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案内役

「メローラは洞窟の中での垂れ死ぬだろう。だが、万が一戻ってこないとも限らない。警戒を怠るな」というのがバスターク様の命だった。

『影の王宮』への入り口を警備するアルは、交代の時間が来たので入り口に立った。

もう丸1日彼女は現れていない。バスターク様の杞憂に過ぎなかったのだろう。彼女はただ単に洞窟内で迷い、死ぬであろう。光も無い漆黒の道を抜けられるはずがないのだ。

思わずあくびをした。

 退屈な任務だ。だが気楽でもあった。

 後ろの方で、物音がした。

 アルは振り返る。洞窟の中だ。何か小石が落ちたかのような音だった。

「気のせいか」

 と思いつつ、確認に向かう。

 彼は完全に油断していた。

 ここで応援を呼べば良かったのだ。

 松明をかざす。

「何だ、これが落ちてきたのか」

 掌大の意思が地面に転がっていた。

 次の瞬間、彼の視界は暗転した。



 気がつくと、地面に横になっていた。

「やっと起きたね」

 笑う女の声。

「ここは!」

 アルは起き上がる。

 懐を探ると、剣が無い。

 それは女の手にあった。

「死にたくなかったら、案内しろ」

 アルは立ち上がる。

 彼は首を振る。

「命に背く事は出来ない」

 剣が無くても遣り合えるはずだ。奪い返せば良い。

 松明と剣を握った姫は首を振る。

「諦めなよ。無茶は言わない。黒焦げになって死にたい?それとも剣でバラバラにされたい?」

「そうすれば、お前は路頭に迷う事になる。お前はここから出られない」

 アルは語気強く言った。

 目印の鍾乳石を見る。だいたいの場所は見当がついている。

 相手は元姫だ。剣も使い慣れていないだろう。

「大人しく剣を渡せ」

 アルはつとめて冷静に言った。相手に主導権を握られてはならない。 

姫は剣をかざした。

「分かった。返すよ」

 矢のように飛んできたのは剣だった。と気づく前に彼の右腕は剣に貫かれていた。

「…………!!」

 アルはよろめく。

「抜いてあげるよ」

 姫が近づき、あっという間に抜き取った。血が吹き出る。

「ぐわあっ」

 そして蹴り倒された。

 左腕が踏みつけられ、剣は突き立てられる。

 鈍い音が洞窟内にこだました。

 ゆっくりと抜かれる。

「止血してあげるよ」

 姫が笑いながら、松明をちらりと見る。

 アルはもう、抵抗の意思も忘れ、ただ怯えていた。


 2人は洞窟内を進んでいった。 

 松明と剣を構えたメローラが後ろを歩き、遣い物にならない両手をだらんと下げて前を歩くのはアルであった。

「正しい道なんだろうな?」

 メローラは言った。

「は、はい!」

「もし、違う道を行ってたら、八つ裂きにしてやる」

 洞窟内は、暗闇そのものだが、何もないわけではない。水が流れている箇所もあり、そこで水分補給は出来た。

 メローラはアルに水を飲ませてやった。

「案内役が倒れたらかなわないもんね」

 メローラは笑っていたが、アルには生きた心地がしなかった。

 しばらく歩いた。水休憩以外はずっと歩き通しだった。

 メローラは後ろをよく気にしていた。

 きっと助けがくるだろう。アルはそう信じていたが、メローラもそれを警戒していたのだろう。



 

 見張りをしていたアルが行方知れずになったとの報告がバスタークに届いたのはしばし後であった。

 バスタークは声を上げて笑った。

「やはりあの姫は御しがたいの。探索隊を出せ。30人くらいな」

「はっ」

 ルキは跪いて答えた。

 そして即座に命を下した。

「兵を30人集めろ。アルを捜索する!」

「それにしても」

 とバスターク。

「探索隊を出すのはもう数日の後だと思っていたが。それもあの姫の探索隊をな。だが、予定が早まったな」

「そうでございますね」

 ルキはコハの事を思い浮かべた。あの傷は生涯残るであろう。少々哀れに思ったが、今はすべき事がある。

 探索隊が洞窟内に次々と突入していった。洞窟はいくつも分岐して、光が差し込まない。 

 捜索は困難を極めると思われた。

「姫は恐らくアルを案内役にさせている。正しい道にいる可能性が高い」とのルキの指示がなければ、捜索は無謀であったかもしれない。


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