目
彼女が引きこもりを初めてもう半年ほどが経過した。学校もやめた。アルバイトはしていない。ただ、自室にこもってテレビを見るだとかゲームをするだとか、インターネットをするような、そんな堕落しきった生活を彼女はもう半年余り続けていた。
彼女の生活リズムは、本来あるべき昼型ではなく夜型になっていた。朝方まで起きていることも珍しくない。
そのせいで彼女の家族は冷えきっていた。もう一年ほど家族での食事どころかまともな会話さえしていないような状況だった。
こんなことになったのも、彼女の些細なウソから始まったものだった。
学校に行っていたころ、彼女はよく図書館を利用していた。本を読むことが好きなのだ。彼女には、どうしても欲しい本があった。しかしそれはどこの書店に行っても見つからなかった。わざわざ遠出をしてまで探しても、その本は見つけられなかった。
しかし、偶然にも彼女が探していた本は学校の図書館にあった。もちろん彼女はそれを借りて読んだ。前々から読みたかった本だけあって、すぐに気に入った。
だが彼女に魔が差したのは偶然か、それとも必然か。その本を気に入った彼女は、その本を返却したことにして自分の物にしてしまったのだ。
でも、その本がなくなったことはすぐに教師や図書委員の耳に入ることとなった。それで最後に借りていた彼女が真っ先に疑われたのだが、そこで彼女は嘘をついてしまった。私は盗んでいないと。しらを切ったがそんな嘘は通るはずもなく、泥棒呼ばわりされた彼女は次第にクラスの人からも、果ては教師からまでイジメにあった。
少し経って、今更本を返すとは言えず、そのまま引きこもってしまった。
それで現在に至る。
深夜。
彼女が何気なくテレビをつけてみると、見慣れない番組がやっていた。すごくハイテンションな、笑顔の張り付いた顔をしているレポーターが視界をしている番組のようだ。
しばらくその番組を見ていると、見慣れたビルがそこには映っていた。
「あれ…?このビルって…。」
『っさぁーーー今回やってきたのはこのビルです。日本有数の企業のビルということもあって楽しみですねぇぇぇぇぇぇ!』
「おとう……。」
その男が今から入ろうとしているビルは、彼女の父親が働いている会社のビルだった。子供のころ、社会見学で入ったことがあるのを彼女は覚えていた。
ダイジェストのような映像で会社の中に入って行く彼は、とうとう彼女の父親が働いている部署へと到着した。
数名が残業しているようで、そこの明かりは抑えられていたが数台のパソコンが点いているのが画面から見えた。
男はかなりテンションが上がっているようで、もうその顔は狂気に満ちていた。CMの後とてもすごいことが起こるというテロップだけを残してテレビ画面はCMへと移った。
そのCMも見たことがないくらい妙に暗いもので、精神を不安にさせた。でもなぜかそれは目をそらすことが出来なかった。
そのままテレビを見続けていると、CMは終わった。そしてテレビに映し出されたものを見て彼女は悲鳴を上げた。
そこに映し出されたものは彼女の父親の死体だった。
番組リポータは相変わらずのテンションで、その手にはナイフが握られており、血まみれれである。彼女の父親を殺すことを何のためらいも持たなかったその男は、そのままのテンションでカメラを見た。そして一言。
『見たね?見ちゃったね?』
男がにたりと笑うと、彼女の背筋は凍りついた。
テレビ画面はものすごい速さで移動をし始めた。それはまるで早送りでもしているかのように景色は変わっていった。
そしてカメラが映し出していく景色はどんどん彼女の見たことのある景色になって行き、最後には家の近くにまで来ていた。そのままレポーターがたどり着いたのは彼女の家の前だった。