気を付けて
和希君が座り直して、言った一言に一瞬ビックリする両親だったが
「本当にこんなんでいいん?っていうか、ちゃんと言ってくれてありがとう。ちゃんと娘の事考えてくれていると思うと嬉しいよ」
「本当にこんな娘でいいの?もう少しいい子もいるでしょうに・・・」
お父さんの言葉はありがたいが、お母さん、もうちょっと娘の事良い様に言えないかい?と
突っ込みを入れたくなるような二人の返事に和希君が
「あゆみちゃんが良いです」
と言ってくれた。
まぁ、実際に具体的な『結婚』話というよりはちゃんと『付き合っています』という宣言みたいなものではあったが、両親ともに安心した顔をした。
ちゃんと紹介できる相手であること自体は安心していたと思うが、彼かも挨拶があるのとでは印象も大きく違ったのだろう。
その後の宴会は本当に大いに盛り上がった。
翌日、和希君は両親と挨拶を済ませて、私は出かける理由を作り駅まで和希君の車で送ってもらうことにした。30分くらいで駅に着くが
「二日酔いになってない?」
「大丈夫。っていうか、昨日ので良かったのかな?」
ちょっと心配そうな顔をしている。
「大丈夫っていうか、安心したみたいだったよ」
そう言って、車のシフトノブを掴んでいる左手に自分の右手を重ねた。
和希君は手をひっくり返して私の手を握り返してくれた。
「これからよろしくね。で、実家とはいえ俺と離れるんだから気をつけてよ。変な男に引っかからないように」
ちょっと真剣な目で和希君が言ってきた。
「ないよ。大丈夫。指輪も外さないし」
左手を上げて和希君に見せると柔らかい笑顔をしてきた。
「ちょっと安心。毎日電話するからね」
「わかってる。私もするね。で、冬休みに和希君の実家に行けるようにバイトも頑張るよ」
実家からでも和希君の実家までは車でも5時間はかかる。
この夏休みは和希君が私の親に挨拶をして、実家には事前に私の事を伝えて冬休みに私が挨拶に行くことにしている。
「無理しなくていいから。お金はなんとなするし。俺がいない時に倒れられたりした方が心配だから」
「大丈夫。心配しないで。これでも健康なので」
和希君の心配顔をよそに、大丈夫であると笑って答える。
30分はあっという間。
目の前に駅のロータリーが見えてきた。
「和希君の方こそ、これから一人での運転だから気を付けてね。ちゃんと休憩取りながら行ってよ」
「わかってるよ。あゆみも気を付けてね」
車の中で頬に軽くキスをする。
車から降りて、和希君の車を見送った。
私たちは、『距離が離れる』の意味が分かっていなかったと思う。




