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面会

 ファミレスの店長にさんざん頭を下げて、ようやく解放された巨峰みやびはすぐにタクシーを呼び、如月あやめが運営しているという魔法少女専用の病院へと向かった。

 都心から離れた山間にポツリと建てられたその病院は、規模こそ決して大きくはないが最新鋭の医療魔術を完備している。

 ひよりのおかげで戦闘で負傷したことのないみやびには無縁の場所であったが、まさか自らが殺害した魔法少女を見舞いに行くために訪れることになるとは夢にも思わなかった。

 身元照会を終えて変身用ブローチ等の武器となりうるものをすべて病院側に預けると、芭蕉さちえの入院する病棟へと案内される。彼女は驚異的な治癒力ですでに危機的な状況から脱出しており、今では歩けるまでに回復しているため、すでに集中治療室から一般病棟に移っているという話だった。

 正直なところ、みやびは面会に行く気などさらさらなかった。

 そもそも面会に行った後に何を話していいのかまるで見当もつかないのだ。殺したことを謝る気などさらさらなかったし、かといってもう一度殺し直してやろうなどという気力もまるで湧いてこない。もしもさちえが全快し現役に戻るというのなら、さっさと自首して記憶を消してもらい一般市民に戻ろうかと思ったほどだ。

 しかし、本来ならまっ先にさちえの許に駆けつけたいはずのひよりから、独りで行きなさいと言われたとき、みやびは彼女から無言のメッセージを貰ったように思ったのだ。

 現実から逃げずに勇気を持って立ち向かいなさい――と。

 嫌なことから逃げ出すのは簡単だ。眼と耳を塞いで丸まってしまえばいい。

 しかし、みやびの短い人生の中で、今も昔もそんな恥知らずな真似をしたことは一度もない。そしてこれからもだ。今回の苦難は今までの人生の中で最大級のもので、もしかしたら先ほどのような醜態をまた晒すかもしれない。しかし、それでも目をそむけることだけはしない。彼女の決意はすでに固まっていた。

 看護師に案内されたのは一人用のこじんまりとした病室だった。重症患者とはいえ個室とはなかなかの高待遇だとみやびは思う。

 そこでは芭蕉さちえが、備えつけの簡素なベッドから上体だけを起こして暇そうに外の景色を眺めていた。

「あっ、みやびちゃん!」

 みやびの姿を見たさちえは一瞬驚いたような顔を見せると、すぐにいつものニコニコ顔に戻して、看護師に二人きりで話したいことがあるから外してもらえるよう頼んだ。

「ひよりんから話は聞いていたけど、まさか本当に見舞いに来るとは思わなかったわ。もしかしたらまた殺し直しにきたのかしらねえ?」

「あなたが望むならそうしてあげても構いませんわ」

 看護師がいなくなると、さちえはすぐに営業スマイルをやめて、蔑むような眼でみやびを出迎える。

 いつものことなのでみやびは気にも留めない。むしろいつも通りすぎて安心したぐらいだ。おかげでこちらも調子を取り戻せそうだ。

「悪の組織に寝返るような恥知らずな輩には、何度でも相応の報いを受けさせますよ」

「やれんのかよ。てめえごときの腕前でさあ」

「あの夜はあなたに追いつめられてつい、ひよりさんの魔力に頼ってしまいました。一生の不覚、あのような失態はもう二度と犯しません。もしもまたあなたが裏切ろうとしたら今度こそは正々堂々、私自身の力で真正面からあなたを叩きのめします。だから――」

 ――生きていて本当によかった。

 みやびがぼそりと呟くと、さちえは笑った。それは口の端を少しあげるだけの小さな笑みだったが、今まで彼女が見せた笑顔の中で、もっとも自然だと思えた。

「おまえこそ捕まってなくて本当によかったよ。万が一記憶抹消処分なんてことになったら願ったり叶ったりだろ。おまえは私が一生いじめ抜いてやる予定なんだからな」

「さちえさん、あなた私に何か言うことはありませんか?」

「は? ねえよ」

 さちえはきょとんとした顔でみやびに即答する。

 しかしみやびは大きく首を横に振る。

「あなたは私に伝えるべき事実があるはずです。それを聞かなければこちらも素直になれません」

「だからねえって……」

 ――あっ、そうか。

 さちえはみやびの言葉の意味にようやく気付くと途端に腹を抱えて笑い出す。

 笑いすぎて傷に障ったのか、痛がる素振りを見せるもすぐににやけ顔に戻り一言。

「ノワールに戻るなんて冗談に決まってるだろバーカ」

 たとえ冤罪を着せられようとさちえの居場所はここにしかない。

 その事実はみやびも気付いていたし、だからこそ最初から殺す気で戦っていたわけではなかったのだが、どうしても本人の口からその言葉を聞きたかった。

 期待通りの答えをもらって満足すると、みやびはそこで初めて深々と頭を下げ、さちえに手違いで殺してしまったことを謝罪した。

「みやび、その手首に巻いているものはなんだ?」

「これはひよりさんのハンカチですわ」

 みやびは腕をすっと前に差し出し無地のハンカチをさちえに見せつける。ひよりが事件現場で拾ったヘアピンを証拠品として包んでいたものだ。

「なんだ、怪我でもしたのか?」

「いえ、こうしているとひよりさんが傍にいるようで勇気が湧いてくるのです」

 ただのハンカチに何を求めてるんだと、さちえは呆れたように大きく肩をすくめる。

「だったら最初からひよりんと一緒に来ればよかったじゃねえか」

「そういう訳にはいきませんよ。あの女性はあの女性の闘いがあるのですから」

 今までどこかみやびをからかっている風だったさちえは、その時初めて真顔に戻って訊く。

「……なんとなく察してはいたけど、やっぱり行くのか?」

「行きますよきっと。世界を広げると言った以上は」

 みやびは窓の外に目を向けそう断言した。

「この街は、ひよりさんには狭すぎますから」

 眼下に広がる群羊の景色は絶景で、みやびたちには手に余るほど広大だった。

 しかしそれでもこれからは、彼女たちだけでこの景色を守り抜かねばならない。それが新たな闘いに赴くリーダーに対して、名ばかりのチームだったフルーティアーズが出来る最初で最後の共闘だった。

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