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近づく戦の足音

 メローラお付きの侍女となったアシャは、緊張した面持ちでメローラに拝謁した。

「この度、姫様専属で身の回りの世話をさせて頂きますアシャと申します」

「そう、よろしくねアシャ」

 メローラは微笑んだ。

 なかなか純朴そうで、好感が持てるではないか。メローラは思った。

「どこの生まれ?」

「アシ村です。アシ村のアシャ……と呼ばれております。もとはしがない村娘で……」

 メローラの聞いた事もない村だった。

 貴人の侍女は、それなりに高貴な生まれでなくてはならなかったか。

「あなたはどうして、ジャイルのもとにいるの?」

 単刀直入にも程があると思ったが。

「わたくしの村は、貧乏で、ジャイル様のもとなら、皆の為になれると」

 アシャは苦笑した。

「ふうん」

 メローラは頷いた。

「ようはジャイルの妾という訳?」

「違います!」

 アシャは語気強く答えた。

「あ、申し訳ございません!」

「いいのよ続けて」

「当初はそのつもりでしたが、ジャイル様は側用人としてわたくしをお置き下さりました……」

「つまり、あなたを気に入らなかった、という訳」

 メローラは笑った。

 侮辱されたアシャは顔を赤らめた。

「ジャイル様は……、ご結婚もまだですし、正室も妾すらおられません」

 メローラもその事は知っていたが、改めて変な奴だと思った。

「男色の気でもあるのかしら」

「さあ、でも、いずれどなたかを娶らなければなりませぬ」

「正妻目指して頑張りな。あたしも応援するから。何か手伝って欲しい事ある?」

「け、結構です!」

 アシャは語気強く言った。だがすぐに無礼だと思ったのか「ご無礼をお許し下さい」と頭を下げてきた。

「いいのよ別に」

 メローラは素っ気無く応じた。

「とりあえず、まずして欲しい事があるんだけど」

 


「アシャはどうだ。ちゃんとやってるか」とジャイルは言った。

「働き者よね」

 メローラは差し出された茶をすする。

 ジャイルを見る。

「彼女、あなたの女になりたくて、ついて来たらしいじゃない」

 ジャイルは鼻を鳴らした。

「自分の為か、一族の為か知らんが、それに俺が付き合ってやる道理はない」

「あたしも似たようなもので、あなたを頼ってる。似たもの同士よね」

 メローラは含み笑いをした。

「他の者達からしたら、そんな理由で主君のもとにやって来た女など、気に食わないわよね。ことにそんな女と肩を並べて寝食を共にすれば……」

「何が言いたい」

 ジャイルはぎろりと睨みつけて来た。

「言いたいのはそれだけよ」

 メローラは居住まいを正した。

「ところで、ナツルの動向は?」

「国境に兵を集めている。近々戦だな。こちらが動かなくとも包囲網を形成した他国が攻めるかもしれんし、ナツルが先制を仕掛けてくるかもしれん」

「どうして、さっさと挙兵しないの?」

「今準備はしている。だが、まだ話を詰めていなくてな。ナツル国を平らげた際、レトキやワスクと、取り分をどうするか?」

 レトキ王国、ワスク王国は、共にナツル包囲網を築く国であり、今や同盟関係にすらあった。ナツルへの宣戦布告の際、協力を申し出てきたのだ。

「まあ、こちらから協力を要請したのだから、どう分割するかは話し合いで決める。そうでなければナツルを滅ぼした後その2国とも戦になってしまう。それをレトキもワスクも避けたかろう」

 まずは通商を断ち、ナツルへの圧力を高める。それで暴発すればそれ幸いに包囲網国家軍から大群が流れ込むであろう。そうでなくてもジリ貧になり、篭城を決め込んでも手遅れになろう。いざ攻め込む時、豪族共を切り崩し易くなる。

「お前、それで本当に文句はないのか?」

「文句があっても聞かないでしょ」

 メローラはふんと言った。

「あたしはナツル王国が滅べばどうしようと構わない。ただ……、1つ望みはある」

 ジャイルは茶を口に運ぼうとして止めた。

「言ってみろ」

「ナタラールが火の海になる様を見たい。全てが焼き払われ、王宮も、家も、人も、馬も、全てが焼き尽くされ灰と化す。その様を……」

 メローラは茶をすする。

 ジャイルはじっと彼女を見つめて、何も言わなかった。



 その夜、一大事件が起きた。イチデン王国の王都ドルレスに侵入していた刺客による犯行であった。

 皆寝静まった夜半、見張りの兵の背後から首を掻き切る黒い影が現れ、幾人かの仲間を引き入れた。他の見張りの目を盗みながら、新月の暗闇を進んでいく。

 ジャイル・ブックスの屋敷に彼らはあった。


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