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バスターク新王

「今こそ好機です!オポティウスを王座から追放するのです!」

 ルキは訴え出た。

 他の誰にも聞かれぬよう、深夜の事である。

 彼女は、懇願しているといってもよかった。

「バスターク様こそ先王の嫡子、故に王に最もふさわしいお方。豪族や領主連中も従うはず!」

 バスタークは腕組をして、黙っていた。

「バスターク様!」

 ジャイル・ブックスの軍は今にも王都ドルレスへ迫っている。

 都では、浮き足立った雰囲気が支配的だった。

 蜂起の首謀者ザイターは、爪を噛み、歩き回っていた。

「何故味方する者がおらん!」

「何度も言うが、王を戴いておらんからだ」とウワンが呟いた。

「オポティウス様は、ご病気になられた。それでよろしうござろう」

「もはや止むなしか」

 ザイターは呟いた。

 彼がバスタークのもとへ出向いたのは昼過ぎである。

「事は一刻を争います。バスターク様にあらせられましては、玉座にて、我らの指揮を!」

 バスタークは重々しく考え込んだ。

「バスターク様!」

 ルキが訴え出た。

「長年の悲願がそこにあるのです!なのにどうして!?」

 場の者は皆、バスタークの答えを待っていた。

 沈黙が流れる。

 バスタークは目を閉じ、身じろぎもしなかった。

 しばし後、目を見開き、口を開けた。

「オポティウスを引き摺り下ろす!」



 ザイターやバスタークの手の者が、オポティウスの匿われている後宮に流れ込んだのはその夜であった。

「何事ですか!?」

 オポティウス王の寵姫、エルが寝巻きのまま飛び出、ザイターを語気強く迫った。

「大義の為です。どうぞご了承を」

「大義ですって!?」

「エル様はここにお留まりいただき、沙汰をお待ち下され」

 兵士達に連れられ、同じく寝巻きだった国王が歩み出てきた。白い絹の服で、単調ながらもその高質さが伺われた。

 オポティウス王はにやりと笑った。

「お主らの方が早かったか」

「ご無礼をお許し下さい」

 国王が声のした方を向くと、彼は脂ぎった口をあんぐり開け、固まってしまった。

「兄上……」

 バスタークは跪いた。

「陛下、これまで国政に携わり、国を背負われたご苦労、痛み入ります。これよりはわたくしが……」

 どこか皮肉めいた口調だった。

「よいのですか……?それで……。兄上……」

 オポティウスの声は震えていた。

 ザイターも跪き、割って入った。

「どうぞ、ご譲位を」

「断れば……?」

 ザイターは顔を上げた。

「わたくしの口からは、申し上げにくう存じます」

「そうか、ならば致し方なし」

「陛下!」

 エルが叫んだ。

「エル。これでよいのじゃ。わしが刃向かえば、お主もただでは済まんぞ」

「カレンティウスはどうなるのですか!?」

 エルは、王と彼女の子供の名を叫んだ。

「わかっておるエル。ザイターよ。譲位には譲位の議を行わねばならん。だが、今や戦乱故、領主共も出席する暇はない。事が済み次第、盛大に執り行おうぞ」

「はっ。ご理解感謝の至り」

 ザイターは本気で感激したかのように声を震わせた。

「カレンティウスの身も保証してくれるよの」

「無論に存じます。バスターク様」

 ザイターがバスタークを見る。

 バスタークは頷いた。

 王の横で、エルがすすり泣いている。


 バスタークとザイルら反ジャイル派は早速、王の間に集結した。

 バスタークが淡々と玉座に座ると、歓呼が上がった。

「新王陛下ばんざい!」

「バスターク王ばんざい!」

 反ジャイル派の領主や官人達は口々に叫ぶ。

「おめでとう存じます……」

 ルキが号泣しながら呟いた。

 我ながら見っともないと思い、すぐに広間から出た。

 バスタークが立ち上がる。

「イチデン国の為、立ち上がろう。新たな秩序を為さんが為に!今ジャイル・ブックスの軍勢が王都に迫っておる。先王の御世に、我が物顔で国政を壟断した奸臣を、我らの手で討ち取り、かつての威光を取り戻すのだ!」

 広間は異様な熱気に包まれていた。

 それが虚勢によるものなのかは定かではない。



 ジャイル軍をどう迎え討つのか。打って出るかそれとも篭城か。

「篭城であろう」

 オポティウスは庭の花を愛でながら言った。

「何故です」

 エルは息子のカレンティウスをその手に引きながら訊いた。

「わしの決断を待っておったザイター達は遅きに失した。篭城しておいおい味方を募るしかあるまい。新王の威光をもってしてな。それに」

 彼はにやりと笑った。

 脂ぎってぶくぶくと肉のついた愚鈍そのものの顔が、時たまこうして鋭く目を光らすのだ。

「もしやナツルと気脈を通じておったのやもしれん。バスターク兄上がおるのがその証左よ。ナツルがザイターらに望むのは時間稼ぎであろう。ジャイルを討ち取るに越したことはないが、時を稼がせ包囲網を突き崩すのだ」

「成る程」

 エルは頷いた。

「陛下はジャイルとザイターどちらに勝って欲しいのですか?」

 事も無げに彼女は訊いたつもりだったが。

「此度のナツル包囲網、わしは成功して欲しいものだの。プリズル征伐が何故大義を得たか」

「ナツル王家のメローラ姫がおられたから」

「そうじゃ。プリズルが大義を失ったのは王家を誅したからだ。言ってしまえばナツルもそしてイチデンも、ここ一帯の周辺国の王家は全て、古き王家の血筋じゃ。それを殺したとあらば討伐される、と、天下に示すことが出来れば、我らや我らの子孫が殺される事もなくなるかもしれんのだ」

「陛下……」

 エルは感嘆したように彼女の息子の父親を見た。



 ジャイル軍が王都を囲んだのは、その数日後、霧に満ちた朝方だった。

 民達は王都の中心部や寺院などに逃げ、兵士達は臨戦態勢に入る。

 攻城軍は太鼓を激しく打ち鳴らし、まずは威圧を開始した。


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