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【詩集】Shangri-La

コスモスが咲いたから

作者: 野鶴善明

 それにしても秋の風

 ぼくの心を吹きぬける

 荷馬車はごろごろごっとん

 石畳の道を走ります

 ぴかりきらきら光るのは

 教会の十字架

 祈りの鐘が響きました

 気持ちのいい秋の風です


 人影もまばらな

 軽便鉄道のちいさな駅

 丸太を積んだ貨車が

 引き込み線でちょいとうたた寝

 陽射しを浴びてほほえむのは

 薄桃色のコスモスたち

 ホームの植えこみに仲良く並び

 ゆれるように

 さざめくように

 ぼくはきみの笑顔を思い浮かべ

 きみの髪に飾りたくなりました


 空は青

 空は秋

 丸くまるく

 どこまでも丸く

 気がかりも心配ごとも

 なんにもなくて

 きみがそばにいた頃は

 こんな気持ちでいたことを

 ふと思いだしたりして

 空よ

 深い空よ

 もっともっと

 まあるくなあれ


 ホームのはしからはしまで

 行ったりきたり

 時計の針はいつも意地悪

 楽しい時は

 あっというまに

 進んでしまって

 待っているあいだは

 のろのろかたつむり

 思い出へ戻りたくても

 逆さには進まない


  あの日ぼくたちは

  指切りをした

  コスモスの咲くころ

  またふたりになって

  いっしょに暮らそうと

  きみを待ったのは

  待ちたいから

  きみを信じたのは

  信じたいから

  きみを愛したのは

  愛したいから

  ぼくの大好きな人だから

  ただひとりの人だから


 それにしても秋の風

 運んでくるのは

 蒸気機関車の響き

 シュポシュポシュポポ

 シューポッポ

 黄色く色づいた畑のむこうに

 プチ機関車が現れます

 この日をどれだけ待っただろう

 日めくりカレンダーを

 どれだけちぎっただろう

 ぼくは胸がいっぱいになって

  きみが帰ってくる

   きみが帰ってくる

    きみが帰ってくる


 車輪がゆっくりになって

 汽車はホームにとまります

 山羊を乗せた屋根付き貨車

 マッチ箱みたいな短い客車

 機関車は湯気を吐いて一休み

 運転手のおじさんも

 パイプをくわえて一休み

 籠を背負った行商のおばさん

 シルクハットを

 かぶったおじいさん

 灰色の僧服を着たシスター

 みんなぞろぞろ降りてきます


 きみはどこ?

 すこしあせったとき

 なつかしい声が

 ぼくを呼びとめます

 クリーム色のつばひろの帽子

 丸襟のブラウス

 胸のふくらみ

 この町を出て行ったときと

 おんなじほほえみ

 右のえくぼもあの日のまま

 ぼくは息がとまって

 きみをただ見つめました

 おかえりなさい

 こんなところで

 抱きしめてもいいのかな


 それにしても秋の風

 ぼくの心を吹きぬける

 それにしても恋の風

 ぼくの心を吹きぬけた



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