表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

迎え

 メローラは松明をかざしてやりながら、道案内の後ろを歩く。

 そろそろ、追っ手が来てもおかしくない。一人消えたとなれば、下手人はおのずと分かるはずだ。いや、最初から考慮のうちかもしれない。

「おい、もっと早く歩けよ」

 案内役は心なしか足を速めた。

 しばらくするとふらふらしだした。

 また休憩するか。

 当然だ。両腕がやられた状態で長い間歩いてきたのだ。

「休憩するか」

 そうメローラが言った矢先、案内役のアルは崩れ落ち、その場に倒れこんだ。

 メローラは激しく舌打ちをした。

「おい!」

 メローラはアルを足蹴にする。

 剣と松明を手に握っていたし、彼女には彼に対して遠慮など持ち合わせていなかったのだ。

 だが、アルは気を失っているらしかった。

 これはまずい。

 こいつが起きるのを待っていたら、追っ手に追いつかれてしまう。

 思い切り足蹴にする。

 アルはひっくり返るも、目を開けようとしない。

「くそっ」

 メローラは周囲を見回す。

 松明をその辺の壁に立てかけ、懐から布袋を取り出し、洞窟内で滴り落ちる水滴をため始めた。

 充分溜まったのを見計らい、それをアルの顔にぶっかけた。

 アルは身体全体を震わせ顔を覆ったかと思うと、すくっと起き上がった。

「……」

 アルは視界にメローラを見つけ、視線を向けてきた。

「早く起きろ」

 アルはよろよろと立ち上がる。頭を抱えた。

「もう充分寝たんだから、案内してもらう」

「はい……」

 まだぼーっとしているのか、返事も空ろだ。

 2人はまた歩き出した。

「あとどれくらいだ」

 アルは振り返らずに答える。

「……、もうだいだい進みました。あと少しですかね」

「曖昧な答え」

 メローラは笑った。

 洞窟内は風は無いが冷えていた。

 早くこんな場所おさらばして日の光を浴びたいところだ。

後方から靴音の何重奏が響いてきた。だんだんとそれは近づいてきていた。

 メローラは笑った。

「お迎えよ」

 アルは思わず顔をほころばせていた。

「おめでとう」

 メローラは言った。

「とりあえず、先に進みなさいな」

 彼女がそう促すと、アルは先へ歩みを進める。

「あとどれくらい?」

「……間に合いますまい」とアル。

「……残念ね。ご苦労様」

 メローラは剣の柄を強く握った。

「待て!」

 声がした。

 振り返ると、10人程の兵が松明を持って2人を見ていた。

 兵達は剣を抜く。

「剣を下ろせ!」

「あはははは!」

 メローラは走り出した。

「待て、追え!」

 兵達が走り出す。

 呆然としているアルを横切り、兵達が逃げた彼女を追った。

 


 メローラを追いかける兵士達は、怒号を上げながら追いかけてくる。

「そんなに大声上げたら、体力持たないわよ!」

 メローラは笑う。

「待て!」

「逃げられると思うな!」

「止まれ!」

 兵達は口々に言った。

 野で山賊をやっていた彼女は思いのほか俊敏で体力もあった。兵士達は鎧を着ているし、10人という人数には洞窟は狭かった。

 だが、とうとう追いつく時が来た。

 メローラが足を止めくるりと振り返る。

「っはははは、ここまでね」

 兵士達は追いついて停止した。

 メローラはにやにやしていた。

「観念したか!」

「大人しく捕まれ!」

「大人しくするよ、もちろんね」

 メローラが言うと、彼女の背後から足音と鎧の擦れる音が聞こえてきた。

 今度こそ兵士達は身体を停止させた。

「立ち去れ!」

 向こう側からやってきた兵の一人が語気強く言った。他よりも豪勢な鎧を着ている彼は、覇気を漲らせ、周囲を圧倒する雰囲気を醸し出していた。

「ジャイル!」

 叫んだのは『影の王宮』側の兵士だった。

 ジャイルは、ほうと言った。

「俺の名を知っているとは話が早い。さっさと立ち去れ。この姫はこちらで預かる」

「おのれ!」

 ジャイルの兵は弓を構えている。

「お前らが何者か知らぬが、俺の邪魔をする気なら、容赦はしない」

 兵士達の顔は憤怒に代わっていった。

「ジャイル!お主の様な奸臣はいずれ後悔する事になる。我らが主の前でな」

「射て!」

 ジャイルが叫んだ。

 矢が一斉に放たれ、兵士達を次々となぎ倒していった。

「……影の王宮……ばんざい……」

 事切れる前に彼らはそう言った。



「お助け頂き、感謝の限り。なんとお礼を言って良いか……」

 メローラは歩きながら言った。

「よくもまあ、無事だったな」

 ジャイルは素っ気無かった。

「ジャイル殿御自らとは、恐縮の至りにございます。わたくしの事など放って置いてもよかったでしょうに」

「王にお主を謁見させると約束した。それを守らねば不忠になる」

 彼は淡々と答えた。

「どうやって逃げてきた」

「隙を見てでございます、走っては隠れ、走っては隠れ、苦労致しました」

「そうか」

 外に出た。

 メローラにはひさびさの太陽の光だった。眩しさにまだ目も身体も面食らっていた。

 出口で待っていたホイルが主君に一礼した。

「では、参るとしよう。時間もない」

 ジャイルは馬に跨った。

 メローラは馬車に連れて行かれ、座席に座らされる。

 一行は再び王都へ向かって出発した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ