佐藤院家の食卓 ~やたら絡んでくる幼馴染で妻、愛情表現は家庭でさまざま
お待たせしましてすみません。
仕事の都合上、休日がばらばらであり残業続きでしたので時間がありませんでした。
そして、いきなりの佐藤院家…ヒロイン…主人公…
あ、まってっ。石投げないでっ。
そこは厳粛な雰囲気漂う空間。佐藤院家。
和の豪邸。
時刻は夕刻7時。
可能な限り、食事は家族皆で行うのがこの家のルールだ。
食卓には、楓の父、佐藤院清嗣。
楓の母、佐藤院棘そして楓の三人がいた。
そして、ケヤキの立派な座卓には棘の作った色とりどりの料理が並べられていた。
棘は料理研究家でもあり、栄養士の資格ももっていて
どの料理も一級品であり栄養面も申し分なく管理されている。
威厳を崩さない姿勢で清嗣は口をひらいた。
「楓、高校にはもう慣れたか?」
「ええ、お父様。雰囲気は悪くありませんし何より私が希望した高校ですもの」
「そうか、勉学も習い事もこれまで完璧にこなしてきたお前にとやかくいうつもりはないが
これまでどおり精進しなさい」
「はい、お父様」
清嗣は一拍おいて、食卓に並ぶ和料理を眺めたあとにやはり日本人たるもの味噌汁だろうと
心で思いながら丁寧な所作で漆塗りの紅いおわんを持ち上げ味噌汁をすする。
「ごぱぁッ!」
すすった瞬間の出来事だった。
清嗣は勢いよくむせてすすった味噌汁をまるで突如発動したスプリンクラーのように飛沫にしていた。
清嗣が1拍おいたのは覚悟だった。
「行儀が悪いですよ清嗣さん」
「お父様、お母様が丹精こめてつくった味噌汁ですよ。お母様に失礼です」
突然スプリンクラーした清嗣に一切の同様を見せず二人は食事を続けていた。
「………」
清嗣は考えていた。
どう切り抜けようかと。
棘にちらっと視線を向けるとこちらを 見ていた澄んだ漆黒の瞳と目が合った。
やわらかな笑みを浮かべて清嗣へ促す。
「清嗣さん お魚 おいしいですよ。清嗣さんのお魚にはいつもより、したごしらえに手間をかけて特別おいしく仕上がっているとおもいます」
今の間。お魚が妙に強調されて発音されていた。
だが、普通の人なら気づかないくらいのイントネーションであった。
長年連れ添っていた清嗣だからこそわかる棘の発音だ。
「それに、素材も新鮮なものを取り寄せて調理いたしましたの。清嗣さんの好きな味付けにもしてあります。」
「そうか……棘さんの料理にはいつも感心させられる。いつも俺の分は好みに味付けを変えてくれていて愛情を感じるよ、それに愛情は最高のスパイスにもなるという、いつも感謝しているよ棘さん」
「ふふ、清嗣さんは一家の大黒柱ですもの。常に体調には気をつけていただかないと。その管理もわたくしの勤めですし、それに毎日遅い時間までお仕事頑張っていただいていますしそれをねぎらうのも当然ですわ」
そう、今のはすさまじい愛だった。
清嗣は今日はまだ冷静を保てていた。
佐藤院家の大黒柱たるもの厳粛に静かに上品にだ。
だが、万事休すだ。
今の感じだと、あの『 お魚 』にもなにかがある。
清嗣は『お魚』をみつめていた。
『お魚』とみつめあっていた。
まだかろうじて厳粛を保つ清嗣。
『お魚』さんは安全なのかな。教えてくれ『お魚』さん。
「清嗣さん?せっかくできたてですのよ?さめてしまっては味が落ちてしまいます、私は一番おいしい瞬間を清嗣さんに味わってもらいたいです」
「そうか…では……」
覚悟をきめたそのときだった。
ぴりりりりりりっ
清嗣の携帯電話がなった。
清嗣は帰ってきたとき携帯を一旦棘にあずける。
これもまたルールなのだ。
結婚してから信頼の証としてお互いに秘密や隠し事はしてはいけないとなっている。
よって携帯電話はいつでも棘の目に付くところにある。
助かったとおもった。
「ほ……どうやら会社から電話のようだな」
「……ほ?とは?」
意図せず口から安堵の息が漏れていた。
これには清嗣もさすがにあせってしまう。
「ちょっとさっきむせた名残というかそんな感じでちょっとまたむせてしまったんだ、すまないね」
「会社からのお電話でしたらおきになさらず、そのまま出ていただいてかまいません。何か急を要するものかもしれませんし」
「そうだな、ちょっとはずす……よ?」
席を外し部屋の襖の反対側へでた。
手に取って画面をみると妻の名前が表示されていた。
「???」
「清嗣さん」
「うわぁっ」
これにはさすがの清嗣も姿勢を崩さずにはいられなかった。
完全に気を抜いたときのふいうちであった。
いつのまにか棘は清嗣の背後に静かにたっていた。
「ぽけっとの中にすまーとふぉんをいれっぱなしで画面が勝手にうごいて清嗣さんに発信してしまっていたみたいなの……ごめんなさいね?…うわぁ…ってかわいいわ…清嗣さん、ふふ」
「そ、そうだったのか…まあそんなこともあるだろう。では戻ろうか」
最後は妻の棘の声が小さくてよく聞き取れなかったが料理が冷めてしまうので足早に戻る事にする。
「ええ…清嗣さん」
再び戻ってきて『お魚』を口にした。
「!?」
少しさめてしまっていたが、おもわず顔がほころんでしまうほどの絶品に清嗣の口元が緩む。
少し間をおいて棘が口を開く。
「清嗣さん、会社、遅くなるならちゃんと連絡くださいね?
連絡がないと何かあったのではと心配してしまいます」
昨日、仕事上のトラブル対応により普段より遅くなってしまったが
急いでいたため棘への連絡を怠っていた。それが今日の最強に愛をこめられた特製料理を生み出してしまった理由だったのだ。
「棘さん、すまなかった。それと、お魚最高においしいよ」
「お味噌汁はどうでした?」
「最高に驚いたよ…今日のロシアンはお味噌汁だったんだね」
「でしょう、あなたに喜んでほしくて…」
「…喜んでいるのは君だろう、噴出した後僕の反応をみてわずかに口元が緩んでいたぞ」
「まあそんなにわたしのことをみつめていらっしゃったのね」
「君はいつでもうつくしいからつい見とれてしまう」
間髪いれずに清嗣にほめられた棘はそのままかたまってあかくなって黙ってしまった。
「……」
「なにか反応してくれ、急に照れられると困るよ棘さん」
「…」
「……」
正座していた座布団からゆっくり立ち上がると棘は清嗣の隣へ座りなおしてつぶやいた。
「清嗣さん…わたし…へんな女でごめんなさいね…?わたしはあなたを困らせてないと生きられないの」
少ししゅんとして隣から上目遣いで見上げてくる棘。
「……まったく、君には毎日困らされてばかりだ」
「しゅん」
ついには擬音語が口からでてきた。
厳かな雰囲気などもうどこにもない。
「でも悪くない、君が傍にいてくれると毎日楽しいんだ、一緒にいるだけで心がみたされる」
「はいわたしも…清嗣さん、ロシアン一発目であたったのでお願い聞いてくださいね」
「…棘さんのお願いならなんでも聞くよ」
「これからもずっと傍にいてください」
横から抱きしめてくる棘の頭をやさしくなでる清嗣。
そこにふと、ちょっと頬を膨らませて一言物申す楓。
「お母様、せっかくの料理が冷めてしまうからはやくお父様に召し上がってほしかったのではないのですか?」
仲睦まじい両親がうらやましく
完全に蚊帳の外な楓であった。
感想くれた方々に応援いただいている皆様、読んでくれてくれている皆様、ありがとうございます。
大変励みになります。
この作品がまさかこんなに反響がくるとは全く思っておらず
投稿した翌日くらいに日間ランキングにのってて作者驚愕しました。
日に日にブックマークと評価も増え、それが他人事のようにしかおもえず、でも自分の作品で…
正直なところ、一番最初に感じたのは「こわい」という感情でした。
気軽に投稿してしまった当作品ですがそのおかげでいろいろ考えさせられております。
もちろん「うれしい」という感情も8/2くらいの割合で含まれてます(どっちがどの割合かはいうまい)
3話目のあとがきでなに語ってんねんて感じなので
足早に切り上げたいと思います。
誤字脱字報告助かっております。
また、感想ですが、全部返せておらず申し訳ないです。
返していこうと思っていますがちょっとお時間いただくかもしれません。