都会という孤独の中で。
屋上の柵にもたれかかるようにして僕は空を見ていた。仕事の昼休みだけれど僕は昼飯も食べずにただボーっと空を眺めている。昔から人付き合いが苦手だった。この会社に入ってからも上司や後輩と仕事上の会話をする程度でそれ以上のコミュニケーションをとっていない。もちろん僕も望んでないし相手だってそう望んでるに違いない。
仕事が済んだら家に変えるために電車に乗る。家の最寄駅から5駅。実家のある田舎では一時間以上かかる距離だろけど都会では30分も電車に乗ればついてしまう。
電車から降りると家に向かって歩く。その途中でコンビニに寄った。僕の日課だ。このコンビニで自分の食事、それと少しのパンを買う。会計を済ませるとちょっと寄り道。公園へと行く。
僕の住んでいる町は比較的猫が多い。道端や塀の上、屋根の上などどこでもいる。猫を見かけない日はないほどだ。この街に着てすぐの頃に猫が多く集まる公園を見つけたのだ。そこに行って今日もベンチに座り猫にパンをやる。
「お前らはいいなあ。何も考えて無さそうだ。日がらゴロゴロと楽そうで。俺も猫だったらよかったな。」
夜に一人で猫に話しかける男。傍から見たら怪しい人物に見えているだろう。それでも職務質問を一回も受けたことがないのは幸運なのか、それとも警察も僕には興味がないのか。この猫と戯れている時間が僕の中では何より幸せな時間かもしれない。
ふらりと視界の端におばさんが見えた。髪には筒状のものを巻き、服は部屋着。近所のひとだろうか。僕は気にするそぶりを見せずにまた猫にパンを上げた。
「ねえ、アナタ、そこのアナタよ野良猫にパンなんかあげてどういうつもり?やめてちょうだい!毎晩鳴き声がうるさくてかなわないのよ。」
と、そのおばさんが枯れた声で僕に叫んだ。おいおい、近所迷惑はあなたの声だろ。
「はあ。」
「はあってあなた聞いてるの!禁止なのよ禁止!今度見かけたら警察に通報するわよ!」
「すいませんでした。」
わかればいいのよとそれだけ言うとおばさんは自身の正義を振りかざすだけ振りかざして去って行った。あの人の中では正しいことをした達成感に満ち溢れているだろうし、同じような考えを持つ主婦仲間からは称賛されるだろう。その代りと言ってはなんだが、そのおばさんの正義感のおかげで僕の安息の地はなくなったわけだ。
公園から出て重い足取りのまま家に帰ると、玄関のポストの中に髪が数枚入っていた。税金と電気代とガス代だ。その紙をとってため息をつく。
僕は適当にシャワーを浴びて布団に寝そべった。ああ、もう数時間もするとまたスーツを着て電車か。都会に出てきてしたくもない仕事をしてお金を払って生きていく。一人孤独の中で生きてくことは何が楽しいんだろう。僕は何のために生きてるんだろういや、考えるのをやめよう。楽しいことを考えよう。
猫になりたい。
シンと静まり返った部屋の中で電気の紐を引く音が二回。