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来訪者

作者: 高梨吉胤

とりあえず書いてみたよ

あなたはそこでもう一度振り返ると、小さく小さく手を振った。


日曜日、午前。外は雨だ。もうまもなく訪れる彼のために、あなたはやかんを火にかける。飴色に薄汚れたアルマイトの底に、青白い舌が小さく踊る。あなたの目は磨りガラスの表面をときおりすっと走ってゆく水滴を追いかけている。


昨晩、あなたはこの部屋に帰ってきて、電気も点けずにベッドに倒れ込んだのだと思う。


テーブルの下に投げ捨てられた鞄をつま先でたぐり寄せ、そのなかにはなにもないことを確認したあなたは、ゆっくりとあたりを見回して、三和土の上に転がっている四角い箱を取り上げる。


もちろんそこにはなにもいない。


物欲しそうな目で小さな空虚を覗き込んでいたあなたは、手にした箱を背後に放り投げる。飛んで行った箱は壁とゴミ箱の隙間にかたことかたと断末魔の声を上げて沈んで行く。


やかんのふたがあなたに湯が沸いたことを知らせてくる。

裏のトタン屋根に雨粒がはじけてだんだんだんと頭を叩く。


あなたは右手の抽き出しからすでに封を切った小箱を取り出すと、左の手で鞄のなかをもう一度探るだろう。探し物はでも、そこにはない。だからあなたはあきらめ顔で小箱を抽き出しに放り込み、沸騰したやかんをコンロからおろすしかない。しかしポットはどこにやったのか。


だんだんだんと、今度は表のトタン板に雨粒がはじけて背中を叩く。


あなたは振り返って玄関の薄暗がりを見やる。

まだ彼はそこにいない。


昨夜の恰好のままだったことに気付いたあなたは、湿ったはだえの上にわだかまるシャツとパンツを脱ぎ捨てて、部屋の真ん中に仁王立ちになる。下着も替えなければならないだろう。あなたの目はクローゼットの扉の上を這い回り、古ぼけたブラウン管の上に乗っかった置き時計の秒針を追って回り出す。


ものうげな午後はあと10分で始まるだろう。

その頃には彼はそこにいるはずだ。


あなたはそこでもう一度振り返ると、小さく小さく手を振った。

続かないよ

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