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プロローグ

「行くぞ」

「……?」

「そこの一番ちっこいの、お前だ。一緒に来い」

「……えっ? あの……私ですか?」

「そうだ、お前より小さいのなんて他に誰がいる? それとも俺じゃ不服か?」

「いえっ……そ……そんなことは」

「ならとっとと来るんだ。旅支度が整っていなければ今日中に済ませろ。こうしている間も、多くの街が灯火トーチを待っていることを忘れるな」

 青年はぶっきらぼうに手を差し出すが、差し出された少女といえば、いつまでたってもその手を掴み返せずにいた。

 青年は数ある灯火の中から自分をパートナーとして選んでくれた。

 それはすなわち、二人で世界を旅することであり、少女が物心ついた時から望んでいたことだった。

 少女のみならず、灯火候補者にとって、灯火使いにパートナーとして選ばれることは喜ばしいことである。

 いくら能力があっても、制御する灯火使いと巡り合えなければ、一生ここに残ることになるのだ。

 だからこそ少女は、本当に自分で良いのだろうかと考えてしまう。

 両脇に、広間の端まで並んでいた灯火候補者の中には、少女よりも能力に秀でて、扱いやすい者だっているはずだ。


 都市から都市へ、街から街へ。

 その光が尽きるまで、長い時をかけて二人っきりで旅をする。

 もっと美人な子がいいはずだろうし、器量の良い子のほうが旅をする上でも重宝するだろう。

 自分はまだまだ胸も体のラインも出きっていないし、器用さのかけらも持ち合わせてはいない。

 きっと青年は私のことをからかっているのだと思うと、憤りを禁じえない。

 思えばこの青年は、いつも年齢の割に発育の遅い少女の体をネタにして怒らせるのだ。

 前の街でもそうだったし、その前の街でも……。

 嫌がっているというのに青年は少女の言葉に耳を傾けることなく、何度も言葉の暴力を投げかける。


(……これって、夢?)


 そう。少女は青年を知っていた。

 これは少女と青年が初めてであった時の風景――昔の出来事、すなわち夢だ。

 そう気づいた途端、周りの景色が崩れていく。

 見知っていた他の灯火たちは消えて、とある街で立ち寄った宿へ背景を変える。

「ルミエル……」

 少女の名前を青年が呟く。

「は、はい……いいっ! って、ウィルさんんッ!」

 ウィルと呼ばれた青年が、少女、ルミエルをベッドに押し倒す形でもたれ掛かる。

 両手首を押さえつけられ、身動き一つすらとれない。

 ウィルの端正な顔立ちが、普段はけしてこんな距離まで近づかない相貌が、鼓動の音が聞こえてしまいそうなくらいほど近くにあった。

「お前は……俺じゃ駄目か?」

「そ……それは。け、けどこんな突然……ってあああぁぁッ!」

「駄目だ。俺じゃなきゃ嫌だと言わせてやる……まずその口から頂くとしよう」

 問答無用だとばかりに、さらに迫るウィル。

 唇と唇が重なってしまう。

 これまで旅のパートナーという存在だったが、ついにその一線を越えてしまう。

 一体二人はどうなってしまうのか。この街で二人の旅は終わり、新たな人生を迎えることになるのだろうか。


「なんてキャー! ウィルさんちょっと待ってえぇぇ! まだ心の準備ができ……て……」

 薄暗い部屋の中に、煌々と真っ赤な光が差し込む。街の中心にそびえ立つ灯火台トーチだいに明かりが灯り、この街に"朝"が訪れたのだ。

 

「……あれ? なんで灯火台に明かり……が……」

 昨日、ウィルと街に到着した時には、灯火台の火は尽きていたはずで、一夜明かした今日、灯火台に灯りを灯す予定だったそこには、煌々と明かりが灯っている。

 首を傾げながら、明かりを頼りに、近くにあったはずの時計を探ると、時計の文字盤と窓から差し込む灯火台の明かりをたっぷり見比べる。

 そして何が起こっていたのか理解した後、ついさっきまで夢の中にいた少女、ルミエルは顔を真っ青にしてぼそりと呟いた。


「…………殺されちゃう」

 

 

 

 空から太陽が消えてから約百年。

 

 地上にいた生物たちは、地下に移り暮らしていた。

 これは、光なき地下の世界で灯りを配りながら旅をする、灯火トーチたちの物語。

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