足
「布団から足を出して寝ちゃいけないよ。」
昔からおばあちゃんにそう言われて生きてきた。もちろん足を出して寝たところで何があるわけでもないことは知っている。でも、夜、布団に入るたびにおばあちゃんの言葉が頭をよぎった。だからこの年まで律儀に寝る時は、布団の中に全身を納めるということを守ってきた。
だけどある夏の日。その日はやけに暑かった。窓を開けているにも関わらず暑さは、増していくばかりだ。部屋にクーラーはない。扇風機をつけてみるものの、それは気休めにもならない。どうしても耐えきれなくなったので、少しだけ、そう思って布団から足を出した。
足元をすう、っと通り抜ける風が心地よかった。
ああ、気持ちいいな。これで今夜は眠れる。と、思ったその時だった。
俺の足首を何かが掴んだ。それも強い力で。
俺は驚いて、出していた足を急いで布団の中へと戻した。感触が残っている。何かが足首をつかんだ感触が。
怖くなって頭まで布団をかぶって震えていたら、いつの間にか寝てしまっていたようだった。
朝になって、昨日の夜の事を思い出した。そっと、俺は自分の足首を見た。背筋が凍りついたよ。そこには誰かに掴まれたような跡が、くっきりと浮かび上がっていた。
その跡には指が六本あった。
俺は誰に、いや「何に」足を掴まれたんだろうか。