バイト初日
和希君と別れた後、街をブラついいたら地元の友達の由美恵からメールが来た。
『帰ってきたら、またバイト頼みたいんだけど、どう?』
春に帰って来た時に、由美恵がバイトしていた居酒屋に私もヘルプでバイトに入った。
短かったが店長に気に入られて、由美恵がいない時でもバイトに入っていた。
お金はないよりあった方がいい。バイトも前のところだと状況は分かっているのでやりやすい。
『帰ってきてるから、いつでもバイトできるよ』
メールの返信をすると、直ぐに電話が来た。
「帰ってきてたんだ。申し訳ない、今日から来れる?夏になると途端に忙しくなって」
中庭もある居酒屋なので、外飲みも出来るから客は入るんだろう。
「大丈夫よ。5時からでいい?」
時間の確認をして、5時からバイトに行くことになった。
親と和希君にもメールで伝えた。
直ぐに和希君から返信が来た。
『本当は居酒屋は嫌だ。酔っ払いとか寄ってきそうだもん。けど、我慢する。頑張って』
酔っ払いもたくさんいるけれど、忙しくて相手になんかしてられない。
『心配してくれてありがとう。帰る時にはちゃんと連絡するからね』
左の薬指の指輪を見ながら和希君と約束をした。
「お疲れ様です。今日からまたよろしくお願いします」
4時30分ごろにはバイト先に到着し、制服をもらい準備した。
「あゆみちゃん、ごめんね急に。ありがとう」
店長さんが店の準備をしながら声を掛けてくれる。
「あゆみ、久しぶり」
由美恵も出勤しており、久しぶりの再会をはたした。
「最近どう?」
由美恵とはあまり連絡を取っていない。仲が悪いわけではなく、地元に帰ってくればほぼ毎日会うから、何かがあった時じゃなければ敢えて連絡もしない関係。由美恵に彼氏がいていつデートしているかわからないから、邪魔しないようにしているところもあるんだけれど。
「まぁまぁ。帰りにでも話すよ」
和希君の存在は、春に帰って来た時に伝えていたが、彼氏になったとか昨日の話とかは一切していないので、積もる話はたくさんある。
「私もあゆみに話したい事いっぱいあったんだよ」
手を動かしながらも話は弾む。
「はいはい、二人とも。開店するからね」
話をしているうちに5時半の開店時間になっていた。
オフィス街からもちかいこの居酒屋は、開店と同時に入ってくるお客様がいる。
「「はーい」」
久しぶりの接客に若干緊張しながらも、開店と同時に入ってきたお客様の対応にあたった。
「・・・疲れた・・・」
声も出ない位の疲れが出ている。もう、このままここで寝ていきたいくらい。
「ごめんね、急に来てもらって忙しい思いさせて」
そう言って、ジュースを店長さんが持ってきてくれた。
この居酒屋のいいところはソフトドリンクは飲み放題。
まぁ、飲むだけの時間は殆どないんだけど・・・。
「久しぶりで体がついていきませんでした」
店長を見上げながら自分の体力の無さに呆れてしまった。
「若いんだからそんなこと言わないで。明日もよろしくね」
笑顔で店長は片付けに入る。
私も由美恵も基本は接客対応。厨房まで食器類を下げれば終了だ。
「お疲れ様、帰っていいよ」
テーブル拭きも終わり、何とか着替えて帰る準備をする。
「ちょっと大丈夫?」
由美恵が心配してくれるが、何とか家にたどり着きたい。
「大丈夫。頑張って帰る」
電車からバスに乗り継がないと帰れない実家の遠さにうんざりしながらもなんとか家に着いた。
「ただいま」
声だけかけて、部屋に行く。
1日中動いていたので体がベトベト。
直ぐにシャワーを浴びて、ほっと一息。
携帯確認すると、和希君から何度もメールと電話が入っていた。
今の時間が23:30分。
電話よりもメールだな、そう思いメールを打つ。
『久しぶりのバイト、疲れました』
送信ボタンを押すと直ぐい電話が鳴る。
「もしもし 和希君?」
「こんなにバイトいつも遅いの?」
開口一番、若干不機嫌な声の和希君。
「まぁ、夏はお客も多いから春よりも忙しいからね」
「もっと早く終われないの?」
「それは無理だよ。まだ今日は平日だけど週末はもっと忙しいだろうし時間も遅いと思う」
「・・・、他のバイトに変えるつもりはない?」
「バイト代が良いのと、店長もいい人だし由美恵もいるからね。・・・ダメ?」
「・・・、ダメじゃないけど・・・。俺は就職先への挨拶とか日中に動くしあゆみは夕方からだから話をする時間が少ないのが嫌だと思って・・・」
確かにそうだ。
「朝とかちゃんと起きるようにするから、朝とかどう?あと、休憩時間も電話する」
お客の流れによって取れたり取れなかったりする休憩時間だが、少しでも声聞きたいし心配をかけさせたくない。
「・・・わかった。とりあえずやってみよう。けど、今日は疲れたんだろ?ゆっくり休んで。また明日の朝話そう」
確かに瞼はもうくっつきそうになっている。
「うん、ごめんね。おやすみなさい。」
「おやすみ、あゆみ」
電話が切れると同時に意識が遠のいた。




