未満からの昇格
大木先輩が私の周りにいだしてから2週間しないうちに、
いつの間にか、また和希君が一人で私の部屋に尋ねてくるようになった。
「最近、大木先輩と一緒じゃないんだね」
「大木と一緒の方がいい?」
ちょっとニヤッと笑いながら和希君が尋ねた。
「もちろん、そんなことないけど。最近ずっと一緒にいたからさ」
「あー・・・、うん、そうだね。けど、もう一緒じゃなくてもいいでしょ?」
「もちろん、一緒じゃなくていいよ」
というか、一緒じゃない方が良い、とは言えない。
「俺んちいると、大木来るし歩ちゃんの部屋がいい」
そう言って、人のベッドでゴロゴロしだした。
「ご飯、できたよ」
私の部屋が良い、大木先輩が来ない方が良いと言ってくれて
かなり嬉しくなっていても、それに対して何も言えずご飯の用意をする。
「ね、あゆみちゃんさ、俺の事好き?」
ご飯食べ終わって片付けているときにいきなり和希君が聞いてきた。
「嫌いだったら、一緒にいないよ」
っていうか、二人でいないよ。
「ちゃんと言って、俺の事好き?」
ちょっと真剣な言い方をしだす。
「もちろん、好きだよ。じゃないと、一緒に遊ばないって」
笑いかけながら言う。
真剣に告白しちゃいけない。それはダメな事だから。
「ね、あゆみちゃん。俺ね、ちゃんと歩ちゃんの事が好きなの。
だから、付き合ってほしいって思ってる。だから、歩ちゃん。
俺の事好き?」
急な真剣な告白に一瞬、戸惑ってしまう。
そして、腹が立ってきた。
「和希君、いいや、三浦先輩。それはダメでしょ?
私だって知ってる。三浦先輩には彼女がいる。田中さんという彼女がいるじゃないですか。
だから、いつも大木先輩も交えて遊んでいるわけでしょ?
彼女がまだ実家から帰ってきてないから一緒に遊んでるだけ。
私も好きです。けど、それがダメなのはわかってる」
まくしたてるように、和希君に言った。
和希君の彼女は、和希君と同じ部活の人で同じ年の人。
和希君と一緒のところも見たことあるし、田中さんのちょっとした噂も聞いたことがあった。
それは、思い込みが激しい事。
周囲が軽く引いてしまうほど、思い込みが激しい。
学科の単位を落とされたことに納得がいかずに、教授室に乗り込んで行ったことも
あったらしい。乗り込み方も丸腰ではなかったと聞いた。
嘘か本当は知らない。
けど、色々と噂の絶えない彼女であることは間違いない。
だから、もし別れ話などしたら何をするかわからないのだ。
そんな彼女がいることを知っていて私は一緒にいた。
キスもした。
和希君の事が好きだ。
けど、それ以上は踏み込んではいけない。
この関係を知っているのは大木先輩だけ。
大丈夫、まだ戻れる。
「・・・田中とは別れた。ちゃんと歩ちゃんと付き合いたいと思って」
和希君が、ちょっと間をおいて言った。
「・・・え?別れた?」
「うん、実はこの前、俺が一人でここに来なかったことあったでしょ?
あの時、大木が歩ちゃんの近くにいつもいたと思うんだけど」
「春休み明けで、バタバタしていたからでしょ?」
「違う。田中が戻ってきていたんだ。あいつは、もう単位もほぼ取っているから
就活としてほぼ実家に帰るから、ここにいることはないんだ。
けど、当然前期が始まったんだから、いくつかの授業と卒論の為にいったん戻ってきた」
和希君が一息つく。
「いろいろな噂を歩ちゃんも聞いたことがあると思う。全てが本当ではないにしても
近いものがあったのも事実。気性が激しく思い込みが強い。
田中とは付き合っていたと言うよりは、あいつの言動を俺が止めていたようなもの。
あいつは何故か俺の言う事だけは聞いたんだ」
それって、田中さんは和希君が好きだからの言動だと思ったが、口を挟まずに
和希君の話を聞いた。
「今回、来た時に話をした。あいつ、何をするかわからないから、大木が近くに
いてもらうようにもお願いしていた。部屋から出ないで、と言ったり一人でここに
来なくなったのは、そういう事。歩ちゃんが一人でいる事があまりないようにしてたんだ」
いつの間にか私は、周りの人に守られていたようだ。
「なんで言ってくれなかったの?」
聞いていたからって、どうすることも出来ないけれど・・・。
「田中が本当に行動しそうであれば勿論言うつもりだったよ。余計な心配もかけたくなかったし
何も起こらなかったら、田中だけが嫌な奴になってしまうから」
和希君が田中さんへの配慮だったのか。
「そっか・・・。」
それ以上の言葉はでない。
「・・・歩ちゃん、ちゃんと付き合ってもらえますか?」
もう一度、和希君が言ってくれた。
「よろしくお願いします。」
おいでの手招きをされて、和希君のところに行くと、ギュッと抱きしめられた。
「良かった。よろしくね」
二人の唇が重なった。




