温泉
その後、大きな問題もなく、ものすごく平和に日々が過ぎて行った。
和希君の部屋に行ったり私の部屋に来たりとしていたが、
学校以外の時間は本当に一緒にいた。
私は部活にはほとんど顔を出すことをやめた。
三上先輩の事が許せなかったから。
時間がたっても、顔も見たくない気持ちは変わりなかったから。
「あゆみ、今日部活ないから出かけるか?」
「行く!どこ行く?」
「・・・温泉?」
田舎であるここは、車で1時間も走れば温泉街につくが、
まだ免許も持っていない私は行ったことがなかった。
「行きたい、行ったことない」
「あれ?そうだったの?なら、早く言えよ、もっと前に連れて行ってやったのに」
温泉街ではあるが、そこは学生。行くのは日帰り入浴。
けど、初めての場所はウキウキする。
それが、和希君と一緒ならなおの事。
「結構、山の中に行くんだね」
初めて行くところ、見るものすべてが楽しいはずだが、
見えるのは木ばかり。
「温泉だもん、そんな都会にはないでしょ?」
笑いながら和希君に言われて、確かにその通り、と頷く。
「けど、あゆみなら絶対誰かい連れて行ってもらってると思ってた」
確かに、大木先輩をはじめ仲のいい先輩たちとは和希君と知り合う前に
色々と連れて行ってもらった。けど、周囲の観光地が多く
ゆっくり、まったりするような所には行ったことがなかった。
「うーん、なんでだかわからないけれど1回もなかったよ」
「まあ、俺は嬉しいんだけどね」
笑顔で言い、ギュッと手を握ってきた。
初めていく日帰り温泉はとても大きいところで、
フロントの人を含めとても感じのいい人たちだった。
風呂上りにビール、と行きたいところだが車で来ている事もあり
懐かしの瓶コーラが売っていたので二人で飲んだ。
「ではでは、帰りますかね?」
汗は引いたが、温泉なので時間がたっても、体がポカポカしている。
「気持ちよかった。また来たいな」
「じゃぁ、また来よう」
車に乗りながら、和希君が約束してくれた。
車の中で他愛もない話をしていた時、フッと会話が途切れた。
「あゆみ、これからは温泉とかは俺意外と行っちゃだめね」
「?そもそも、和希君と以外行くわけないけど、なんで?」
「・・・、車の中がお前のシャンプーの匂いが充満していて、
この空間は俺以外の奴が嗅いだら、俺死ぬほど嫌だ」
ちょっと拗ねたような言い方をした。
「それって嫉妬?」
「そう。あゆみは俺の物。俺以外の人が触れたりするのも
本当は嫌。だから、大木と遊んでるときたまに大木がお前の頭
ぐちゃぐちゃにするの、すごく嫌なんだ」
いつも一緒にいる大木先輩に対してもそんなこと思っているとは考えてもみなかった。
「そうだったの?」
「だから、お前がいない時に大木に『睨むな』と言われたこともある」
「それに対してなんて言ったの?」
「・・・仕方ないだろ、って」
可愛いと思ってしまった。そして、嬉しかった。
「俺がなんで、お前を脱稿まで送迎しているかわかる?」
確かに、1限目があるときでも起きて送ってくれている。
というか、私を起こしてくれて、送ってくれる。
「私が遅刻しそうなぐらいいつも寝坊しているから?」
「アハハ!確かにそれもある。けど、域は別にしても帰りは俺が迎えに行かなかったら、
きっと誰かが送ってくれるだろ?それが嫌なんだ」
「そうだったの?」
ビックリだ。
全く気が付いていなかった。
「だからって、お前は友達と仲良くしてほしいし、
俺と一緒だからって気を使う必要はないからな。
そこまで俺は、心は狭くないから」
和希君はちゃんと私の事、考えてくれている。
本当に愛されてるな、
本当に愛しているな、
そう思った瞬間だった。




