〜ロストハートSomebody surely lights up the darkness of the mind〜
人は生まれながらに何らかの形で何処かに属している、いや人として形を形成する前の段階でそれは決められている。
精細胞と卵細胞の段階で遺伝情報を組み込まれそれらが結合することにより起こる人間誕生はある種その生まれながらに何処かに属すると言うことを証明している一つの材料だ、妬み、憎しみ、嫌悪、差別、独占欲、恋愛における独占欲、浮気、中途半端な関係、これによる葛藤、性欲、蔓延する性病、ウィルス感染、細菌感染、戦争や自然災害、病、これらに人々は苦しみ続けている。これらは遺伝情報の中に発生する要因が組み込まれている。
属するとはいわばある種の呪縛だ。
この属するという性質により人は苦しみ続けている現実があるからだ。
国家、宗教、学問、あるいは人種や家族などこれら大小のコミュニティは互いの価値観や文化を尊重することはせず時に否定的な考えをもちそれを排除しようとする。
これらの価値観や文化等はコミュニティに帰属しているためコミュニティ間の争いが絶えたことはこの世界の歴史上存在していない。なぜ手を取り合わない?なぜ互いを認めることができない?。俺はこの属するということの呪縛から解放されると同時に一つの独立した何かになりたいと願いそれを成就するべく行動を起こすことに決めたのだ。
国や宗教あるいは家族や友人、恋人などは実に愚かだ枠組みの中で迷い続けている者たちがさらにコミュニティを作り出してゆく、結果これらから生み出された大きな枠組みのなかで生きるものたちが諸々の価値観を持ち互いが独自に発展していった結末がこの世界だ、そしてこの世界に生き続け生命活動を営んでいる人間はは皆何処かの枠組みの中で生きているものたちだ、ならば枠組みの概念を消す必要がある。
俺はこの腐った世界から決別されたい、新たな存在として何処かに属することなく俺の存在が生まれてきたことにしたい。そうすることで世界も俺もある種多くの苦しみから解放される。
「さあ、始めよう神の行なった全てを否定すべく、7日の時を持って世界を新たに、そして俺は新たな…」
第1章【終焉の幕開け】
第1話
シンプルなワンポイントの入った白のTシャツに薄手で淡い青色の七分袖を羽織りベージュ色のパンツという格好はじめじめした梅雨の明けきらない7月をのりきるには充分な格好だった。水平線に沈んでいく太陽に目を向け、黄昏ていた神凪 斎はふと携帯の画面に表示されたメッセージアプリの通知に気づいた。
LINE 1分前
司令官が画像を送信しました
スライドしてアプリを開くとそこには、
クロード=ケネフィト総司令官が家族と遊園地の門の前で撮った写真を送ってきていた、
幸せそうに、奥さんと子供の間に立ち肩に手をのせて写っている写真と
「君の言うとおり、家族と触れ合える時間を作って良かったよ。ありがとう。」
とメッセージを載せらていた。
斎は無表情の視線でそれを捉え、
「いえ、明日からの業務頑張ってください」
と一言返した。
意外にも返信はすぐに届いた。
「もちろんだ、君もたまには羽を伸ばしてはどうだ?」
それに対し
「考えておきます、でわ」
と返す。これ以上は会話は無意味と判断し
「でわ」の一言を付け加えたのだろう。
「考えておきますか、まあ君のことだどうせ楽しみかたも知らないのだろう?こんど君の元いた直轄部隊の集まりがあるそれに参加してみると良い、日時は、8月15日午後2時
第一談話室で食事会を開くそうだ、でわ」
一通りの文に目をとおした神凪 斎は相変わらず無表情で機会的に
「お気遣いありがとうございます。一応予定を空けておきます」
と返し携帯をポケットに戻した。
メッセージアプリの通知音がすぐになったが
気にすることもなく海岸から離れる足を動かしていた。
この辺は自分の通っていた高校の近くの海でこの海で黄昏ていた身体を
門塚駅へと向かわせるため足を動かした。
海岸から離れ近くの飲食店を左に曲がったそこに、黒い影が視線に入った。
斎は今までの戦闘経験とセンスで只者では無いことをとっさに察知し立ち止まる。
黒い影はそこから動くようすもなくただそこにたっているだけだ。
「何の用だ?…」
極限に張り詰めすぐにでも戦闘へと移行できるように最大限の注意を払い言葉を出した。
黒い影は何の反応もなくただそこには立っているだけでなにも答えようとしない。
「悪いが、用があるなら言ってくれないか?俺は今急いでいる。」
そう続けて言葉を出した斎は以前張り詰めた空気を打破する気配は無いことを察知していた。時間が無駄だと感じ一歩踏み出そうとした刹那。
「お前は、この世界どう思う?」
突然の黒い影からの問いに不意をつかれた
斎は張り詰めた空気を感じとりながら
「どう、思うとは?」と返す。
「そのまんまの意味だ、この世界どう思う?
そう聞いたのだ、それ以下の意味もそれ以上の意味もない」
黒い影はまるで何かを試すかのように低く言葉を放つ。
「突然俺の前に殺気を出して現れたかと思えば、漠然としすぎる質問をしてくるとわな
お前は、何者だ?」
答えが返って来ないことなどわかっているがまずは相手の出方を伺うべく質問をしたのだろう。
「質問をしているのは俺だ、お前の意見を聞きたい、今俺が何者かなどどうでも良いことだろ?」
予想通りの言葉を確認した神凪 斎。
「いいや、俺にとってはあんたが何者なのかは重要だ、知らない奴に突然わけのわからないことを質問されても、答えるわけないだろ?」
「確かに、そうだな。いいだろう私はこの世界の一部である。今はな…そして名をエンド=ブレイク そして 00《セカンドゼロ》の称号を持つものだ。」
素直な自己紹介と、自らの称号まで明かしたこの男は何らかの組織にぞくしているのだろうか?、斎は様々な疑問を頭の中に列挙してゆく。相手に何の意図があるのかわからないがどちらにしろ時間をさほど気にしていないのだろう、情報を聞きだせる可能性が高いと悟った斎は更に質問を続けた。
「なるほど、お前の名前はわかったが、なぜ俺にそんな質問をする?」
「お前には、選ぶ権利があるからだ、」
エンド=ブレイクと名のる男は続けて言う
「我々の目的を達成するために、お前の力を借りたいもちろん強制ではないがな」
向こうは協力を要請している。どちらにせよこちらに分があることを確認した神凪 斎はもう少し情報を聞き出すため更に質問を続けた。
「俺の力を借りる?目的を達成するためにか…目的とはなんだ?」
「我らの目的はただ一つ、この世界を新たにすることだ、宗教や、国家、あるいは民族、
各個人が持つ家族などもそうだ人は生まれながらに何処かに属するという呪縛を持っている。またこれらの呪縛は、各々の価値観や考え方が違い、その為、他を受け入れることをしない。価値観によって奇しくも、戦争や、殺戮を行う今の世界、これらのことを全てなくすのだ。そう、家族や恋人、国、民族、などくだらぬコミュニティなど必要ない、そこにある憎しみや怒り嫉妬などはコミュニティ間で永遠と繰り返される。ならばどこにも属すことのない世界を作れば良い、そうすればすべてが救われる!いや世界でさえも必要がないのだ!」
明らかに馬鹿げていると判断した斎は相手に嘲笑の笑みを向けて口を開く。
「言ってることはだいたいわかった、ようするに。お前はこの世界に蔓延る戦争や憎しみ
嫉妬や嫌悪、愛や憎しみからおこる苦しみなどから皆を救う為に人間の生み出す負の感情なんかをなくす必要がある、その為にみんな一つにする必要があるってことか?でも今のままではそれは不可能、だから一度壊してこの世界を新たにしようってとこか……」
そこまで言うと一度間を空けてから再び口を開いた。
「まあ確かにこの世界は腐ってるって思うことは日常茶飯事さ、だけど一度腐った世界は元には戻せないし、俺はこの世界を今さらどうこうしようなんて思ってもないし、するつもりもない、諦めてるのさ」
相手の意見に賛同すると同時に否定の意見を入れたのには断れば相手がどう反応するのかをより安全に確認する為だ
「大雑把な解釈だがあながち間違ってはいない、お前も感じているのだろう?この世界は腐っていると。ならば諦める必要はない、創り治すことができるのだから。」
さもありなんとする言葉遣いで返したエンド=ブレイクはフードから覗かせる口を微笑の形にゆがませている。
「具体的な方法があるってことか?」
核心に迫るべく質問した斎だったが
「お前が我らに協力するのであればその全てを教えよう、無論ここでは不可能であると言うのは言うまでもないだろ?」
当然の回答に斎が下した決断は、
「今の所では胡散臭すぎて協力する気はない」
どの道見知らぬ相手が妙な提案をしてきた時点で決まっている事項だった
「そうか残念だ、悲しいかな、お前は我らの存在を知る唯一の存在になってしまった。」
エンド=ブレイクと名乗る男はそう言うと、殺気を更に出して斎の前に立ちはだかる
「でっ?どうしようってんだ?」
答えはわかっていたが、間を取り持つ為わざわざ言葉を出した 斎も最大レベルへの戦闘態勢に移行した。
「無論、消えてもらう……!」
そう言い終わるか終わらないかのタイミングでエンド=ブレイクは斎に襲いかかった
エンド=ブレイクは一瞬で斎の前に接近し右手で手刀を作り首めがけて横に振りかざした、ブレイクの手刀を左の視界に捉えた神凪 斎は上半身を反らしその手刀を躱し、おまけに敵の右手の手刀を左手で下から掴み相手の腹を蹴り上げた。
ドス!と言う鈍い音と共にブレイクの身体が浮いた、ゆうに15メートルは浮いただろうか
隣にあった飲食店の屋根を超えるほど浮いている。
更に敵に追撃を与えるべく、地面を蹴り上げ
垂直に跳躍して超速で接近する。
下から超速で接近してくる斎を視界にとらえたエンド=ブレイクは空中で高速に身体を回転させその勢いで斎の追撃を躱し
隣の建物の屋根に着地した。
「やはり一筋縄ではいかないか」着地し終えたばかりの神凪 斎を見下ろし口元を微笑の形に歪めてエンド=ブレイクは言う。
「そう言うことだ、」不敵に笑い返した神凪 斎はふと飲食店の周りのひとだかりに気づいた。
「くそっ、野次馬かまずいな。」ふと野次馬に注意を反らした瞬間をエンド=ブレイクは見逃さなかった。
すかさず、斎の命を刈り取るべく屋根から飛び降り速攻を繰り出す。
野次馬に気を取られて僅かに反応が遅れた 斎の頬ををエンド=ブレイクの連続で振りかざす手刀がかすめる。ピッと鮮血らしきものが飛び間一髪かわした 斎はバック転と後ろ跳びステップを駆使して高速で敵との距離を取る
「どうあっても、俺を殺したいってか?」
引きっつた苦笑いとともにエンド=ブレイクに言葉をかける
僅かにかすった手刀により血が流れている頬が痛々しく見える。
「そう言うことだ、」本気の殺意と相手の命を確実に取りに行く姿勢をそのまま宿した目で斎を見ていう
「それにお前だけ…では無い
観客が多くなってきたな、残念だが私の存在を見たものは全て消させてもらう。」
そう言うと凍てつくような殺意を宿した目は周りの野次馬を捉えた。
しまった! 斎はふと周りを見渡し完全に自分がドジをふんだことを悟った、敵の攻撃を回避する際戦闘の範囲を広げてしまい気づけば飲食店の前の大通りまで移動していた。
いつもは隠密行動で市街戦をしない為いつものくせがでたのだ。
「今更、お気づきのようだなお前は死ぬ必要もない人々まで巻き込んだんだそ?」
そう言葉を出したエンド=ブレイクと名のる男は右手を垂直に上に掲げると野次馬をジロリと舐め回すように見回す。
その間を見逃すほど斎も間抜けでは無い
すかさず敵との距離を詰めるべく高速でエンド=ブレイクの顔面に拳を突き出した。
エンド=ブレイクはその拳を左手一本で受け止める、依然右手を垂直に上に掲げている。
「くそっ!」攻撃を阻止された神凪 斎はすかさず手を振りほどき、右足で敵の横腹目掛けて蹴りを繰り出しそこから連続攻撃を繰り出す。
エンド=ブレイクは、それを全てヒラリと華麗にかわし、斎の腹へと飛び蹴りをお見舞いした。
「ぐっ!…」
苦痛の顔に歪む斎は凄まじいスピードと勢いで吹き飛んでゆく、その勢いはとどまることなく近くの住宅や駅、飲食店などをを次々に突き抜け、海へと吹っ飛んでいくと、そのまま海面に叩きつけられた斎は、数秒の間激しい水しぶきを上げ、まるで水切りの石のように海面を跳ねた。やがて高い水柱を上げたまま、斎は上がってこない。
エンド=ブレイクはニヤリと微笑の形に口を歪める。
「あっけなかったな……さて…」
そう言うと再び周りの野次馬を視界にとらえたエンド=ブレイクは睨め回すように見る。
上に掲げられた右手が白色の混じった紫色に光り出すと、雷を帯びる。バチバチと音を立ていよいよ激しさを増したかと思うと、その雷球は上へと瞬時に上昇した。
周りの野次馬たちはあっけにとられて逃げようとするものはいない。
エンド=ブレイクは再びニヤリと微笑の形に口を歪める。
「散れ、種に縛られし子羊ども…我らの浄化の糧となれ…」
その言葉と共に雷鳴が轟き野次馬の人々を襲う。次々に襲う雷にようやく状況を理解した人々は、恐怖の叫び声をあげ我先にと逃げ始める。
「ふはは、逃げまどえ…穢らわしき獣ども」
エンド=ブレイクは上に掲げていた右手を振り下ろした。すると中に浮いていた雷球は地面に向かって高速で降下してゆき地面に着弾する。とてつもない光と熱と爆風がその場所にある建物や人々を無残にも塵に変えてゆき、跡にはすべてを焼き尽くされ、何が焼けたかもわからないた臭いが混じりそこはまさに地獄絵図とかした。
「手はじめはこの程度で良いだろう…それに奴はあの程度で死ぬはずもないからな…」
そう言うと、エンド=ブレイクは足元に円形の光る妙な模様のようなもの発現させる。するとそれと同時に体が浮きはじめ、そのまま超速で斎の吹っ飛んで行った海へと向かって行った。
海中の中でしばらく瞑想していた神凪 斎はぷくぷくと息を少しずつ吐きながら浮上してゆく。海面に顔を出すと深呼吸する。
「ふぅー、少し派手に受けすぎたか?…それにあの光は……」
斎は市街地からもくもくと上がる煙を見ながら顔を歪める。
「早くここから離脱しねえとな……」
そう言うと海面から勢いよく上昇し、そのまま超速で飛行移動し始めた。
再びエンド=ブレイクが訪れたのは斎が完全に去った五分後のことだった。
「ほう…逃げ足だけは早いな…」
そう言うとエンド=ブレイクは瞬時に姿を消した。
第1章【終焉の幕開け】
第2話
訝しげな表情を浮かべ、指令室の席に座っているのはクロード=ケネフィトだ。
「つまり、敵と最初に接触したのは神凪 斎であるということか?…」
「はい、間違いありません本人の確認も取れております!」
覇気のある声で返答をしたのは特殊機密作戦部隊に入隊して6年目年の山田 隆だ。
クロード=ケネフィトは静かに立体映像の報告書を閉じる。
「今、神凪 斎はどこに?…」
「それが、今まさにそこにいらしておりまして…」
少し、言いにくそうな口調で返す。
「何っ?!そこにいるのか?早く入れてやれ!」
「はっはい!」
勢いよく返事すると、山田 隆は勢いよく司令官室を飛び出し、代わりに神凪 斎がひょこりと姿を見せた。機密部隊支給の黒のローブで全身を覆っている。その背中には金色の機密部隊の十字の紋章のデザインが施されている。特殊階級の隊員専用のものだ、
斎を視界に捉えるなりクロード=ケネフィトは口をひらく。
「とんだ、災難だったな…無事で何よりだ!」優しく微笑むような目を向けるクロード=ケネフィト。
「いえ、そんなことより伝えておかなきゃならない事が……」
斎はそう言うとクロード=ケネフィトの向かいの席に座る。
「改まって、私に敬語を使うのはよしたまえ…君らしくもない」
そう言った目はどこか親しみのある目をのぞかせている。
しばらく無表情でクロード=ケネフィトを見つめると、目を閉じて語り始める。
「んじゃ、遠慮なく話させてもらう、…俺が相対した敵についてだ…名をエンド=ブレイクと言っていた、それにセカンドゼロの称号を持つともな…」
目を閉じて淡々と語る斎の頬は未だにかさぶたが残っている。
「全く君は…まだ少しは可愛げがあっても良い年頃だろうに22だろう?…」
呆れたような口調で言葉をだすクロード=ケネフィト。
「敬語を使うのはよしたまえと言ったのはケネフィト司令官、あなただ……それに無駄話をしたくないしな…」
「無駄話をしたくない…か、まぁ良いだろうそれに、気になる言葉も出てきたところだしな…」
そう言うと奥の書斎に入って行く。
「気になる言葉?…何か知ってるのか?」
問う目を向ける斎。
「ああ、君の言っている事が正しければセカンドゼロ…その称号は聞いた事がある」
奥の書斎から声が返ってくる。
「いったい奴は何者だ、…それに何故俺に接触してきたんだ?」
続けて質問を重ねる斎。
「まあ、そう慌てなくても良いだろう今に資料を持ってくるさ…おっ!あったあったコレだな!……」
ガサガサと何かを箱から取り出す音が奥から聞こえたかと思うと、クロード=ケネフィトが奥から何かを抱えて歩いてきた。
「何だそれ?…」
埃まみれの書物に嫌悪感を表した表情で言葉を出す斎。
「見れば分かる…」
そう言うと斎の座っていたテーブルの上に勢いよく置く。
ドスンと言う音と埃が舞い斎は思わず咳き込んだ。
ゴホッ、ゴホッ!
「おい!司令官!もっと優しくおけよ!」
埃を手であおぎながら、言葉をだす。
「いや、すまないつい癖でね……さてこれを見てくれ」
いまだに咳き込んでいる斎を完全に無視して話を進めるクロード=ケネフィト。
「ったく、少しは気を……ゴホッ、つかえっての!」
苦しそうにもだえる斎。
「君は埃アレルギーでもあったかな?……」
キョトンとした表情で語るクロード=ケネフィト。
「別にアレルギーなくても、これは辛いっての!お前は何で平気なんだ?……」
ようやくおさまり始める埃の煙。
「はて、デリケートな一面もあるものなんだな、まあ、もうじきおさまるから我慢してくれたまえ、」そう言うと、クロード=ケネフィトは換気扇を回す。埃はかなり薄まってゆく。
斎は待ってましたと言わんばかりに深く息を吸い込み吐き出して言葉をだす。
「ふぅー、ったく!…んで?その本は?…」
不満をそのまま出した口調で言葉を出す
「これは、君の言っていたセカンドゼロと言う称号について、情報が載っているものだよ」
「だろうな.……だからその内容だよ…」
回りくどい言い方に苛立ちを募らせる斎。
「ああ、これだよ…」
そう言うと表紙を指差す。
「これ?…コレがなんだよ?」
「だからこれがセカンドゼロの称号についてだよ」
指差すそのデザインは三角形の頂点に一つ目が書いてある。
「はっ!?…セカンドゼロがこれ?」
呆れたようにそっぽを向く斎。
「まあまあ、話を聞きたまえこの書物は古代よりある書物の内容をこちらに複製したものだ、書物の名は 『新世界秩序』陰謀論者の間で有名な言葉だろう?……」
「知らねえょ、陰謀論なんざ……」
完全に聞く気をなくした斎は椅子から立ち上がると、コーヒーサーバーにカップをセットしスイッチを押す。
「君は相変わらず、厳しい性格だな…まあ良い聞きたまえ…この新世界秩序はある者達の壮大な計画の名称なのだよ…」
ページを捲りながら言葉を続ける。
「そのもの達はイルミナティと呼ばれる組織に姿を隠し決して表には姿を現さない……」
「へえ、……んで?……」
コーヒーをすすりながらあいづちを打つように返す斎。
クロード=ケネフィトは一つ咳払いをすると
続ける。
「ところで、話をする上で幾つか君に知っておいて欲しいことがあるのだが?……」
そう言うと、机の中から金属製の箱を取り出し開ける、そこにはありとあらゆるお菓子が入っていた。
「冗談だろ?……無駄話はしたくない……」
斎は眉を歪めるとコーヒーを飲みきった。
「セカンドゼロ、この事を知りたいのだろう?」
いつになく真剣な眼差しのクロード=ケネフィトだ。
その眼差しに何かを感じ取ったのか、一つため息をつくと言葉を出した斎。
「はぁ、なるべく簡潔に頼む…」
「分かっている、…でわ続けよう…まずはイルミナティなるものについてだ…」
そう言うと本をめくる
「イルミナティは1776年にアダム•ヴァイスハオプトにより創設された、啓蒙主義者の集まりだよ…」
「けいもうしゅぎしゃ?…なんだそれは?」
斎は疑問の声を返す。
「啓蒙…人々に正しい知識を与え、合理的な考えかたをするように、導くこと…」
クロード=ケネフィトはさらりと解説してみせる。
「はっ?……」
神凪 斎は更に混乱した表情を見せる。
「仕方がない、少しだけ歴史的な話になるが良いだろうか?…」
そう言うとクロード=ケネフィトは手元のティーポットからマグカップに紅茶を注ぎ込み
斎に差し出す。
「ハァー…わかったよ、あっ!砂糖を多めに入れといてくれ…頭を使う羽目になりそうだ」そう言うと、箱からクッキーを取り出して口に運ぶ。
「分かっている…さて、啓蒙思想というものについてだが、この思想は17世紀後半にイギリスで興り、その後18世紀のヨーロッパで主流となった……」
「へえーそれで?……」
「が…しかし少なくとも私の考えでは17世紀以前にもこのような思想あるいは活動が存在していたと言える…」
「その、正しい知識を与えて導く活動がか?…」
斎はクッキーを紅茶をで流し込みながら語る。
「ああ…その代表的な出来事いや、事件と言うべきかななんだか分かるかい?…」
「なんだよ……」
もったいぶったような口調に急かす斎。
「ガリレオ・ガリレイの宗教裁判だよ…かれは確かな科学的確証のもとコペルニクスの唱えた地動説を支持し主張した……」
「有名な話だな、…」
クッキーに手を伸ばす斎。
「ならば、彼がどうなったのかも知っているだろう?……」
問う目を向けるクロード=ケネフィト。
「有罪判決だろ?……くだらねぇ…」
ぶっきらぼうに返答する斎。
「くだらない…か、それはその判決に対しての言葉かな?…」
少しばかり微笑むクロード=ケネフィト。
「んっ?…ああ、いやそれもだけど地動説って確かな真理に対してガリレオはよくもその判決を受け入れたなって思ってよ…」
「なるほど……」
少し驚きの表情をのぞかせて返したクロード=ケネフィトは続けて口を開く。
「君の考えには私もうなずける……だが彼には判決を受け入れなければならない訳があったのだよ…」
そこまで語るとケネフィトは一口紅茶を啜りクッキーをくわえた斎の横顔に目を向けて再び口を開く。
「彼は熱心なキリスト教徒だったのだよ…そのため、殉教する事を望まなかった彼はその判決を受け入れなければならなかった…さぞ悔しかった事だろう」
そこまで語ると再び紅茶を啜るケネフィト。
「んで?それとセカンドゼロって言う称号のどこに関連があるんだ?」
クッキーを食べながら言葉を出す斎。
「それをこれから説明しようと思っていた…さて、啓蒙主義者の集まりのイルミナティは1776年アダム・ヴァイスハオプトにより創設されたと言った…しかしそれはおそらく表向きの話だ………」
そこまで語ると斎の横顔に再び視線を向ける。
「まさかと思うが、ガリレオまでもイルミナティって言う組織に所属していた…なんて話じゃないだろうな?」
クッキーをつまみながら目だけをケネフィトに向け言葉を出す斎。
「半分正解だ…ガリレオはイルミナティと言う組織名では活動しておらず、ただの啓蒙主義者の集まりの一員だったからだ…しかしこれこそがイルミナティの母体となるのだよ…」
「母体?…それなら別にアダム・ヴァイスハオプトによる創設は表向きでもなんでもないだろう?…正確な話だ」
疑問の表情をケネフィトに向ける、斎。
「まあ聞きたまえ、ガリレオを含む啓蒙主義者の集まりは自らの組織をを啓示を受けた者たちとしている……そもそもイルミナティはラテン語で「光に照らされた者」と言う意味で啓蒙活動とはあまり関係があるとは思えない、ではなぜアダム・ヴォイスハオプト…いや、彼らは自らをこのイルミナティ、つまりは「光に照らされた者」としたのか・・・」
そこまで語ると斎の横顔に目を向ける。
「なんのことかさっぱりだ…自らの組織を啓示を受けた者たちとしている啓蒙主義者の集団が組織の名をイルミナティとした理由がそんなに重要か?あるいは今回の件と関係あるのかよ?」
斎はクロード=ケネフィトに対して向き直るとクッキーをつまみ口に運ぶ。
「大有りだよ……」
クロード=ケネフィトは目を閉じながら語る
「イルミナティ…ラテン語で『光に照らさた者』という意味なのはさっきもいった通りだが、ここから更に話は繋がってゆく……」
そう言うとそれまで閉じていた目を開け斎の目をまっすぐに見返した。
「なっ、なんだよ……」
突如として真剣な眼差しを向けられ少したじろぐ斎。
「イルミナティ…『光に照らされた者』この光とは「啓示」をさし照らされた者というのは、それらを「受けた者」という事だ…いわゆる啓示を光としているのだよ…つまり彼らは『光に照らされた者』=『啓示を受けた者』という意味を込めてイルミナティとしたのだよ」
そこまで語るとクロード=ケネフィトは紅茶を一口啜った。
「言われてみれば…まあその程度は予想がつく、まさかそれがおしまいじゃねえだろうな?……」
斎もクッキーを食べながらクロード=ケネフィトに真剣な眼差しを向ける。
「とんでもない、この程度では話は終わらないさ…ここからだよミソは…」
そう言うとクロード=ケネフィトは机の引き出しから書類をだす。
「これを知っているか?……」
そう言うとペラペラとページをめくっていた手を止めて、ある絵に指をさした。
「なんだこれ?……」
斎はしかめ面をしながら覗き込む。
「なんだと思う?……」
微笑を含んだ表情で問うクロード=ケネフィト。
「知らねえょ!!…良いから教えろよ!」
斎は苛立った口調で返す。
「これはね、ルシファー、いわゆる悪魔だよ」
意外にもすぐに返ってきた返事はどこか気の抜けたワードから始まった。
「はっ?…あくま?……」
「その通りだ、何か問題があったのか?オカルトの類は苦手か?……」
問う目を向けるクロード=ケネフィト
「あんた…俺をなめちゃいねぇよな?…」
ワナワナ手を震わせて、怒りを押し殺す斎。
「良かった、オカルトの類は苦手だったらどうしようかなと思ったよ……ん?どうした?」
いつもの調子でクロード=ケネフィトは斎に言葉をかける。
「どうしたかって?…お前本気で言ってんのか?!!ペラペラ喋ったかと思えば最後にはそんな存在しないような悪魔だの何だのと言われたこっちはもうブチ切れ寸前だ!」
斎はキーっと興奮した目をクロード=ケネフィトに向けて言う。
しかし…
「君の方こそ…私を見くびらないでもらいたい、話は最後まで聞くべきだと思うが?…」
予想に反した重みのある口調で返すクロード=ケネフィト。
時折見せるこの真剣さに再び不意をつかれた斎は「まだ何かあるのか?…」と続きを促していた。
「さっきの話に戻す…ガリレオはイルミナティという組織名での活動はしてはいなかったと語ったのは事実だ…だがそれはあくまで彼らの組織の中だけの話だ…つまり問題は時の権力者の支配下にあった世間は彼らをどういうふうに語っていたのか」
意味深な言葉を語るクロード=ケネフィトは更に真剣な面持ちで斎を見る。
「どういう意味だ?…」
問う目を向ける斎。
「あの当時、ガリレオの組織がおこなっていたのはいわゆる科学による啓蒙活動だ…しかし時の権力はそれを認めはしなかった…」
「教会の連中か?…」
真剣な面持ちで言葉を返す斎。
「ご名答…どんなに確たる証拠があったとしてもそれは教会の教理とは反していた、つまりもしも、ガリレオの唱えた地動説を認めれば、地球は世界の中心ではなくなってしまうため…教会の教義そのものが根本から揺らぎついにはこれまで築いてきた地位や名誉を失うこととなる…ここまで言えば予想はつくだろう?」
クロード=ケネフィトはそこまで語るとクッキーを一つつまみ口に運ぶ。
当時の様子をイメージしているのだろう、瞳をゆっくり閉じた斎は静かに言葉を発した。
「まさしく人間の欲によって歪められた真実ってわけだ…おおかた教会の連中は教理に反するものを悪魔崇拝者だのとでっち上げ科学による啓蒙活動を排斥するため、ルシファーを用いたってところか?…」
「その通りだよ…教会は悪魔の長であるルシファーを崇拝する集団であると世に発信したんだ、そうする事で彼らを迫害したのだよ」
クロード=ケネフィトは語りながらは椅子から立ち上がるとコーヒーサーバーにカップをセットし注ぎ始めた。
それまで瞼の裏に移していた当時のイメージを頭から消し去ると目を開けた斎はクロード=ケネフィトを目で追いながら口を開く
「司令官、まだ腑に落ちない事がある…イルミナティと言う組織の名はどこからやってきたんだ?…」
「おお、…重要なところを君から聞いてくるとは…」
そう言うとサーバーから抽出したばかりのコーヒーを啜る。
「良いから、答えろよ…」
呆れたような表情でぶっきらぼうに返す斎。
「それについてはルシファーについて知っていれば容易に想像できる…Luciferはラテン語で「明けの明星」をさし、「光をもたらす者」という意味を持つのだよつまり、「光をもたらす者」の「光に照らされた者」、いわゆるイルミナティはここからきた名前なのだよ…つまりは当時の教会が迫害する際に使った組織名というわけだ」
「なるほどな、結局は教会の連中によって世間に勝手にすりこまれた組織名ってわけか…だとしたら…アダム・ヴォイスハオプトはなぜわざわざそんないわくつきの組織名をそのまま採用したんだ?…」
空になったカップに紅茶を注ぎながら言葉を出す斎。
「それにも歴史的な関係がある…当時の教会の理不尽な迫害に彼らの組織は武力による対抗を試みた者もいたのだよ…だが結局は実行される事はなかった、しかし彼らは教会の迫害に対して、対立的な立場をとる事を決意した為、教会の呼称した組織名を皮肉で使ったのだよ…そして、政治的な弾圧により消滅した」
そこまで語るとクロード=ケネフィトはコーヒーを啜る。
それに対して問う目を向け口を開く斎。
「それじゃ、セカンドゼロってのはいったい?」
「セカンドゼロ…それはイルミナティの階級呼称だよ…」
「階級呼称?…」
「ああ、セカンドゼロはイルミナティの組織の中の、No.2その下の階級はトリプルゼロ
ちなみにNo.1階級の呼称は、『マスターゼロ』と呼称している。」
本を閉じながら続けざまに語るクロード=ケネフィト。
「消滅したはずの組織がなぜ?…」
眉を寄せてしかめつらで『新世界秩序』の書物に目を向ける斎。
「わからない、だが確かに現ドイツ、当時で言うとヴァイエルン王国で消滅したはずだ…
」
クロード=ケネフィトの目を直視し言葉を出した斎。
「奴らの狙いは世界を作り変えることだ…それができる程の組織なのか?」
「わからない…ただ、世界の新体制を望む組織だ…あまり良い事ではなさそうだ、君の潜伏していた高校…門塚高校もいまは焼けているらしい、非常に好戦的な組織である事は間違いない…」
気の毒そうな表情で言葉を出すクロード=ケネフィト。
「知ってるさ、別にどうでもい良い…」
さらりととんでも無いことを語る斎は椅子から立ち上がるとその場を去る為にクロード=ケネフィトに背を向けた。
「そうか…やはり君はこの世界から立つのか?」
後ろ姿をまっすぐに見つめるクロード=ケネフィト.まるで斎の言葉を知っていたかのようだ。
「んっ?…聞いてたのか?…」
半分だけ顔をケネフィトに向けて応答する。
「ああ、次元神から直接な…」
「へえ〜」
「それに今まで君が所属していたアクア空間の特殊高度戦術部隊に推薦したのは私だ…当然次の異動先も把握している……」
「んじゃ、いちいち確認するまでもねぇだろ?」
全身をクロード=ケネフィトに向けて語る斎
「……今度はこの三次元世界を出て行くというのか?…そこまでしたところで何か変わるわけでもあるまい」
微笑の表情で言葉を返すケネフィト。
そこまで語ると二人の間に一時の沈黙が横たわった。
その沈黙を破ったのは意外にも斎である。
「知ってる…でもさ、宇宙空間から出ても俺の気持ちは何一つわからなかった…それどころか醜いものばかりが目立つ世界だった…だから、次元神のもとで働くのも良いかなってよ」
斎はそこまで語るとクロード=ケネフィトに向けていた横顔を再び背ける。
「三次元世界の守護者となるのか?…」
押し殺すように優しく言葉を出したケネフィト。
「ああ?まあ形だけな、悪く無いだろ?…」
そう言うと斎は歩き始める。
「斎、特殊戦力高等兵!……」
その言葉は斎が扉に手をかけたその時だった
乾いた空気にビリっと響く声だ。
「なっ!なんだよ!……」
突然の古い階級呼称に戸惑いと驚きの表情で言葉を返す。
「君は…わざとやられたんだろ?…エンド=ブレイクに…」
その言葉に一瞬、大きな瞳をさらに大きくした斎は、一呼吸置いて、言葉を出した。
「んなわけあるかよ!…根拠は?」
クロード=ケネフィトはその言葉を予想していたのか、微笑を浮かべて口を開いた。
「破壊神デフォイトスを撃破した君だ…いやそうでなくもこれまでの戦いでそれは容易に想像がつく」
その言葉に斎は微笑すると、口を開いた。
「今更隠してもな……その通り、俺にとっては今更未練も無いこの三次元世界を救うだのと語ってたよ、エンド=ブレイクは…だったら俺が阻む権利は無いからな、せめて相手に気づかれないようやられたふりをした…」
斎はそこまで語ると、扉を開ける。
「君は…本当に良かったのか?それで?…」
悲しみの色をその瞳に移して語るクロード=ケネフィト。
それに対して、斎は、
「…………」
無言にのせて背中を向けたまま手をあげて応じると、そのまま扉の向うに消えっていった。
第1章【終焉の幕開け】
第3話
機密部隊、総司令官室を出た斎はその足で待ち合わせの場所、某ハンバーガー専門店に向かうため、機密部隊の地下シェルターを抜けるためのテレポートステーションに足を運んでいた。
「イツキ君!…」
その声は斎がテレポートステーションのカプセルに乗り込み行き先選択画面をタップした時だ。
〈行き先決定完了、行き先座標、1069にテレポートします…〉
「ちょっと!…まってくれ!イツキ君!…」
慌ててステーションに駆け込んできたその男は、なりふりかまわず停止ボタンを押した
〈外部より停止コードのアクセスがありました…外部より停止コードのアクセスがありました…外部より停止コードのアクセスがありました〉
同じ言葉を繰り返す電子音声を停止した斎はカプセルを開けるとムッとした表情で膝に手をついて息を切らしているその男に口を開いた。
「いったいなんなんだ?…山田隊長…」
ぶっきらぼうな口調だ。
その言葉に申し訳なさそうな苦笑いを含めた表情で山田 隆は返答する。
「はは、いや何…そのちょっとだけ話がしたくてね…」
しかし、斎は不機嫌そうな表情と無関心の目で無言の訴えを山田 隆に主張する。
「…………」
「はっ、はは…やっぱり怒ってる?…」
苦笑いというよりも、引きつったにやけ顏で斎の顔を恐る恐る見上げる、山田 隆。
「…別に怒ってなんかないさ、ただ約束があるから用なら早く済ませて欲しい」
またしてもぶっきらぼうに返す斎は話を聞くためカプセルから降りる。
「助かるよ……」
と返すと、呼吸を整えねてからステーションのベンチを指差すと
「じゃあ、良いかな?…」といって歩き始めた。
早々に切り上げたい斎はベンチに腰を下ろすなり本題を聞き出すべく言葉を出した。
「んで?…話ってなんだ?…山田隊長…」
「イヤァ、助かるよ本当!司令官に渡しておいてと言われたものを渡し忘れてて…」
そう語ると、戦闘服の内ポケットから茶封筒を取り出すと、斎に手渡した。
それを受け取るなり斎は問う言葉をだす。
「これは?…」
「んっ?…僕は何もわからないんだ…ただ渡すよう頼まれただけで…」
すっとぼけた表情で頭をポリポリかきながら語る。
「開けても…良いよな?…」
何処か警戒のある口調で確認する斎。
「もちろん!君宛だから、良いと思う…」
ニコニコ顏と共にかえす。
「んじゃ、」
斎はそう言うと、人差し指の先端にに小さなエネルギーの光る玉をだすとそれをレーザ状に変化させて一瞬のうちに封筒切る。
中身を取り出し、しばしの沈黙が流れると。
読み進めていた斎の表情は凄まじい勢いで曇ってゆく。
「おいおいおい!…」
「どうしたんだい?…」
山田 隆は斎の表情を心配そうに見つめる。
「やっぱな、任務だとよ…ったく最後の最後でおっかなびっくりだぜ…」
呆れた表情で返す。
「任務?…君は今はうちの部隊じゃ…」
怪訝な表情で返す山田 隆。
「いや、確かにそうだけどあいつと契約する時に、無所属の場合は協力関係を徹底すると言う内容を締結してる…」
そう言うと同封された契約書を山田 隆の顔の前に突き出す。
「たっ確かに…でも君は無所属じゃ、三次元世界から出て、境界の起動部隊、次元神直属の精鋭戦闘部隊に配属してるんじゃ?」
またしてもはてなマークを目に宿して質問をする山田 隆。
「チームケタクのこと?…あれは4日後に配属だ…つまりは今は無所属ってわけだな…」
斎はそう言いながら、書状を封筒にしまうと懐にしまう。
「まさか…ケネフィト司令官がここまでの鬼畜さを発揮されるなんて…」
引いた表情で斎に言葉をかける。
「今に始まった事じゃないさ…それに任務内容もそこそこだしな…」
すでに諦めがついていたのか、斎は目を閉じ微笑の表情で言葉をかえす。
その言葉にハッとした表情を見せる山田 隆。
「まさか任務内容って、今回のエンド=ブレイクの件?…」
「いや、まったく関係無いとは言い切れないが…薄いだろうな…」
ベンチから立ち上がる動作と共にかえす斎。
「じゃあ一体?…」
意外な返答に怪訝な表情を見せる山田 隆。
「超ローカルだよ、都市の内包型空間に連れ去られた、当時10歳の男の子の身柄の保護だ…」
「内包型空間って同じ宇宙空間に存在しているのにもかかわらず、空間的な隔離が生じているものだろ?…それって霊民族の居住空間だったりするんじゃ?……」
疑問の声をだす山田 隆。
「みたいだな、だけど…何処にいても無事が確認されていて、救出しないわけにはいかないんだろう…この程度なら小隊を送り込んでもいけただろうによ…」
「いったいなぜ?…君には簡単すぎる…」
不思議そうな表情で言葉をだす山田 隆。
「だからこそだろ…多忙な今は少しでも隊員を休めさせたいだろうから、こう言うのにいちいち人数をかけるのも勿体無いってよ…」
苦笑いを含めた表情で返す。
その言葉を受けハッとした表情を見せる山田 隆。
「なるほど!君にとっては楽だからこそ…君に任せて、他の隊員を休ませる…か!」
関心した表情で言葉をだす。
「そう言う事だ…んじゃまあ、この件もあるし俺はそろそろ行く…」
そう言うと斎はベンチから立ち上がると、書状を懐にしまう。
「あっ!、チョット!…」
山田 隆は立ち上がる斎を再び引き止めた。
「なんだ?…もう行かなきゃならない、」
山田 隆に無愛想に振り返る斎。
振り返る斎の顔を真正面に捉えると目をそらして口を開く山田 隆。
「いやぁ、その……」
「なんなんだ?…何もないならもう行く…」
斎はそう言うとその場を離れる一歩を踏み出した、その瞬間だった。
「ありがとうっ!……」
その声はテレポートステーションじゅうに響き渡る声だった。
突然の大声に斎は全身を大きく跳ね上がらせた。
「なっ、なんだよ!いきなり!…」
思いっきり不意をつかれた斎は怒りそのものをのせた口調で言葉をかえす。
「ごめん!…だけどどうしてもお礼が言いたかったんだ!…」
真っ直ぐに斎を見返す山田 隆。
「お礼?…なんのだよ!…」
不機嫌そのものの口調でかえす。
しかし、山田 隆は真っ直ぐに斎の顔を捉えたまま真剣そのものの目で言葉をだす。
「6年前のあの日…僕が機密部隊に入隊して初任務だったあの事件!君は最後まで僕を信じてあの少女を殺さなかった…」
その言葉に斎は苦笑いしどこか優しい瞳で口を開いた。
「いや、あれはもう良いし、それにクラスメイトを殺さなかったのは俺にも幾つか疑問があったからだ…」
しかし、山田 隆は尚も真剣な面持ちで言葉をかえす口を開く。
「それでもだよ!君は当時クラスメイトだった東 奈緒の頭の中にあった兵器の設計図のチップを守るために、殺そうと思えばいつでも殺せてた!それなのに…
上層部の指令よりも下っ端だった僕の意見を受け止めてくれた…本当に嬉かったんだ!」
真っ直ぐな山田 隆の言葉に斎は瞳を静かに閉じて口を開く。
「山田隊長……俺は…」
斎が言葉を続けようとしたその時、山田 隆はそれを遮り二枚の写真を斎に差し出した。
「斎くん!…これを見て欲しい!」
写真を受け取ると驚きの表情で言葉をだす斎
「これは?……まさか、あんた!…」
「ああ、昨年の7月に結婚してね…」
鼻の下を擦りながら照れ臭そうに語る山田 隆。
「そんなの一枚目を見りゃわかるさ…俺が聞きたいのは……あんた、子供ができたのか?」
どこか、優しい声音と瞳で言葉をかえす斎。
「ああ、今では一児の父だよ!…生まれてきたこの子には胸を張って父親で居られる…それもこれも、君のおかげだよ…あの時君のおかげで僕は『大切な何かを守ること』に対して妥協せずにいられた、だから自分に誇りがもてる…」
頬をわずかに赤めて言葉を返す。
しかし斎は…。
「かいかぶりすぎだよ…俺は何もしちゃいない…あんたがあの時何を感じたのか知らないが、俺は別に何をしたと言うわけではない、ただ、任務を遂行したにすぎない」
そう語る斎の目はどこか無気力にも見える。
「でも…!」
斎の目に虚ろな影を見たのかすぐに言葉を返そうと口を開いた。
「それでも…君は僕にとっ、」
山田 隆が言葉を続けようとした刹那、斎はそれを遮り言葉を出していた。
「もう!…もうやめにしよう…」
山田 隆の言葉を遮り、強めの口調で話の終止符を告げる斎の目は、かつての心を喪失していた時と同じ目だ。
「俺には…関係のない事だ……」
無気力に言葉を重ねるとその場を離れる足を踏み出していた。その足取りはどこか重たく、足元に伸びる影が未だに拭えない心の中の闇を引きずって歩いているようだ。
その様子に山田 隆は…。
「斎くん!…今度家にきてくれ!…」
斎の闇を垣間見た山田 隆が咄嗟に出た言葉だった。
しかし、斎は立ち止まる事なくテレポートステーションのカプセルに足を踏み入れる。
「き、気が向いた時でも良いんだ…娘の顔を見て欲しい…」
そう語る山田 隆の顔は悲しみの顔に歪んでいる。
「いつでも良いから!…みんなで待っているよ!…」
そこまで語ると斎の背中を見送る山田 隆。
〈行き先決定完了、行き先座標、1069にテレポートします…〉
そのアナウンスが流れるとほぼ同時に、斎は山田 隆へと身体を向ける、
「山田隊長!……」
「えっ!?…」
突然の大声に少し戸惑う山田 隆は斎の顔を凝視する。
山田 隆の顔を視線のさきに捉えた斎は穏やかな口調で
「ありがとう……」
ただ、そう一言返すと、フッとその場からテレポートした。
第1章【終焉の幕開け】
第4話
機密部隊の地下シェルターから出た神凪 斎は
無気力な面持ちで機密部隊の建物の出口をくぐっていた。
「随分と遅かったのぉ、……」
待ち構えいたのだろうか、出口をくぐるとそのすぐわきに次元神ケタクの姿があった
「うおっ!ケタクのじっちゃん?…なんでこんなとこいんだ?…」
突然姿を現した次元神ケタクに対して驚きの色を隠せないでいる斎。
「どうもこうも、お主が遅いから迎えにきたのじゃ…何をしておった?…」
次元神ケタクは白髪の長い顎鬚をさすりながらかたる
「……、、別に、何も」
無愛想に返答する斎は正面に立つ次元神ケタクのわきをするりと抜けるように歩き始めた。
「何か、野暮用でもできたのかのお?」
「ちょっとな…、任務を任された…」、
斎はスタスタと歩きながら語る。
「ほうほう、任務とな…」、
スタスタと歩きながら語る斎とは対照的に次元神ケタクは斎と対面した時のまままったく動かず返答する。
「して…、任務とは?…」
「………、、、」
斎は無言で次元神ケタクとの距離をどんどん離してゆく。
その様子に耐えかねたのか、歩く斎の目の前に瞬間移動し回り込む次元神ケタク。
「うおっ!…なんだよ!」
突然目のまえに現れた次元神ケタクにまたしても驚く斎。
「任務とはなんじゃと聞いたのじゃ!」
手に持った扇子で斎のデコを軽くこつく次元神ケタク。
「痛い!…いや普通に痛い!…何しやがる!」
斎はコツかれた額を抑え不機嫌に返答する。
「何をするつもりももないわい、…質問に答えるのじゃ、…」
お茶の間でくつろいでいるかのような口調で返す。
「たいした任務じゃない!…都市の内包型空間に連れ去られた、男の子を保護するってだけだ!…」
叫び口調で次元神ケタクに返す。
「なるほどのぉ〜…ふむふむ、…」
妙に納得したような口調で目を閉じゆっくりと頷く。
「ったく!いちいち、人をコツくな!…」
落ち着いた次元神ケタクとは正反対にイライラをぶつける斎。
しかし次元神ケタクはというと。
「この任務、お主にとってはある種のターニングポイントになるかもしれぬぞ?…」
顎鬚をさするながら優雅に返答する。
よほど小突かれたことが嫌だったのだろう。
すぐに言葉をかえす口をひらいた。
「いやっ!あんた話聞いてたか?…ターニングポイントになるかもしれぬぞ〜じゃないんだよ!…まずは謝れ!…」
未だ落ち着きを取り戻せない様子の斎。
「わしの神通力でわかるのじゃ…今回の任務はとんでもないことになると…そして、「大切なもの」という気持ちを改めて知るそしてその苦しみを学ぶ…だが、必ずしもお主が苦しむわけではないようじゃのぉ〜」
相変わらずのマイペースぶりで語る次元神ケタクしかしその目はどこか厳格な雰囲気を漂わせ、空中を見つめている。
その様子に斎は怪訝な表情をのぞかせる
「ケタクのじっちゃん?…」
「まあ良い機会じゃの、それもこれもお主の試練じゃ…恐らくは心を取り戻したことを深く後悔するやもしれぬ…」
再び、お茶の間でくつろぐかのような雰囲気に戻ると、斎の目を見つめる、その目はどこか親しみのある優しい瞳だ。
その目を真っ直ぐ受け止めた斎は一度瞼をゆっくり閉じ口を開く。
「意味のわからないことを…感情を取り戻したことを後悔?そんなもん今に始まったことじゃない…」
呆れたような口調で返す。
「ふむ、今回はその後悔の念をも上回る…それはお主にとって良き事でもあり、悪い事でもあるのぉ…いや、良くない経験でも、今のお主から再び成長する糧となるのじゃ…」
次元神ケタクは相変わらずのお茶の間口調だ。その様子に斎は一つため息をつくと口をひらいた。
「あんたの神通力は本当いつも漠然としすぎだな、だいたい当たった事なんて、殆どないしな…」
そう言うと身体をクルリと右に90度向け次元神ケタクに左の横顏を向ける。その横顔はどこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。
「お主は今年23、もう、そろそろ、人の心に寄り添う事も覚えねばならぬ…」
顎鬚をさすりながら語る
「はっ?そんなこと言われなくても理解してるつもりだ…それに正式には来年の3月で成人だ!」
斎はぶっきらぼうに言葉をかえし、ケタクに体を向け直すと続けて口を開いた。
「と言うか本題に入ってくれよ…わざわざそんな話するために、俺を急かしにきたわけじゃないだろ?…」
本題を促す斎。
しかし…
「ふむふむ、お主はやはり甘いのぉ〜、人の心とは理解するものではない…」
相変わらずのマイペースぶりを発揮するケタクに対して再び苛立ちを募らせる斎。
「あ?…」
しかし次元神ケタクは続けて口を開く。
「心とは理解するものにあらず…理解とは読んで字の如く理を解することであるからのぉ〜心とは理にあらず…すなわち理屈で理解するものではないのじゃよ…」
次元神ケタクの様子ににわなわな肩を震わせる斎。
「どおしたのじゃ?…」
ようやく斎の様子がおかしいことに気づいたケタクはお茶の間口調で口を開いた。
「どおしたのじゃ?…だと?…」
斎はそこまで語ると一度大きく息を吸い込んだ。そして…。
「あんたといい、ケネフィトといい、人をバカにするのも大概にしろ!…」
いよいよ怒りのマグマが吹上げケタクに怒声を浴びせた斎は呆然としているケタクに向かって言葉を続ける。
「何が人の心に寄り添うだ!…そんなこと言われなくても解ってんだよ!それに俺はもう感情を取り戻してるんだぞ?…人の粗探しみたいによ!やってられねぇよ!」
そう言い放つと、斎はその場所から立ち去る足を踏み出した。
しかし…
『待つのじゃ!…』
威厳と畏怖の念を込めたかのような口調で斎の頭の中に言葉が響く。
斎はその言葉で立ち止まると、後ろにいる次元神ケタクにふりかえる。
「なんだよ?…」
そう言葉を放つ斎の目はどこか悲しくそして恐ろしいほど冷たい。
その視線を正面から受け止める次元神ケタクは、柔らかな笑みを浮かべながら優しい声色で口を開いた。
「お主は確かに心を取り戻した…じゃがそれはほんの機能的な部分でしかないのじゃよ…喜怒哀楽程度じゃろう…」
「それがどうした?…それも心が作り出す立派な感情だ…」
そう言い放つ斎はさらに冷たい視線をケタクに向ける。
「なるほどのぉ〜、しかし、それは心のほんの一部じゃ…本来時間をかけて築かれてゆく感情には程遠い…」
ケタクはの言葉にさらに怒りをおびた視線をを浴びせると斎は口を開いた。
「感情の築き?…馬鹿げだことを…あんたはいかれてる…感情は人間が本来持っている機能だ…それは築くものじゃない…」
いよいよ、冷徹そのものを宿した瞳と冷えた口調で言葉をかえす斎。
次元神ケタクはそれを受け止め深く頷くと再び柔らかな口調で何かを諭すように語り始めた。
「感情とは時とともに変わってゆく、時にその変化は成長とも呼ばれる…」
斎はその言葉を鼻で笑うと口を開いた。
「言ったはずだ…感情は築くものじゃない…心の作り出す喜怒哀楽とは本来人の持つ不変的な機能だ…それが成長する?…馬鹿げた言葉だな…」
そこまで語ると斎はその場を立ち去る足を踏み出した。門の隊員に背中の紋章を見せると、すんなりと門が開く。スタスタと歩き機密部隊の敷地内から出ていく。
ケタクはその背中に施されてある十字架の紋章を見つめると優しい声音で言葉を出した。
「お主は、大切なものはあるかのぉ?…」
すると斎はそれまで動かしていた足をピタリと止める。
突然動きを止めた斎を怪訝そうな表情で見つめる門番の隊員。
「あの…どうされました?…」
片側に立っていた門番の隊員が心配したのだろう、声をかけた。しかし斎は全く返答しない。この二人の門番には次元神の姿はおろか言葉も聞こえていないのだろう。
「緒方さん?…どうされました?…」
怪訝な表情で見つめていた隊員も声をかける。
「黙れ……」
「へ?…」
突然の暴言に戸惑いの色を隠せない二人の隊員。
「大切なものだと?…そんなものとっくの昔に無くしてる…」
「神凪さん…あのぉ、ど、どうされました…」もう一人の隊員が苦笑いの表情で言葉をかける。
しかし、二人の隊員をよそに斎は言葉をだす。
「これ以上はあんたとの会話は無意味だ…失せろ…」
そう冷たく言い放つ斎の目は冷徹そのものを具現化したかのようだ。
その言葉と目つきに二人の隊員はただ事ではない事を察知したのか、あるいは恐怖を抱いたのか。そのどちらともなのか、定かではないが一歩後ずさりしその場を離れた。
「しっ、失礼致しました…」
二人の隊員が去った後、次元神ケタクは再び口を開く。
「落ち着くのじゃ……お主は多感な時期に感情を無くしていた…仕方ない事なのじゃよ」
「失せろ…そう言ったはずだ…」
凄まじい殺気と闘気をまとっている。そのエネルギーは止まる事なく、いよいよ地響きにまで変わってゆく。
次元神ケタクはそれでもその場を離れようとしない。
「分かっておる…お主も本当は気付いていたのじゃろう?欠落している感情を…」
まるで斎の心に訴えかけるかのようだ。
「ふん…あんた、本当にイカれてるよ…俺の心は健全だ…欠落なんかしちゃいない…」
斎はそう冷たく言い放つとそれまで出していた闘気と殺気を消し、その場所からフッと姿を消した。
第1章【終焉の幕開け】
第4話
まばゆいばかりの光を放ち途切れることない映像を垂れ流しにしている巨大スクリーンは、今日もスクランブル交差点を行き交う人々を見下ろしている。
街ゆく人々は華やかに着飾るものや、ラフな格好な者たち、時に笑い飛ばしたりしながら歩行するものや、スーツ姿で携帯電話端末を片手に今日もせっせと何かに追われるかのように足を動かしているサラリーマン、学校をサボってきたのか制服姿もちらほら見て取れる。混沌としたこの街、渋谷区はまるで巨大な生命体であるかのような錯覚すら覚える。そしてこの街はは今日も31℃の気温を保っていた。
「とんでもないのですね渋谷区というのは…」
襟元に白のフリルがついたグレーのワンピースにイエローのカーディガンをゆったりと着こなした女が言う。
「ああ、混沌そのものだな…無駄に人もおおい…」
それに対して応答したのは神凪 斎だ。
胸にワンポイントが入ったグレーのTシャツに白の七分袖のジャケットを着こなしベージュの長いパンツという格好は斎の徹底的に精錬された肉体を際立たせている。見た目は細く見えるが、七分袖から覗く腕の筋肉は無駄のない機能的な肉付きだ。
「ん?…それにしても…お前は誰?なんで俺と一緒に来てるんだ?…」
額に滲む汗を手で拭いながら眉を寄せて言葉を出す斎。
「聞いてなかったのですか?…ケタク様からの至上命令ですよ?」
斎とは対照的に涼しげな口調で言葉を返したのはマギルドラド空間出身のメリス=ブラッドレッドだ。
「聞いてなかったも何も今回は機密部隊の事案だ…なんで次元神ケタクから人員が送り込まれる?」
怪訝な表情をメリス=ブラッドレッドに向ける。
「さあ…私は神凪 斎の支援をするよう指令を受けただけです…」
そう言うと、斎の顔を覗き込むメリス=ブラッドレッド。
「なんだ?…俺の顔に何か付いてるか?…」
頭一つ下の整ったメリスの顔に無愛想に言葉を出す斎。
「目付きが少し悪い感じです…怖いくらいだわ…」
そう語るメリス=ブラッドレッドはそれまで斎の右側から覗き込んでいた姿勢をひょいっと斎の正面に回り込み見上げるように覗き込む。
「別にどうもこうもない…少し寝不足なだけだ…」
嫌悪のある目をメリスに向け、ぶっきらぼうに返答する。ほうっておいて欲しいのだろう。
「そうですか?…一応私はあなたの補助係りだからなにかあったらすぐに言ってください…」
斎の様子に少し遠慮したのだろうか。メリスはそれ以上は踏み込むことをやめ、斎のみき側に戻る。
「了解…」
そう返すと斎は横にいるメリス=ブラッドレッドを見下ろす。
「それで…お前は誰?…」
その言葉はまるで関心のないような口調で放たれた。
「え…ああ、自己紹介がまだだったわ私はメリス=ブラッドレッド、マギルドラド空間出身です」
あまりにも冷たい口調に戸惑いの表情を隠せないメリスは斎の視線から逃げるように目をそらした。
「ああ、そうか…名前はよくわかった…」
そう言うと混沌とした人混みと共に横断歩道を渡り始めた。
「あっ!ちょっと待ってください…」
急激に動き始める渋谷区の勢いに遅れるように斎を追いかけるメリス=ブラッドレッド。
ようやく斎の横に追いついた時にはメリスは斎と同様に額に汗を滲ませている。
「いきなり歩き始めるなんて…ここの人々はどうかしてるわ…」
メリス=ブラッドレッドは宇宙空間にきて初めて信号というシステムを体験した為に突然動きだしたように感じたのだろう。
「ちょっと?…あなたもですよ?突然動きだしてあんまりです…」
不満の声を左斜め前の斎の後ろ姿に向けて放つ。
「………」
「無視ですか!…わかったわよ!…」
斎の態度に不満を募らせたまま斎の後を追い、暫く沈黙のまま歩き続けるメリス。
その突然の呼びかけは交差点を渡り終えるまで後わずかの時だった。
「メリス=ブラッドレッド……」
「えっ?…呼びました?…」
不意の呼びかけに歩調を早めを斎の横に並ぶメリス。
斎は横に追いついたメリスにたいして視線を注ぐと
「信号…」
そう言いながら信号機を指差した。
「し…しんごう?…」
斎の指差した方向を見ながら聞きなれない言葉を口にだして確認する。
「そう…信号…あれが青になると俺たちは一斉に動き出す…んで赤の時は止まる…」
微笑の表情でメリスに言葉をかける。
歩きながら信号機を凝視しているメリスは後ろに流れてゆく信号機の形を目に焼き付けながら妙に納得したような口調で言葉を出す。
「じゃあ勝手に動き出したわけじゃないんだ…」
「そういう事だな…今度から喚くなよ…」
そう語ると歩くスピードを上げスタスタと歩いて行く斎。
「ちょっ…」
負けじと追うメリスは斎の横に追いつくとその整った横顔に視線を注ぎ声をだした。
「あ、ありがとうございます…」
「はっ?…何が?…」
突然礼を言われた事に対して怪訝な表情を見せる斎。
メリスは大きくはっきりした目を斎に向けて言葉を返す。
「えっ?…だって、信号機のこと教えてくれたから…」
斎はメリスの視線と共に帰ってきた言葉に対してハッとした表情を見せると決まり悪そうにメリスから視線を逸らした。
「いや…喚かれると一緒にいて恥ずかしいからだ…」
「そっそんな…知らなかったんだから仕方ないじゃないですか…」
よほど恥ずかしかったのかブラウンのミディアムヘアのメリス=ブラッドレッドはそのストレートの毛先にわずかにカールがかかった艶のある髪に赤面した表情を隠しす。しかし斎はそんなメリスの事など気にならない様子で歩き続ける。メリスはその様子にむすっとした表情を覗かせる。
「また、置いてけぼりですか!…分かりましたよ!」
そう語ると黙って歩く斎と同様に沈黙したまま歩き始めた。
交差点を渡り終えた斎はFRONT Qのビルの前にあるTSUTAYAの文字の真下までスタスタと歩いて行くと突然メリスに真剣な顔を向け言葉を出した。
「ところでメリス=ブラッドレッド…お前、戦闘はできるのか?…」
「戦闘?!!!…」
思わぬ質問に大きな瞳をさらに大きくして聞き返す。
「ああ、戦闘だ…これから俺たちは内包型空間に入る…当然何が起こるかわからないわけだ」
そう語る斎はくるりと振り向き全身をメリスに向け、真剣な眼差しを注ぐ。
メリスは斎の真剣な眼差しを正面からとらえると、微笑の表情と共に口を開いた。
「お言葉ですけど、私って弱いって思われてます?…」
そう語るメリスの口調は不敵に続ける。さっきとはうって変わった雰囲気を出している。
「私はマギルドラド空間の中でも随一の戦闘一家である、ブラッドレッド家の出…戦闘は私の得意分野です…」
そこまで語るとメリスは斎の瞳か目をそらした。斎はメリスの言葉に関心の目を向けると
「そうか…」
と一言返す。
「それじゃ…待った無しでいくぞ?…」
斎はメリスに背を向けると七分袖のジャケットを襟から整え着直す。
「はい!…」
元気に挨拶したメリスはふと怪訝な表情をのぞかせた。
「でも…どうやって?…」
「簡単だ…内包型の空間ってのは単純に空間的に隔離されてるだけだから実際は同じ場所に存在する…つまりここ渋谷区と重複して存在してるんだ、」
「それって、排他原理を無視してませんか?…」
またしても怪訝な表情で質問をぶつけるメリス。
「排他原理?…しらねぇよそんなの…ただ内包型空間に行くにはそこと重複してる片方の空間で一定の順序で行動すりゃたどり着ける…」
「理解はできないけどとにかくその順序を踏めば入れるんですね…」
納得のいかない表情をのぞかせたメリスが言う。
「ああ、まあとにかく順番に道を辿ってけば言い訳だ…準備は良いか?…」
面倒くさそうに言葉を返す斎。
「もう!…何がなんだかわかりませんが、行きましょう!!」
納得こそしていないものの、覚悟を決めた口調で返す。
「んじゃいくぞ…」
斎はそう返すと内包型空間へ向かう足を踏み出した。一歩一歩あるきながら斎はケタクの言葉を思い出し、悪い予感を頭の中に浮かべていた。
【わしの神通力でわかるのじゃ…今回の任務はとんでもないことになると…そして、「大切なもの」という気持ちを改めて知るそしてその苦しみを学ぶ…」】
【恐らくは心を取り戻したことを深く後悔するやもしれぬ…」】
ケタクの言葉を思い出しながら嫌な予感を払拭するように歩く足に力を込めて進んでゆく
。
メリスは先を急ぐ斎の背中に一時のあいだ決意を固めた目を向けるとケタクの言葉を思い出していた。
【あやつを1人にしてはならん…どうか頼んだぞ…】
(絶対に…闇に落とさせたりなんかしない…)
そうなんども心の中で呟き斎のあとを力強く歩き始めた。
第1章
【終焉の幕開け】
完