作家は策家
とある作家はあまりにも執筆ペースが早いので、「速筆」というレッテルがはられた。
ゴーストライターを雇ってるのではないか、などと噂されているが、そんなことはなかった。
しっかりと自分で書いていたのだ。次から次へと次から次へと作品を世に送り出していった。
しかし、あまりにも書き続けていたのでついに筆がとまった。そこに次々と話が飛び込んでくる。
「すいません、うちの原稿もお願いします」
「今までにあなたにないテーマで次は書いていただけませんか?」
「新刊の装幀はこれでいいですか?」
「単行本の解説はどなたがよろしいですか?」
「校正されたもの手直ししてください」
耐えきれなくなった作家は逆上した。
「ええい、君たちは私に求めすぎなんだよ! なんで速筆小説家として私を売り出すんだ!そんなもんーー」
そこまで言って作家は言葉を呑み込んだ。すると態度を急にかえ、落ち着いた表情で口をひらいた。
「次は単行本で今までにないテーマで出してみよう。解説は……そうだな、親しいHさんにお願いしておくか。ただし、書いたからには何がなんでも発売してくれ」
そしてそれはすぐに出来上がった。分厚い単行本になった。ページを開くと、文章がギッシリと書かれていた。内容は、作家仲間の中で、今までの作品の中からゴーストライターの書いた作品を探し、その作家を締めあげるという内容だった。
しかしそれは二十ページほどで終わっていた。そして残りの数百ページはHさんによる作家と作家仲間の解説だった。さらに何十ページにも及ぶ作家と作家仲間の作品の題名がズラリと紹介されていた。
作家は満面の笑みをつくった。
「どうだいこれで? 今までにないだろう 」
「却下ですね」
単行本の解説の長い人がいたので思いつきましたが、なんだかどこかにありそうなネタですね。
書き終わって思ったんですが、アイディアを思いついたら、あとは機械が書いてしまう。機械が文章のパターンを読みこんで作者自身も納得してしまうものを書きあげる。そんな時代が来てしまうのかという不安が込み上げました。