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プロローグ

魔法少女も社会人。

 仮面をつけた衛兵に両脇を固められ、少女は美しい紅緋色の髪をたなびかせながら、長く険しい回廊を延々と歩き続ける。吸い込まれそうなほどに深いコバルトブルーの双眸は、今はアイマスクにより覆い隠され、すらりと伸びた細腕には厳つい手錠がかけられていた。

「私は、いつまで歩かされるのでしょうか」

 少女の問いに衛兵は答えない。罪人に話しかけてはならないという規則でもあるのだろうと諦めかけた時、右隣の衛兵が少女に語りかけてきた。

「ひよりさん、我々の仕事がどのようなものかご承知でしょうか」

 少女――桜桃ひよりは神妙に頷く。

 愚問だった。自分の職業に対する理解など、この服装を見れば一目瞭然である。

 赤を基調とした派手なドレス。胸元には不自然なまでに大きなリボン。今は取り上げられているが魔法のスティッキだってちゃんと持っている。

 そう、ひよりの職業は『魔法少女』――愛と勇気と希望を以て悪の組織から民衆を守ることを生業としていた。

「魔法少女は常に人々にとって正義の象徴でなければなりません。よって罪を犯した場合、その責任は一般市民よりも遥かに重いものとなります」

 衛兵の言葉をひよりは無言で聞く。でも一度悪堕ちして戻ってきた魔法少女ってわりとあっさり許されてますよね、等とは口が裂けても言えない雰囲気だ。

「我々にこの国の法律は適用されません。たとえ未成年であっても、場合によっては死罪までありうると御覚悟ください」

 衛兵が立ち止まり、ひよりのアイマスクを外す。同時にスポットライトの眩い光が一斉に向けられた。

 魔法少女専用の特別尋問室――噂には聞いていたがもちろん入るのは初めてだ。部屋を暗くしているのは恐らく室内に施されたアンチマジックコーティングの術式を万が一にも解読されないためだろう。念の入ったことだとひよりは感心する。

「これより海岬ほたて殺害の件について尋問を始めます。ひよりさん……始める前に、何か質問等ございませんか」

 おそらくは女性のものだと思しき尋問者の加工された声が聞えてくる。音が反響してどこから聞えてきているのかまるでわからない。

「あの……ひとつだけ、質問があります」

 ここに来てひよりはようやく事の深刻さを認識することになる。

 ひよりは震える声で、それでも確実に確認しておかなければならない重要な案件について、まっ先に尋問者に訊ねた。

「小腹が空いたのですが、尋問が終わったらカツ丼は出ますか?」

「出ますよ。自費ですが」

 ――慈悲はなかった。

 ひよりはまるで世の終わりと言わんばかりに大きく肩を落とした。

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