プロローグ 『ギャップ萌え。ってこれのこと?』
もう少し短く纏める予定でしたが長くなってしまいました。
最後まで読んで頂けると幸いです。
「えーと、あったあった。これが深海に眠る豪華客船にあった冠」
「クサッ。つちクサイ。きたないからはやくしまってよ」
「酷い事ゆーなよー。じゃあ、これは?天空に聳え立つ塔から抜き取った煉瓦。ぱっと見、何の変哲も無いやつだけど多分っ......」
「いらない」
「えー、やっぱりー」
僕の父さんはカッコいい。父さんは冒険家でとてもカッコいい。だけれども、時々カッコ悪い。
数々の苦難を乗り越えてきた父さんには沢山話を聞かされ、いつもワクワクしていた。
ある時、父さん達のパーティは大量の化物に襲われ、撤退を余儀無くされた。
行き先も分からず走る。
ひたすら走る。
しかし、メンバーの1人が化物に捕らえられ、その人は言った。
「前に進め、犠牲になるのは俺だけでいい」
皆直ぐに足を止めるも、その場で立ち尽くす。
助けるべきか。逃げるべきか。
助けられなかったら?
犠牲者を増やしてしまったら?
考えれば考える程答えが遠ざかる。
そんな他のメンバー達とは違い、躊躇わずに真っ直ぐ助けに行った人がいた。それが父さん。
1人で化物を殲滅させ、誰1人として犠牲者を出さなかった!
そんな父さんが持ち帰ってくる宝物、もとい。
ガラクタはゴミばかり。
なのに、それらを見つめる目は少年の様に鮮やかで透き通っている。
まさか、話が嘘。なんて事はないよね?
ありそうで引き攣った笑いもできない。
だって仲間を助けた後に言い放った言葉、それは
「足引っ張るなイカ野郎。え、捕まった事じゃねーよ。お前が決め台詞言った事だろ!?本当なら俺が捕まって『やれやれ、本気を出すしかないか』って言うはずだったのによ」
倒せる相手なのにも関わらず、窮地に立たされた演技をする馬鹿な父さん。
勿論、他のメンバー達からは非難の声が殺到したようだ。
そりゃそーだよ。
助けた後に余計な事を言わなければ良かったのに。
そもそも、普通に倒せば良かったんだよ。
はぁ。と深く溜息をつく僕。
すると父さんの雰囲気が変わった。
元々鋭い目が吊り上がり、イカつさを増す。口元は少し緩み、口の中が寂しそうだった。
一度口を開いたかと思えば、また閉じる。
数秒程沈黙が続いたが、その時の僕には、この時が永遠に終わらないのではないかと思っていた。
だって、真面目な父さんを見た記憶が無かった。
真面目で真剣な表情をつくる事はよくあったけど。
家に慌て帰ってきたと思えば、僕の所に迷わず来て、「大変なものを持ってきてしまった」と呼吸を乱しながら袋を開いて見せる。
中を覗くが何も入っていない。
不思議な顔で見つめると、
「初めて透かしっ屁が成功した!だから記念に持ってきた」
予想だにしなかった父さんの言葉に、当時の僕は大笑いしてたけど、今考えたらただの間抜けだよ。
他にはこんな事があったな。
深刻な顔で僕の前に立ち、「父さん捕まるかもしれない」と呟いた。
何故かと問う前にポケットから何かを取り出した。
「前を歩く女性が何かを落としたから拾ったら下着だったんだ!困るだろ。渡したら盗んだと誤解されるかもしれない。そう思って持って帰ってきてしまった。どうすればいいんだー」
いや、直ぐに渡せば良かったじゃん。
小さな息子に言うべき事じゃないし、言っちゃ駄目でしょ。
やっぱり記憶の棚を探し回っても、見つかるのはふざけた父さんばかり。
だから、この時は父さんの真剣な表情に驚いた。
右手の爪を立て、顔寄りの頭部を掻きながら「えー」と言い、間髪いれず話しはじめた。
「アリギュエールは冒険に興味があるんだっけか?」
「うんっ!」
立ち上がりながら僕は問い掛けに対して返し、父さんはそんな僕の頭を掌全体で覆い被す様に撫でる。
父さんの手の温かさが頭皮でも感じる。
手の大きさが分かる。
偉大な父さんに対してか、それともいつか始まる冒険に対してなのか、今でも分からない、けど。高揚感が湧き上がってきていた。
「それじゃあ、話しておかないとな。冒険には危険が常に付き纏ってくる。うん?危険と一緒に旅してるもんだな」
「そうなの!?」
「そうだ。だから、時には何かを犠牲にする時が来てしまうかもしれない。俺以外はな!でゅひひひひ」
「わらいかたきもいー」
「何かを失った時も前を向いて進め。冒険心が消えない限り」
正直、ちゃんと意味は理解していなかったけど、父さんの冒険に対する熱意は感じ取れていた。
「俺は大切なものを守る為に犠牲を出したくないし、大切なものを失うのはもっと嫌だ。だから、危険をブッ殺す」
「あなたー、アリー。晩御飯ができたよ」
2人の「はーい」という返事が重なり、僕は食卓に向かおうとした。
その僕の肩を軽く抑えた。
「ほれ」
という言葉と共に、黄金に煌めくブレスレットを差し出した。
これと言った特徴はなく、一箇所に6つの漆黒の玉が円形状に埋まっているだけ。
錆びは勿論、小さな傷や擦れも見当たらない。
本当の宝物だ!多分。
偽物の金で作られていたとしても嬉しかった。
見た目がガラクタじゃないし。
「これはな、俺達だけが辿り着く事ができた幻の島で見つけたものだ。アリギュエール、お前にやるよ」
「ありがと。パパ、ぼくね。おおきくなったらパパみたいなぼうけんかなる!」