第一章 8話 一大プロジェクト始動
1543年3月21日
この日は朝早くから、大久保伊勢守信宣、黒田掃部頭信隆を始めとして、戸田隼人正信光と戸隠衆、出浦左衛門佐尉清種と出浦衆からなる上州使節団が出発するため、また、その後評定があるためと、学問、稽古は臨時休養となった。
出発の時刻、館の門の前には一族郎党、それぞれの奥方、幼子まで皆が集まった。評定の際に父上と祖父が言ったことで、大峰家の盛衰を決める使節団だと広まったらしい。
もちろん俺もいる。そんな中、俺が思ったのは、田舎だなーってこと。それから今更ながら、この一族は眉目秀麗というか、容姿端麗というか、皆が見目麗しいってことを実感した。背はそんなに高くはないかな。でもこの時代にしては高い方か。それに文武両道というか、皆、あのカリキュラムのおかげで強いし賢い。めっちゃ強いじゃん、大峰家。
ただ場所が悪かったよな。川中島だもん。武田と上杉の草刈り場だよ。そりゃ残念ながら発展はしないわ。でも、もう既に史実とは違ってきてる。この使節団が上手く行けば、大峰家は生き残るどころかずっと大きくなるだろう。
俺が色々考えてるうちに出発となった。
大久保伊勢「では、兄上、いや殿、行って参ります。」
信秀「おう、伊勢、頼んだぞ。吉報を待っている。」
信義「期待しておるぞ。」
大久保伊勢「はい、父上もお達者で。」
黒田掃部「お任せ下さい。」
大久保伊勢「出発!」
馬に跨った伊勢叔父上の号令で列が動き出す。往復二月以上とあって、荷物もものすごい。
軽い携帯食とかあったら戦のとき便利だなと思った。ゆくゆく考えよう。
見えなくなるまで見送った後、解散となった。
評定衆はそのまま大広間に。本日は何の評定だろう。あれ?隠岐殿がいる。竹千代と辰千代もいる。千凛丸と長福丸、鷹千代もいる。八善屋甚右衛門もいるな。とりあえず指定された父の隣に座った。嫌な予感がする。いや、もう確実だろう。
信秀「これより評定を始める。備後。」
室賀備後「ハッ、まずは皆様既にご存知かと思いますが、若、竹千代、辰千代から隠岐殿へ話した、水車、水路、堤防の件ですが、これが非常に優れた設計であり、ただ今安倍家が中心となって建設を始めました。こちらに関して隠岐殿からお願い致します。」
安倍隠岐「はい。まずは皆様こちらをご覧ください。」
左右に分かれて座っている皆の間に地図を広げた。この前隠岐殿に渡した地図にさらに詳しく描き込まれてある。さすが。
安倍隠岐「こちらは若様たちから頂いたものに少々手を加えさせて頂きました地図です。」
一同「おー!」
いや、少々じゃないでしょ。めっちゃ詳しく描いてますやん。誤解を与えるような言い方はやめた方が。
湯塚玄蕃「さすが若殿ですな!」
ほら、こうなる。
安倍隠岐「これらを今急いで進めておりますが、三年程はかかる公算です。ただ、これらが全て完成すれば、石高は現在の約五倍にはなるでしょう。」
一同「おー!」
湯塚玄蕃「さすが若殿ですな!」
俺じゃないから。
室賀備後「隠岐殿、ありがとうございます。」
信秀「これは当家として重大な仕事だ。各家もし人を出せるようだったらできるだけ協力して欲しい。」
一同「ハッ。」
室賀備後「次に、本日も若様たちより提案があるとのことです。」
信秀「松若丸、竹千代、辰千代、前へ。」
ですよね。そう思ってました。
松若丸・竹千代・辰千代「はい!」
松若丸(さすがにちょっと緊張するな。)
竹千代(確かに。松若丸が、話してよ。)
辰千代(何が?)
目で会話する俺と竹千代。
そうなんです。この人は、こういう人なんです。良くも悪くも空気読まないんです。
とりあえず俺が話そう。
松若丸「はい、皆様こちらをご覧ください。」
隠岐殿と同じ様に地図を広げる。
松若丸「南浅川沿いのこの場所に、牧場、菜園、薬草園を作りたいと思っています。大岩又兵衛とその配下の者たちに調査をお願いし、それに適した土地であることは既に確認済みです。」
一同「おー!」
湯塚玄蕃「さすが若殿ですな!」
ホントにわかってんのかこの伯父は。
信秀「この提案もやってみようと思うが皆よいか。」
一同「ハッ。」
信秀「ちなみに先程出発した伊勢、掃部、隼人にも既に同意は得ておる。これも安倍家と構想を練った上で、室賀備後、山下兵庫、中村主計を奉行として取り掛かってくれ。」
室賀備後・山下兵庫・中村主計「ハッ。」
信秀「この計画には八善屋も協力して欲しいと思い、甚右衛門にも本日来てもらった。甚右衛門、これへ。」
甚右衛門「はい。」
信秀「松若丸から思うように依頼せよ。」
父上すごいよ。昨日そんなに説明してないのに八善屋も呼んでおいてくれるなんて。奉行も決まってたみたいだし。ありがとうございます。
松若丸「では、甚右衛門殿、家畜として、牛、豚、鶏、そして南部馬を取り寄せて頂けませんでしょうか。それから、薬草は、葛根、麻黄、日桂、芍薬、生姜、大棗、甘草をお願い致します。あと野菜は手に入るものがあれば、どんどんお願いしたいのですが、可能でしょうか。」
信秀「これは驚いたな。そんなにもか。甚右衛門、誠に手を掛けてすまないが、頼まれてくれないだろうか。金は出すゆえに。」
甚右衛門「畏まりました。出来る限り協力させて頂きます。」
信秀「すまんな。ありがとう。」
松若丸「ありがとうございます。」
信義「これはまた面白いことになりそうだの。わしも参加しよう。」
鎌田内膳「大殿もですか。我が鎌田家も協力させて頂きます。」
湯塚玄蕃「父上、兄上、我が湯塚家も協力致しますぞ!」
信秀「玄蕃、ここでは殿と呼べと言っておるだろうに。まあよい。内膳も玄蕃も協力感謝する。頼むぞ。ただ、周りには秘匿して行いたい。周りとは敵対はしていないが友好関係というわけでもないからな。そこのところも頼んだ。」
一同「ハッ、畏まりました。」
こうして一大プロジェクトが始まったのです。
竹千代と辰千代は評定では何も話しませんでした。
その後、安倍家と話し合い、どのように進めていくか決まった。
建設は、『技術開発』で期間短縮し、耐震性耐火性が高いものを建ててもらうことになった。かなりの人数を掛けるので約二月程の予定。ちょうど上州から帰って来る頃になりそう。
それまでは我々はカリキュラム通りに学問、稽古に励むことに。




