夜は静寂
冬の夜はとても静かだ。車やバイクの走る音もしない。
アタシの耳に入る音は、まだ足跡一つと付いていない雪原に踏み入れるアタシ自身の足音か、時々電線や屋根に積もった雪がその自重に耐えきれなくなり無惨に地面へと落ちる音くらいだ。雪の夜は不思議と明るい。
何故にアタシがこんな雪の積もり、まだ少し雪の降る寒い日の夜。しかもお風呂に入った後のあったかい身体で外に出ているのかというと、冷蔵庫の中に飲み物が一本もなかったから。
深い雪の中を少し歩き、目的の自販機の前までたどり着くと、アタシはポケットから300円を取り出した。
200円と自販機へと投入して炭酸飲料のボタンを押すと、静寂の中によく響く鈍い音がして炭酸飲料が落ちてきたので、そのペットボトルとともにお釣りの50円を一緒に取り出した。
もう一本買うつもりだったから、手に持っていた150円を同じ自販機に投入した。
するとどうだろう。自販機は入れたお金を認知してはくれなかった。それどころか自販機の投入金額が表示されるべき画面には何も表示されず、さらにお金も出てこなかった。
え……。
食べられた……?
アタシのお金返せよ。
アタシは自販機を揺すったりしたけど、一向に入れたお金は出てこない。
あ。
お釣りのトリガーを引いてみると、すんなりと入れた150円は出てきた。
その後に何度も同じようにお金を入れてみたけど結果は変わらないまま。自販機はアタシの入れたお金を認知せず、アタシの事を嫌っているようだった。
諦めたアタシは、1本だけ出てきた炭酸飲料を持って他の自販機へと向かった。
今更ながら、まだ誰の足跡もついていない、まっさらで綺麗な新雪をアタシの足で踏むのはいささか罪悪感が芽生える気がしてやまない。
次の自販機に到着したアタシは150円を入れると、さっきとは打って変わってすんなりと入った。
そのお金でスポーツ飲料を買うと、家路へと足を運んだ。
家に帰る道でふと、こんな雪の夜に素敵な恋人と…、アイツと二人きりで手を繋いで歩けたらいいのにな。と、思って一人で歩いた。
歩き始めてすぐ、くしゃみが出た。それも三回連続で。ん…?くしゃみってなにかジンクスあったよね…。三回目はなんだったっけ……。