二十八話
その怒涛の弾幕と、弾丸を発射した時の煙で辺り一面が白く染まる。
それでも弾丸の雨がやむことはない。
そのまま、すべてのマシンガンの残段数がゼロになるまで弾丸がやむことはなかった。
「撃ち方止めっ!」
そんな指揮官の声が響く。
撃ち方止めも何も、全員のマガジンに入っている弾丸がゼロになってしまったのでもう撃つのはやめている。
「装填!」
指揮官の声に合わせて、その場にいる真っ黒な装束を着ている男たち全員がマガジンの交換作業を行う。見事な手際で交換作業は十秒と経たないうちに終わる。
マガジンの交換が終わってももうもうとした煙が辺りには立ち込めている。
そんな時。男たちは一陣の風が吹いたかのような錯覚を受ける。
「?」
男たちは首を捻ったり、隣と顔を見合わせたりしている。
そんな男たちの頭に何か水のようなものが降ってきている。
それに疑問を抱きながらも、男たちは気を引き締めてエレベーターのほうに銃口を向けている。
ヒュウッ。
本当に風が吹き、辺り一帯の煙が後方へと流されていく。
「これで終わりですか? つまらないですね」
エレベータの中には飄々とした姿の嵐がいた。死んでいないどころか、傷一つ、土埃一つついてはいなかった。
そこで、男たちは自分たちにいつまでたっても指揮官からの指示がないことに疑問を抱き、指揮官に視線を向ける。
指揮官のほうを向いて、初めてさっき自分たちにあたっていた水のようなものの正体がわかった。
それは指揮官の血だった。
指揮官の首から上は存在せず、切断された首からは大量の血を噴水のように流していた。
それに驚愕しながらも、男たちは目の前にいる敵に銃口を向け、引き金を引く。
だが、その敵が死ぬこともなければ、銃口から弾丸が出ることもなかった。
「さぁ、私を殺してくださいませ。できるのならば」
何故なら、男たち全員の人差し指が両手共に切り落とされていたからだ。
「っ!」
「さようなら」
敵の淡々とした声が聞こえたかと思うと、男たちの視界は宙を舞っていた。
嵐は表情を変えもせず、黒装束の一団を全滅させていた。
マシンガンの掃射ぐらいで死ねるほど、嵐は人間ではない。嵐を殺したいのならミニガンでも持ってくるべきだろう。
さっき、嵐を襲った弾丸は全て嵐に当たらなかった。嵐が自身の異能で自分の周囲に風の流れを作り出し、それによって弾丸を逸らしていたからである。
イメージとしては飛行機の翼のような感じだろうか? あんな感じで風の流れを作ったのである。
これが上位異能者と呼ばれる嵐の実力。最初から半ば予想できることとはいえ、一瞬であの弾丸を避けるのに最適な防御を瞬間的に作ってしまった。
そんな嵐を敵対組織が呼ぶときのコードネームは『騒嵐』あるいは『テンペスト』だ。
その歩む先のものを徹底的に薙ぎ払っていくさまは天災である嵐とそう変わりはしない。故に呼ばれるようになった異名である。
死体を見ても表情を変えず、何の感慨も抱いていないような嵐は死体を踏みつけながら奥へと進む。
ある程度の内部構造は協力者から伝えられていたが、たぶん全く役に立たないだろう。
何故なら、
「聞いていた通りですね」
情報とは入口からして全く違っていたからだ。
『デイブレイカーズ』の本部の俗称は自動迷宮。完全にオートで内部構造が変わるのだ。そんな場所の地形情報なんてものはあってないが如しだろう。
「ま、やることは変わりませんか」
嵐が独語した通り、嵐のすることはここの内部構造がわからなかろうと、変わることはありはしない。
邪魔者を全部排除したうえで、未来を救出する。それだけだ。
そんなことを考えながら、死体を足蹴にしつつ奥へと進む。内部構造がわからずとも、道はあるのだ。一番奥まで進めば自ずとたどり着けるだろう。
時間をかけることは未来の身を危険にさらすことになってしまうかもしれないが。
そのことに思い至っても嵐の表情にこれと言った変化はなかったが、嵐の周囲に渦巻く大気が攻撃的になり、周囲の壁に傷をつけ始めた。
「……急がなくてはな」




