遅すぎた目覚め
――新しいスキルを手に入れました。
「……お、もう“一年”過ぎたのか」
俺は頭に響くスキル習得の声に思わずそんなことを呟く。
“スキル”とは神からの贈り物であり、神の創造した世界に対する権能である。
例えば、何もない場所に火や水を生み出したり、風を操り、雷を従わせる……、
本来あるべき法則、摂理を捻じ曲げ、意のままにすることのできる能力だ。
人は18歳の誕生日を迎えると、“最初”のスキルに目覚め、成人として扱われる。
最初……、と言うのは一度スキルを発現すると、以降も“毎年”新たにスキルが
得られるからだ。
成人後、人は神に与えられたスキルによっておおよその生き方が決まる。
農業に適したスキルを得た者は農民になるし、戦闘に適したスキルを得れば自国の兵士か傭兵だ。
最初のスキルが戦闘向きだった俺は当然のように冒険者になり、それなりに活躍して“いた”。
過去形なのは、現場を離れて久しいからだ。
俺が現場を離れた理由は2つある。
1つは、戦闘中に膝に矢を受け、今までのように戦えなくなってしまったから。
2つ目は、少し変わったスキルを手に入れたからだ。
そのスキルの名は『不老』――。
習得した時点の肉体年齢で成長がとまるというもので、
人類史上類を見ない珍しいものだ。
俺のこのスキルを聞きつけた国のお偉いがたは
俺に『不老』スキルの研究に協力するよう依頼してきた。
古今東西、人間は権力を持つと長生きしたくなるらしく、
俺のスキルは不老不死の足掛かりに成り得ると考えたらしい。
斯くして俺は、国の手厚い保護の元、実験動物に成り下がった。
でもまぁ、死と隣り合わせだった冒険者時代に比べて、簡単な治験だけで飯が出てくる
今の生活も悪くはない。
「んー……? そういえば最近飯を食った記憶がないな」
何もしないで飯がでてくる等といったが、考えてみれば
ここ数日、いや数年? 数十年? くらい食事をしてない気がする。
確かに俺の数あるスキルの中には『供給』というスキルもあり、栄養不足で倒れることはない。
だから食べなくても問題はないっちゃないのだが、食事くらいしか楽しみがないし、
そこんところはちゃんとしてもらわないと困る。
「しょうがない、直接受け取りにいくか……」
俺はベッドから降りて、一切扉の存在しないこの部屋から
『透過』のスキルを使って壁をすり抜けて外に出ようとする。
ちなみに部屋に扉も窓もないのは、俺を閉じ込めているわけではなく、
不老であっても不死ではない俺を、外的要因から守る為……らしい。
「おかしいな……いつもならすっ飛んでくるのに」
しかし、自由に出られるとはいえ、今まで俺が勝手に部屋の外に出ようとすれば、
監視している研究者たちが大慌てで駆けつけてきたものだ。
「いいのか~? 俺探し回る為にここから離れちゃうぞ~?」
返事はあまり期待していなかったが、とりあえず声だけかける。
…、……、………。
やはり、誰も駆けつけてはこなかった。
これでは食事の用意も依頼できない。
「もう出るからな~? 怒るなよ~?」
俺は白い壁に手を当て、『透過』を使う。
スッと体が壁に入り込むが、気にせず前に進む。
しばらく暗闇が続き、程なくして外側に辿り着いた。
そこで俺は驚愕の光景を目の当たりにする。
「……マジ?」
部屋の外は木々がうっそうと生い茂っており、
端的に言えば“廃墟”になっていた。