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しったがために。

 彼がこの仕事を選んだのは偶然だった。求人誌を見ていた彼は給料の高さに惚れて応募した。しかし電話番号の最後の一桁が間違っていた。そのまま面接を受けた彼は希望とは違うものの、本来受けようと思っていたところよりも給料が高いので働いた。

 仕事内容は簡単なことだ。ボタンを押す、ただそれだけの事。指示が来たら手元にある赤いボタンを押すだけ。

 このボタン、隣の部屋に繋がっていて、押すと部屋にガスが流れる仕組みになっており動物を殺処分するために使う。要は死刑執行人というわけだが、彼はそれを知らない。指示が来たらただボタンを押すだけ。

一日八時間の労働時間の中で、ボタンを押すのは数十分に1~2度ほど。ボタンを押す以外には本を読んでいてもいいし携帯電話をいじっていてもいい。そんな生活があっという間に半年が過ぎようとしていた。

ふと、男は自分の本当の仕事を知ってしまった。それによって他の従業員の精神的負担が軽くなって有り難がられているのだと。もともと動物が好きな彼は自分がそんなことをしているのだと認識してしまったことで彼の中の何かが壊れた。何も言わずに涙や鼻水を垂らしながらその場を立ち去った彼は家へと帰った。

家に帰るなり何も知らない愛犬に飛びつくと押さえていた感情を爆発させるように大声で泣き、謝った。犬はどうしたの?とすり寄るも男は涙を流し続けた。

 男が仕事に行かなくなってから数日が経った。男は部屋からほとんど出ないまま酒に逃避し、飼い犬を撫でてはごめんよと泣くばかりである。

 さらに数日が経って仕事場から電話が入った。出ると、仕事に来ないのか?君の契約期間はまだ先だぞと上司らしき男から言われたが、男はあの仕事をもうやる気はなかった。そう伝えると上司は、そうか。とだけ言って電話を切った。一瞬なにか胸騒ぎのようなものを感じたが男には動く気力すら残っておらず、今日も酒と愛犬に依存する生活である。

 さらに数日が経ち彼は数人の男達にどこかへ連れて行かれた。どうやら契約違反による違約金がかなりあるらしく、そんなお金払えないと彼が言うと、連れてきた男の一人がそうかとだけいい、男達は部屋から出て行った。数秒後に部屋の隅からガスが出てきた。男はああ、俺は死ぬのかと思ったがもう何もできなかった。

 ボタンを押したのもまた金に釣られてやってきた若者だった。彼が動物を好きかどうかはわからない。            


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