そう、攻められないだろう。木曽は斉藤家の下についたということだ。義昌殿はどうする?このままここにいるか、それとも俺らと大峰に行くか。」


木曽義昌「私は……。大峰に行きます!武衛様に忠誠を尽くします!」


信輝「ありがとう。けど、いいのか?」


木曽義昌「はい、宜しくお願い致します。ご指示をお願いします。」


信輝「そうか、決心したな。じゃあ、義昌殿は家族を連れてここへ。采女、いるか?」


采女「ハッ。」


信輝「義昌殿を手伝ってやってくれ。」


采女「畏まりました。」


木曽義昌「ありがとうございます。畏まりました。」


信輝「内膳叔父上、佐八郎叔父上、兵をまとめてすぐに出発できるように。」


鎌田内膳「わかった。」


小笠原佐八郎「同じく。」



信輝「六神隊はすぐに出れるな?陣立てを言うぞ。」


一同「ハッ!」


信輝「越前、お主の玄武が先陣だ。」


越前「ハッ!!光栄です!」


信輝「近江の鳳凰と下総の麒麟が続け。臨機応変に頼むぞ。」


近江「ハッ。」


下総「お任せください!」


信輝「その後ろに佐八郎叔父が千を率いて下され。」


小笠原佐八郎「畏まった!」


信輝「次に内膳叔父の四千。義昌殿と奥方、その周りの者たちは頼みます。」


鎌田内膳「おう!」


信輝「その後ろに播磨の白虎、次に俺の青竜、最後に武蔵の朱雀だ。」


播磨「わかりました。」


武蔵「畏まりました。ご期待に応えられるよう働きます。」


又兵衛「殿、戻りました。殿が仰ったように、義康殿の軍は全て既にここにおらず、この先の宮ノ越辺りに陣取っています。また斉藤勢も南木曽を超えて迫ってきております。」


信輝「よし、皆そういうことだ!義康殿が既にここにいないならもうこそこそする必要はないな!かがり火を焚け!準備が出来次第行くぞ!久しぶりの戦だ!」


一同「おー!!」


皆が準備のため順々に出て行く。


信輝「孫一、源左衛門、いいか?」


孫一、源左衛門「ハッ。」


信輝「かなり厳しくなると思うから、雑賀隊の働きも重要になる。頼むぞ。」


孫一「義康殿を討っても?」


信輝「そうだな、足とか馬とかにしといてくれ。」


孫一「わかりました。お任せあれ。」


源左衛門「他の者たちは?」


信輝「そうだな。前よりも後ろを頼む。後ろの斉藤勢は討っていいぞ。」


源左衛門「では私は後ろに。」



信輝「長門、伊豆、左衛門尉、兵部、頼んだぞ。」


長門「お任せください。越前に一番手柄を立てさせて見せましょう。」


伊豆「今回は玄武に譲ろう。が、何かあった時は任せて下され。下総殿にも手柄を。」


左衛門尉「山岳戦ですからな。前後に奇襲でもかけますか。そしたら下総殿の手柄になるでしょう。その辺は任せて頂いても?」


信輝「ああ、いいぞ。」


左衛門尉「では楽しみにしててください。」


兵部「こちらは何かあった時のために備えておきましょう。危機に臨んでこそ近江殿が手柄を挙げましょう。」


信輝「ああ、皆頼んだ。」



信輝「三郎兵衛、一番後ろ頼んだぞ。」


三郎兵衛「光栄です。見事に乗り切って見せましょう。武蔵様に手柄を立てさせますぞ。」


信輝「ああ、任せた。」




こうして皆、それぞれの隊の指揮に戻って行った。


実質の六神隊の初陣だ。



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