全裸の出会い
「ち、違うんだ! 話を聞いてくれ! 俺は決して怪しい者ではない、見てくれ! 武器なんか持ってないだろ!」
「黙れ変質者! 恥部をさらけ出して凝視しろなどと、発言が変態のソレではないか!!」
突然だが今俺は二人の男女に剣を向けられている。
1人はおかっぱ頭の目つきが悪い30代後半くらいの男。
面長で少し痩せ気味なのか頬骨が浮いている。
細身の体型ではあるが、しっかりと鍛えているらしく、獲物であるロングソードを
軽々と片手で扱っている。
もう1人は10代前半くらいの少女だ。
紅葉の様に綺麗な赤色の髪が肩まで伸びている。
ぱっと見た感じは愛らしい顔つきをしているが、眼つきは鋭く翡翠色の瞳が
こちらを捉えている。
男は厚めの刀身のロングソードなのに対して、少女の獲物は
彼女の体格に合わせているのか、レイピアのように細長い剣だ。
二人とも厚手の白いロングコートを羽織り、獅子と竜の紋章が入った胸当てを装備している。
分かりずらいが、動くたびに金属のこすれる音がするのでコートの中にも着込んでいるのだろう。
似た服装……おそらくは制服か何かだろうが、この二人組は同じ組織に属していると考えられる。
剣をこちらに向ける動きも堂に入っていて、特殊な訓練を受けた人間だと窺える。
なぜこのような状況になったのか……、それはほんの少しだけ前――。
俺は人を探して当てもなく彷徨っていた。(徒歩では時間が掛かりすぎる為、高速で移動できるスキル『疾風迅雷』を使用)
俺は野を駆け、山をいくつも超えた。
もしかしたらもうこの世界には人間が残っていないのかもしれない、そう諦めかけた時、
俺はこの二人組を見つけた。
俺は歓喜し、嬉しさのあまり一目散に駆け寄った。
自分が全裸であったことを忘れて……。
そう、全裸だったのだ。
『劫火爆炎』のスキルで周辺を焼き払ってしまった際、俺の身に着けていた
衣服は全て灰も残らず消失していた。
人間離れした速さで近寄ってくる全裸の俺を見て、
少女は悲鳴を上げ、男は剣を構えた。
そして、今に至る。
「貴様、名を名乗れ! どこの村の出身だ、何をしに来たのだ!!」
おかっぱ男は俺の喉に剣を近づけ威圧してくる。
赤髪の少女は髪以上に顔を赤らめて視線を泳がせていた。
先程は鋭いまなざしをこちらに向けていたと思ったが、男の裸体を凝視するのは
やはり恥ずかしかったのか歳相応の反応を見せていた。
「な、名前は“キース”。村は……え~っと、あっちの方角から」
どこから来たと言われても、この世界はもう俺の知っていたころと
地図も大きく変わっているだろう。
ひとまず自分が走ってきた方角を指さした。
すると二人はギョっとした表情に変わり、
「嘘をつくな! あちらは凶暴な魔獣と竜が住み着き、瘴気に汚染された危険区だ! 人間が住めるような場所ではない!」
おかっぱ男は唾が飛びそうな勢いで声を荒げる。
嘘と言われてもな……。
それに魔獣も竜もそんなもの俺は見ていない。
「す、数日前、この先の危険区で大規模な災害が確認されたのです。遠く離れた王都からも確認できるほどに巨大な火柱が天に昇る様を」
「未曽有の大災害だ! あれほどの規模の炎、もし魔獣か竜の仕業であれば、今後数え切れない犠牲者がでる」
少女が状況を説明してくれようとした所で、おかっぱ男が息を荒げた様子で話しに割って入ってきた。
「わ、私たち王国騎士団の団員なんです。
状況確認の為、騎士団の中でも速さに長けたスキルを扱える私たちが、
先行して偵察にきているんです」
おかっぱ男の割り込みにも怯まず、少女はさらに話を続けてくれた。
ひとまず、ざっくりではあるが状況は掴めた。
俺がいた近辺は魔獣が多く生息する地域だった。
今の時代の人間たちは危険区として、近づかないようにしていたが、
俺が『劫火爆炎』のスキルで消し飛ばしたことで、
何か良くないことが起こっているんじゃないかと、
様子を見に来た。
炎の原因が俺だとバレたら色々と面倒なことになるんだろうな。
「ひとまず、貴様には重要参考人として、王都まで同行してもらう」
「お、付いて行っていいのか? それは助かる」
やっと出会えた人間だ。
行き先が尋問室でも檻の中でも喜んで付いていくぜ。
閉じ込められても『透過』のスキルで抜け出せるし。
「あ、あの……ふ、服を」
「ああ、そうであったな。おい、貴様! ひとまずはこれを着ろ」
赤髪の少女は落ち着かない様子に気付いたおかっぱ男は
自分の羽織っていたコートを脱いで、
それを俺に着るように差し出してきた。
自慢じゃないが、鍛え上げられた俺の体躯におかっぱ男の服は
少し小さく、胸元が閉まらなかった。
だが、アレはちゃんと隠れた為
少女も落ち着いたのか、コホンと咳払いを1つして自己紹介を始めた。
「改めまして、私はミリオンス王国騎士団、第3師団所属の“リイヴス”です。“イヴ”とでも呼んでください」
「ふん……、妙な真似だけはするなよ“変質者”。貴様を同行させるのは怪しいからというのを忘れるな」
「アハハ……、彼の名は“ビエル”。同じ第3師団の先輩です。普段は騎士の鑑のような人なんですけどね」
ビエルは鼻を鳴らし、ツカツカと歩いていってしまったが、
イヴはこちらによろしくと手を差し出してきた。
俺は小さな少女のその手を握り返しこちらこそと応えた。